『飛んでイスタンブール』は、昭和歌謡のヒット曲。ちなみにイスタンブールはシルクロード西端の都市。別役さんがこの曲を、鼻歌交じりに執筆されていたのかは分かりませんが、『飛んで 孫悟空』では、三蔵法師一行がシルクロードを西へ向かいます。お話はぶっ飛んだナンセンスユーモアの世界。
若い頃、別役さんの『あーぶくたった、にいたった』を読んだ時の衝撃が忘れられない。大好きな戯曲だ。ピッコロ劇団に入団すれば、別役さんの書き下ろし作品に出演出来るかも知れないというのも、志望動機だった。別役さんは劇団代表も務められた。終演後の廊下でお会いするとたいていは、「うん。志の高い舞台だった」というお言葉を頂いた。演技についても細やかなご指導を頂いたし、ある芝居では、「横から見ると耳のうしろあたりが若くみえるんだよ」とメイクのダメも頂いた。ヘビースモーカーの別役さん、酒席ではウーロン茶を飲まれていた。居酒屋のママの気遣いでホットコーヒーを出されたときは、はにかみながら美味しそうに飲まれていた。モスクワで開催されたチェーホフ演劇祭では『場所と思い出』で参加。帰国の朝、別役さんと皆で、チェーホフのお墓に行くことになったが、朝まで飲んでた僕はおいてかれた。
もっとお話したかった。もっと演劇や戯曲についてぶつければよかった。

今年は12月まで『飛んで 孫悟空』の上演が続く。「志の高い舞台」を目指したい。

孫高宏