雪の街5

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  ACT 2
 

 高校三年の時、一度だけ清隆の母親に会ったことがある。
 学園祭の打ち上げでクラスメイト数人と押しかけ、文字通り飲めや歌えの宴会でそのまま皆寝込んでしまった。
 清隆の母親は、周りに迷惑をかけないならと何人でも来ていいよという、豪快な人だった。
 それでも何だか、朔也としては今回清隆の家に泊まるというのは回避したいのだ。
 好き勝手やっている自分でも、清隆の親と面と向うには、幾分かの後ろめたさがある。
 本当なら、可愛い嫁さんでも連れてきて欲しいと思っているに違いないのに。
「苦手なんだよ、人んち泊まるとかって」
「んなこと言ってられねーさ、ま、行ってみればわかるって」
 清隆はさっさと決めてしまい、しかもクリスマスイブには自分もT市に行く、仕事が終わらなければとんぼ返りしてでも行く、と言う。
「何でそんなことする必要があるんだよ」
 朔也は胡乱な目を清隆に向けた。
「お前、去年のイブも仕事で会えなかったんだぞ。今年こそ二人きりでいたいと思わねーのかよ」
「別にイブじゃなくても、俺らクリスチャンじゃねーし」
「お前って案外、ロマンがねーんだよ! クリスチャンだろうがなかろうが、知ったこっちゃないの。イブっていやあ、二人で過すって、相場が決まってっだろ? この日本じゃあ」
 そう、浅黒い肌の、大男がのたまう。
 案外、この男はロマンチストらしい。
 朔也は苦笑いする。
 ソファに並んで座り、ゆっくり酒を酌み交す。
 最近、そんな二人の時間が緩やかな幸せだ。
 やがて大きな腕が朔也を引き寄せて抱きしめる。
 この男の腕の中はすこぶる居心地がいいのだ。
 できれば、少しでも長く、触れていたい腕なのだが。
「向こう、もう、雪、積もってるかな……」
 朔也がポツリと口にする。
「こないだ、元気に電話した時はまだそんな降ってないって言ってたけど」
「どうせ、寒い、寒いって文句言うくせに」
 清隆が朔也の言葉に茶々を入れる。
「雪は好きなんだよ! それにスキーやるのに雪なけりゃ話にならないだろ」
 朔也は清隆のバカにした言い回しにむっとする。
「スキー、何年ぶりだって? お前、怪我すんなよ、映画の撮影始まるんだろ」
「いつからお前、マネージャーになったんだよ! 西本の手先め」
「何だよ、その言い方! 俺はお前のことを心配して……大体、元気のやつ、お前に馴れ馴れしすぎんだよ!」
「るせーな、耳元でぎゃあぎゃあ、俺が、元気になついてんの」
「おい、朔也ぁ……」
 途端、大きな男が情けない声を出す。
 ふふんと笑い、朔也はグラスに手をのばす。
 久しぶりの郷里である。
 じいちゃんの墓にも行ってこなけりゃな。
 郷里というといささか語弊があるかもしれない。
 朔也がT市で暮したのは中学と高校の六年間だからだ。

 


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