花のふる日は62

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 男たちも研二を認めて、「やっときたか」と口々に声をかけた
「おう、千雪、元気しとったか?」
 端正だが一見恐持ての、だが優しい目を研二は千雪に向けた。
「お前こそや」
 千雪が研二に駆け寄ると、研二は大きな手で千雪の頭をくしゃっと撫でた。
 それだけで、千雪の中にあった様々な不安要素がどこかへ押しやられた。
 研二の目はあの日と同じように、自分に向けられているように感じたからだ。
「研二くん? 綾小路です」
 京助は極めて紳士的に、にこやかに二人の前に立った。
 研二とは大方目線は変わらない。
「ああ、研二、大学の先輩の京助や」
「どうも」
 千雪に京助を紹介された研二は軽く頭を下げ、まじまじと京助を見つめた。
「どうぞ、何を飲む? ビール、焼酎、ウイスキー、ワイン」
「ほな、ビール、頼んます」
 京助が研二のグラスにビールを注ぎ終わる前に、島田が「こっちや、研二、千雪も」と二人を呼んだ。
 研二がソファに座り、千雪がその後ろに立つと、「久々の義経弁慶やな」と誰からともなくそんな言葉がかけられた。
「何だ? その、義経、弁慶っての」
 さり気なく千雪の横に立つ京助が問いかけた。
「こいつ、研二、この通り、でかくて恐持てですやろ? おまけに柔道段持ちで強いし、いつも千雪が突っ走ったり、何や、やらかしたりする時は、身体張って前に立ちはだかっとったし」
 話題は一気に盛り上がる。
「そうそう、いつか、二年の時やったか、三年に結構なワルがいてて」
「あれやろ? たまに学校の生徒脅して金巻き上げたりしてた」
「こいつ、千雪、現場に居合わせていきなり、やめろて、身の程知らずにそのワルに突っかかっていきよって」
 周りもあったあった、と頷く。
「あたりまえやろ? あの三年、ヘラヘラしよって!」
 千雪もその時のことを思い出してまた眉をひそめる。
「喧嘩になりそうになったところへ、研二が現れて、そのワル、研二に挑もうとしたけど、結局諦めたいう」
「こいつとやりおうて、勝算なんかあるわけないのにな」
 みんながゲラゲラと笑う。
「何や、俺だけやと、まるで弱いみたいやんか」
 ムッとした顔で千雪は抗議する。
「まあまあ、千雪の行くとこ、大抵研二がひっついてたよってな、義経弁慶て、桜陽女学院のあたりでも結構有名やったみたいやで」
「おじょーさまに千雪が追っかけられてもな、そこへこいつが怖い顔して現れてみ、近寄られへん」
 また、場がわっと沸いた。
「なるほど、研二くん、そんなに強いんだ?」
 京助が言葉を挟むと、そうそう、とみんなが一様に頷く。
「インターハイでもかなりええとこ、いったよな?」
「警察からもスカウトきてたやん」
 研二は言われるまま、苦笑を浮かべているだけだ。
「警察には行かなかったわけか?」
「こいつのうち、こいつで三代目の和菓子屋なんです。俺はうちを継ぐから、いうて」
 京助の問いに答えたのは島田だ。

 


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