フランスで50年以上愛されている国民的な絵本『プチ・ニコラ』。
大統領選挙で、ニコラ・サルコジ氏が勝利した際、『プチ・ニコラが大統領に!』という記事が躍ったほど、フランス人なら誰もが知っている定番です。
・・・といっても、もちろんこれは、フランス人ならではの少し皮肉った表現。絵本のニコラは、「小さな男の子、少年」だから'petit='プチ(小さな)・ニコラ'なのですが、サルコジ大統領の場合は「低身長のニコラ」という意味で、有名なこの絵本のタイトルとかけて、新聞に『プチ・ニコラ』と書かれてしまった訳です・・・
いずれにせよ、60年代のごくありふれた少年の生活をユーモアたっぷりに描いたこの絵本は、現在も広く親しまれている定番で、日本でいう所のサザエさん的な存在です。
2009年に実写化された映画版『プチ・ニコラ』も、60年代の古き良きパリを舞台に繰り広げられるストーリーで、何よりその世界の全てがかわいらしいので、なんとなく気分が沈みがちの時や、「今日は重々しい映画は観たくないな」という気分の時に、是非おススメしたい作品です。
さて、映画の前半部分でのこと。ある日、ニコラのパパは、勤める会社の社長さんから「働き者のパパの息子さんに」とおもちゃを贈られます。ニコラにお礼状を書かせたいパパはひと苦労。なぜなら、社長さんにはsoutenu ストゥニュ(上品な言い回しのフランス語のこと、詳しくは前記事「映画に出てくるフランス語」をご参照ください)で書かなければいけないからです!
何を書こうにも、
「こう書いたらfamilierファミリエじゃないかな!?」
と言葉選びに四苦八苦します。
そんな中、「素敵な贈り物」というのに、
beau cadeau ボー カドー
(beau ボーは英語のbeautifulで、美しい、見事なという意味の形容詞、cadeau カドーは英語のpresentで贈り物という意味の名詞) と、
merveilleux cadeau メルヴェイユー カドー
(Merveilleuxは英語のmervellousで、素晴らしいという意味の形容詞)
とでは、どちらがより適切かと迷うパパに、
ニコラはchouette cadeauシュエット カドー!と提案します。
そう、’chouette’シュエットとは、ファミリエで「素敵」という意味なのです。これはフランスで頻繁に用いられる表現で、この映画の中でも繰り返し出てきます。「まあ、素敵!」とか、「あ、それいいね!」と言いたい時、
‘c’est chouette !’
セ シュエット!
と言えば、とても自然な表現が出来るのです。
ところで、フランス語をご存じの方の中には、’chouette シュエット’=フクロウが、なぜファミリエだと「素敵」という意味になるのか、不思議に思われたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そう、‘chouette シュエット’の第一義は、フクロウなのです。
フランス人にこれを聞いても、たいていは
「フクロウのchouetteと、素敵という意味のchouetteには何の関係もないんじゃないかな?」とか、
「chouetteを素敵という意味で使いだしたのはつい最近のことで、せいぜい戦後の造語でしょ?」
という答えが返ってきます。
でも実は、その歴史は大変古く、18世紀の小説には既にこの表現がみられるのです。その語源には諸説ありますが、有力なのは以下の2説。
一つは、売春婦たちが客待ちをしてキョロキョロと周囲を見渡す様がフクロウのようであったことから、「魅力的な女性」を表すのに「フクロウ」と言い始めたというもの。そしてもう一つは、ギリシャの女神、アテーナーの聖鳥がフクロウであることに由来するというものです。
個人的には、後者の説にたった場合、ここで同じギリシア神話の女神の中でも、「素敵」なことを表すのに、美の女神であるアプロディーテーではなく、知恵・芸術・戦略を司る女神アテーナーが引用された点がとても面白いなと感じています。確かに、「素敵」なことは、多様な分野に渡り、多種の要素に基づくもの。現代フランス語のc'est chouette! セ・シュエット!も、単に「美しいもの」を評価するというよりは、多種多様な場面において「あ、それ素敵!」と感じた時に用いることが出来る表現です。アテーナー語源説には、フランス人の多様な価値観を尊重する精神が表れているのかもしれません。
プチ・ニコラ [DVD]/マキシム・ゴダール,ヴァレリー・ルメルシエ,カド・メラッド
¥4,179
Amazon.co.jp
大統領選挙で、ニコラ・サルコジ氏が勝利した際、『プチ・ニコラが大統領に!』という記事が躍ったほど、フランス人なら誰もが知っている定番です。
・・・といっても、もちろんこれは、フランス人ならではの少し皮肉った表現。絵本のニコラは、「小さな男の子、少年」だから'petit='プチ(小さな)・ニコラ'なのですが、サルコジ大統領の場合は「低身長のニコラ」という意味で、有名なこの絵本のタイトルとかけて、新聞に『プチ・ニコラ』と書かれてしまった訳です・・・
いずれにせよ、60年代のごくありふれた少年の生活をユーモアたっぷりに描いたこの絵本は、現在も広く親しまれている定番で、日本でいう所のサザエさん的な存在です。
2009年に実写化された映画版『プチ・ニコラ』も、60年代の古き良きパリを舞台に繰り広げられるストーリーで、何よりその世界の全てがかわいらしいので、なんとなく気分が沈みがちの時や、「今日は重々しい映画は観たくないな」という気分の時に、是非おススメしたい作品です。
さて、映画の前半部分でのこと。ある日、ニコラのパパは、勤める会社の社長さんから「働き者のパパの息子さんに」とおもちゃを贈られます。ニコラにお礼状を書かせたいパパはひと苦労。なぜなら、社長さんにはsoutenu ストゥニュ(上品な言い回しのフランス語のこと、詳しくは前記事「映画に出てくるフランス語」をご参照ください)で書かなければいけないからです!
何を書こうにも、
「こう書いたらfamilierファミリエじゃないかな!?」
と言葉選びに四苦八苦します。
そんな中、「素敵な贈り物」というのに、
beau cadeau ボー カドー
(beau ボーは英語のbeautifulで、美しい、見事なという意味の形容詞、cadeau カドーは英語のpresentで贈り物という意味の名詞) と、
merveilleux cadeau メルヴェイユー カドー
(Merveilleuxは英語のmervellousで、素晴らしいという意味の形容詞)
とでは、どちらがより適切かと迷うパパに、
ニコラはchouette cadeauシュエット カドー!と提案します。
そう、’chouette’シュエットとは、ファミリエで「素敵」という意味なのです。これはフランスで頻繁に用いられる表現で、この映画の中でも繰り返し出てきます。「まあ、素敵!」とか、「あ、それいいね!」と言いたい時、
‘c’est chouette !’
セ シュエット!
と言えば、とても自然な表現が出来るのです。
ところで、フランス語をご存じの方の中には、’chouette シュエット’=フクロウが、なぜファミリエだと「素敵」という意味になるのか、不思議に思われたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そう、‘chouette シュエット’の第一義は、フクロウなのです。
フランス人にこれを聞いても、たいていは
「フクロウのchouetteと、素敵という意味のchouetteには何の関係もないんじゃないかな?」とか、
「chouetteを素敵という意味で使いだしたのはつい最近のことで、せいぜい戦後の造語でしょ?」
という答えが返ってきます。
でも実は、その歴史は大変古く、18世紀の小説には既にこの表現がみられるのです。その語源には諸説ありますが、有力なのは以下の2説。
一つは、売春婦たちが客待ちをしてキョロキョロと周囲を見渡す様がフクロウのようであったことから、「魅力的な女性」を表すのに「フクロウ」と言い始めたというもの。そしてもう一つは、ギリシャの女神、アテーナーの聖鳥がフクロウであることに由来するというものです。
個人的には、後者の説にたった場合、ここで同じギリシア神話の女神の中でも、「素敵」なことを表すのに、美の女神であるアプロディーテーではなく、知恵・芸術・戦略を司る女神アテーナーが引用された点がとても面白いなと感じています。確かに、「素敵」なことは、多様な分野に渡り、多種の要素に基づくもの。現代フランス語のc'est chouette! セ・シュエット!も、単に「美しいもの」を評価するというよりは、多種多様な場面において「あ、それ素敵!」と感じた時に用いることが出来る表現です。アテーナー語源説には、フランス人の多様な価値観を尊重する精神が表れているのかもしれません。
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