有価証券報告書だけでMD&Aを作成してよいのか? | IRコンサルタントのオフィシャルブログ

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IRコンサルタントとしての日々の気付きを中心に綴っています。IR実務は財務知識や経営だけを知っていれば済むものではなく、意外と幅広い知識が必要です。これ、誰に聞いたらよいの?というちょっとした疑問のお役に立てば幸いです。

アニュアルレポートのMD&Aを、有価証券報告書をもとに作成する際の注意事項については以前取り上げました。その際に、有価証券報告書の参照箇所が「業績等の概要」と「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の2箇所に分かれている点は改善して欲しいところですと申し上げていた点については、2018年から「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」になり、1箇所にまとまった形に改められたことについては、既にご存知かと思います。これによって、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」を部分的に割愛、編集することでとりあえずのMD&A原稿は作成できます。

 

ただし、これはMD&Aとしては最低限の内容であることも知っておく必要があります。海外のアニュアルレポートのMD&Aはより充実しています。アメリカのForm 10-Kのように、法定の開示書類が充実している場合は、それをそのままMD&Aとして採用しても内容的に見劣りすることはありませんが、日本の有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」は、名称こそMD&Aにならっていますが、その内容は非常に簡潔なものになっています。

 

最近の統合報告書の流れもあり、MD&Aは以前ほど重視されていない傾向が見られます。本日(2018年11月26日)の日本経済新聞のアニュアルレポートアウォードの告知広告の中で、審査委員長の青山学院大学大学院の北川哲雄教授が、「最近の一部の風潮に財務情報の分析の意義を軽視する向きがあるが、それは間違っていると思う。」とコメントされていますが、MD&A自体が割愛されている統合報告書も散見される状況では、ご意見に賛同せざるを得ません。

 

MD&Aは、以前より、財務マターでありながら、英文のアニュアルレポートにおいては監査対象ではなく、経理部が積極的に関与するものではなく、かつ、その性質上、IR部門だけで企画、作成するには、労力がかかるため敬遠されがちでした。そうした中でも一部の業種では、アニュアルレポート独自のMD&Aを作成していましたが、統合報告書になると、コンサルタントや制作会社自体が、従来のアニュアルレポートを手がけていないケースも多く、企画の段階で、MD&Aの割愛または有価証券報告書のコピーでいきましょうとしてしまうこともあるようです。なかには、株主通信の財務分析のようなものもあり、いくら、簡潔がよしとされるにしても、個人投資家向けみたいな内容になっているものもあります。アニュアルレポートのMD&Aとは何か?と今一度、見直してみる時期に差しかかっているようです。