労働弁護士戸田マイクの「人生応援団長」

労働弁護士戸田マイクの「人生応援団長」

労働事件の専門弁護士、「マイク」こと戸田哲のブログです。
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労働弁護士戸田マイクです。
 
今日は、大手の証券・金融系の会社あたりで見られる留学費用の問題をテーマにします。
あ、大企業だけじゃないですよ。
 
会社の研修費用や、資格取得学校の費用の負担なんかは、色々な会社で問題となるテーマです。
さて、ご相談。
 
【相談です】
 
新入社員のマイク君は、大手証券会社に転職しました。
将来を嘱望されたのか、留学候補生に選ばれたわけです。
しかも留学は、希望すれば、会社が数千万の費用全額持ち!
 
マイク「これは行かない手はない!行きます!」
 
ということで、マイクは2年間アメリカに留学し、MBA資格を取得したわけです。
帰国後、資格を活かしてバリバリ働いたわけですが・・・
 
マイク「最近この会社でやることもやり尽くしたし、MBA資格あればもっと待遇の良い会社に行けるよな・・・よし!転職しよう!」
 
ということで、マイクは、帰国後2年経たずして会社を退職しました
 
ところが、黙っていないのは会社です。
会社「マイク君。うちの規則を知ってるね。留学を終えて5年以内に退職した場合は、留学費用の全額をすぐに払ってもらう必要がある。さあ留学費用全額を耳を揃えて返したたまえ!」
 
マイク「ええーーー!!」
 
で、もう一つ、小さな会社でもよくある場面。
 
「会社で実施した新人研修の費用を返せ!」
「資格を取らせる学校に通わせてやったんだから全額返せ!」
 
マイク「聞いてないよ!!」
 
さて、ありがちな話ですが、これって許されるのでしょうか?
 
 
【ここから解説】
 
まず問題となるのは労働基準法16条です。
 
労働基準法16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
 
さっきの話で、たとえば、
 
「5年以内に退職したら、留学費用(研修費用)を損害賠償として請求する」
 
という規定だったら、思いっきり労働基準法16条に反するのでアウトです。
 
社長「あ!それなら」
 
労働者に留学費用や研修費用を貸し付けた形にすればOKですよね!?」
「それで、5年以上勤務すれば、返済を免除する。5年以内に退職した場合は、貸付金の返済を予定通り請求する
 
これでどうだ!」
 
考えましたね。
たしかに、形としては労働基準法16条には違反しません。
 
しかし!
そう単純にはいかないですよ。
 
労働基準法16条の抜け穴になるような決め方は許されません。
 
この点が問題になった裁判例としては、東京地裁平成14年4月16日判決(野村證券留学費用返還請求事件)があります。
まさに、留学費用の返還の合意が有効かどうかが問題になりました。
 
この裁判例では
契約条項の定め方だけではなく、労働基準法16条の趣旨を踏まえて当該海外留学が業務性を有しその費用を会社が負担すべきものか
当該合意が労働者の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものかを判断すべきである
と判断されました。
 
要するに、会社側が業務のために留学や研修に行かせる場合、これは会社の経費として会社負担とすべきは当然。
 
労働者が、自分のためにで自分で決めた留学や研修であって、その費用を真に会社から借りるというものであることが前提になる、ということでしょう。
 
 
ポイントをまとめます。
 
① 誓約書や契約書等で返還合意を明確にすることが大前提
 
労働契約と離れて、労働者が自分の意思で返還の合意をするわけです。
曖昧ではダメ。
就業規則だけではなくて、誓約書や契約書などの個別の取り決めが必要です。
留学・研修の貸付であることを確認し、返還の時期やその方法も取り決める、そして、返還免除の条件も決める必要があります。
 
こうした明確な取り決めがなければ、返還を求めることはできません。
 
 
② 研修・留学などが業務性を持つ場合は返還請求は不可
 
 さっきも言いましたが、業務性を持つ研修や留学は会社が費用としてもつべきです。
 
 ですので、相談の中で出てきた、「会社内部の研修費用を返せ」というのは、一般的にはアウトです(はっきり言って、こんな会社はブラックだ)。
 
 あと、資格取得の学校のケースも、資格が業務に関わる資格で、会社が資格取得を推奨しているときには、返還を求めることはできないでしょう。
 
 新日本証券事件(東京地裁平成10年9月25日判決)では、留学先の専攻学科について、会社側が業務に関連するものに定めていた等の事情が重視されて、留学の業務性が認められ、返還ができないとされています。
 
 
③ 業務性がないとしても返還請求は限定される
 
 さらに、不当に労働関係を縛り付けることはできません。
 たとえば10年は長すぎですからダメでしょうね。
 
 じゃあ、相談の5年間はどうでしょう。
 個人的には微妙なラインかな、と思いますが、上記の野村證券事件では5年間の縛りを有効としています。
 実際上も5年間を定めている会社も多いようですね。
  
 さらに、返還について、一括返還しか認めないとすると、労働者の退職の自由を縛ります。
 柔軟な分割返還を認める等のスキームをとることも必要でしょう。
 
 
このように、留学費用や研修費用の返還を労働者が負担するためには、それなりに厳しいルールがあります。
以上の点をよくチェックして、本当に返す必要があるのか?と考えてみるといいですね。
 
 

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