世界の長寿画家たち

最後まで情熱的に生きることが「長寿」の鍵です!

今回ご紹介する書籍は、「一流の画家はなぜ長寿なのか」霜田里絵(しもださとえ)先生のご著書で、サンマーク出版です。

最後の審判 (ミケランジェロ)
最後の審判 (ミケランジェロ)

以下に、著名で長寿を全うした画家たちの没年齢を記しておきます。

  • フランシス・ベーコン・・・82歳
  • エドガー・ドガ・・・83歳
  • サルバドール・ダリ・・・84歳
  • アンリ・マティス・・・84歳
  • クロード・モネ・・・86歳
  • ミケランジェロ・ブオナローティ・・・88歳
  • 横山大観・・・89歳
  • 葛飾北斎・・・89歳
  • 東山魁夷・・・90歳
  • パブロピカソ・・・91歳
  • 岩橋英遠・・・96歳
  • マルク・シャガール・・・97歳
  • 熊谷守一・・・97歳
  • 中川一政・・・97歳
  • 梅原龍三郎・・・97歳
  • 奥村土牛・・・101歳
  • 片岡球子・・・103歳

脳の使い方

絵画という職業を続ける人間には「脳の使い方」に何らかの特徴があり、長寿のきっかけは脳の変化にあるのではないでしょうか。

まず、昨今話題の「テロメア」について考えます。テロメアは染色体の端にあってDNAを保護している細胞が分裂するたびに短くなります。テロメアがあまりに短くなると細胞は分裂をやめてしまいます。細胞の老化の速度と細胞の死期を決めます。

しかし、エリザベス・ブラックバーン博士らの研究によると、その染色体の末端は、伸びることもある。すなわち、老化は早くなったり遅くなったりする。そしてそれは、生活習慣や精神状態などが大きく関与しているというのです。

著者も臨床や自身の研究から、いつまでも元気に若さを保っていく要因として次の3つを上げています。

  1. 心のあり方
  2. 脳の使い方
  3. 基本的な生活習慣(ライフスタイル)

この3つの要因に画家ならではの特徴はないか、そしてなぜ彼らは描き続けるのかを研究し、できるだけ輝いて生き抜くヒントをここから発見できないかと思います。

ちなみに誠実度が高いほどテロメアが長いという正の相関性が認められたという報告もあるので、誠実に生きることはDNA的にもよいのです。

一流の画家に定年はない

世間では、定年が60歳とか65歳などと言われていますが、定年退職を迎えるに当たって燃え尽き症候群の様になってしまう人(特に男性)も多くいます。

当たり前ですが、画家たちには定年というものが存在しません。東山魁夷は61歳のときドイツやオーストラリアを5か月間も旅し、スケッチを書き溜め、64歳のとき「白い馬の見える風景」シリーズを発表。

65歳で水墨画の世界へと入ります。

また唐招提寺の鑑真和上像の安置される厨子の内部装飾や障壁画などを構想から10年以上をかけ72歳で無事奉納しています。

横山大観は、80代半ばに記したメモにはこう書かれていました。

「日本の海、太平洋、波平に、波と日本、波と不二山、或る日の海、二万五千年後の海・・・」

これは、次なる作品への構想を練ったものでした。

諸国瀧廻 東都葵ヶ岡の滝/ 葛飾北斎/ 天保4年(1833)頃
諸国瀧廻 東都葵ヶ岡の滝/ 葛飾北斎/ 天保4年(1833)頃

葛飾北斎は、森羅万象のあらゆるものをとらえ、絵の百科事典とも呼ばれる「北斎漫画」を描き始めます。そして59歳のときには「東海道名所一覧」を制作。71歳ぐらいから錦絵の制作に入り、そこから4年の間に「富岳三十六景」など世界にそして後世に名をとどろかせる作品を立て続けに出版しています。

偉大な画家の特徴は、一つの画風(モチーフ)に固定しないで、いろんなことにトライし、常に変化し続けることです。

ちなみに60歳からの自由時間は8万時間もあるという試算もあります。これは20歳から60歳まで働いた総労働時間よりも多いということです。情熱をもって生涯現役で活動し続けるには十分な時間です。

かつては脳の細胞は年齢とともに衰える一方と思われていましたが、1998年にスエーデンの研究者らによって「海馬」という記憶に関わる重要な部位が、年齢を重ねてからも新生されることが報告されました。ただし努力しなければ、やはり脳は衰える一方です。

興味深いことに、瞑想で海馬のボリュームが大きくなることが報告されました。瞑想に関しては、様々な解釈や定義もありますが、目を閉じて心を静かにしながら思考を「無」の状態にすることが目的です。

集中して絵を描いているときは、脳がこの瞑想に通じる状態にある可能性があると著者は述べています。

脳にも定年はないことを理解し、生きている限り創作を続ける精神を持つことが、私たちが長く元気に生き続けるヒントになるのではないでしょうか。

オルダス・ハクスリーの言葉を味わいたいと思います。

「通常の知覚の経路から外れ、無限の時間のなかで外界や精神世界を見ることは、だれにとっても非常に貴重な経験である。それは仕事や考え事に縛られたものの前にあらわれない世界であり、大いなる精神によって直接的かつ無条件に理解できる世界なのだ」

やはり瞑想などで、より根源の世界とつながることは大切ですね。

長寿画家の生き方にはヒントがいっぱい

私たちは常に何らかの規則やモラルに縛られて生きています。しかしこれでは脳の持つ自由な活動性や創造性は損なわれているかもしれません。

規則に縛られないで生きるということが、斬新な発想などに結びつくと思います。時間に追われる生活も脳を疲れさせ、何かを創造したり、表現したりするエネルギーを低下させます。

規則=ストレスとまでは言いませんが、ストレスは恐ろしいことにテロメアの短縮や神経細胞へのダメージを起こしてしまうものです。

葛飾北斎は何と生涯で93回も転居しているのです。日常的に転居を繰り返した理由は、絵のこと以外にまるで興味がなく、片づけるのが嫌だと引っ越してしまうという説が有力です。

社会通念にとらわれない生き方をすることが長生きの秘訣かもしれません。

脳は使い方次第で元気に働く

長寿画家たちは、情熱をもって最後まで作品をつくるという脳を前向きに働かせている印象があります。

歳を取ることを前向きに肯定している方は、否定的にとらえる方よりも約8年間寿命が長いという研究報告もあります。

絵を描くということは、目や耳などの感覚器官から入ってきた情報を、過去の出来事などと統合し、それを立体的に全体像を把握し、キャンバスの中に絵をバランスよく納めなくてはなりません。また、筆記用具の繊細なタッチにも脳がフル回転します。

この様に、絵を描くということは脳を広範囲に繰り返し使う作業なのです。実は加齢により脳の神経細胞が減っても、より広範囲に連携させて使えばネットワークは成長していくことが知られています。

画家は理想的な脳の使い方をしているのだと理解すると納得がいきます。

大脳には左脳と右脳があり、想像力の鍵は「右脳」にあります。病気や事故などで脳の一部が損傷したり、萎縮してしまったりすることをきっかけにして、それまでにははなかった「美術的才能が開花する」ということがあるのです。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のブルース・ミラーは、前頭側頭型の認知症の方で左の前頭葉あるいは側頭葉にダメージがある方の、創造性の解放について報告しています。

大脳の左半球からの抑制を受けなくなった右半球が視覚情報を中心に創造性を開花させることがあるようなのです。社会的能力や言語能力が損なわれるにつれて、より大胆な絵を描くようになった方の例も報告しています。

この様に左脳によって抑制されていた美術的才能が発揮されたのではないかとかなり信ぴょう性のある仮説が立てられています。

脳にある抑制された能力を引き出せれば、誰もが芸術家になれるのかもしれない。左脳に頼らず右脳を活躍させると創造できるようになるのです。

また、脳だけでなく全身を動かすことが効果的なのです。カリフォルニア大学アーヴァイン校のコットマン博士は、運動と認知機能が生物学的に結びついていることを突き止めました。

脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質は、ニューロンの新しい枝を伸ばし、機能を向上させながら成長もさせてくれる。BDNFは運動によって増加することがわかっています。

一流画家たちは、良く歩く人が多い。このライフスタイルが健康維持の一因となっているのではないでしょうか。

また、画家は職業柄、絵を描く時の姿勢などから、腰痛肩こりなどと関連があるように思いますが、長寿画家たちが腰痛や首・肩の痛みなどで苦しめられ、絵が描けなかったという話は聞いたことがないので、体の使い方も一流だったのではないかと思います。

ほめることの大切さ

私は幼稚園の時に馬の絵を描いたのですが、それが上手に書けたということで、壁に貼りだされていたのです。父兄参観の時に父親に「これ僕の絵だよ!」と誇らしげに言ったら、その絵を見た父は「本当にお前が書いたのか?」と疑ってきたのです。その時のショックは今でも忘れません。もしその時褒められていたら、その後の人生が変わっていたかもしれません。

島 秋人(しま あきと)は、餓えに耐えかねて新潟県の農家に押し入り、現金2000円を盗み家人に見つかったため殺人事件を引き起こした死刑囚である。

少年時代にたった一度だけほめられたことを思い出します。

「君は絵は下手だが、構図はいい。」

中学生の時、美術の時間に先生からほめられた、このたった一つの言葉を思い出し、こ
の恩師に手紙を書いたことで彼の人生に灯りがともり始めます。

彼は遺書の中でこう言います。
「どうか、どんなつまらない、どんなくせの悪い、どんな貧乏な子どもでもほめてやっ
てください。」

「ほめられし ひとつのことのうれしかり いのち愛しむ 夜の思いに」これは、彼の辞世の句です。」

教師や親のたった一言が、子供を生かしも殺しもすることを、肝に銘じなければならないと思います。

横山大観は老子の「死而不亡者壽」(死してしかも亡びざるものは寿[いのちなが]し)という言葉を好んだ。死んでも亡びないものこそ命は長い──彼は死んだが、作品は残った。

同じく、島 秋人は死んだが、彼の残した歌は残っています。

感じる力を高める

画家は感じる力が強い。感じる力が強いということは、それを表現できるということ。この感じる力は後天的に鍛えられるものです。

歳を重ねて人生経験を積み、精神性の成長があると、同じ景色や同じ情景を見ても、磨かれた「感じる力」がより豊富な想念を湧き起こさせ、より脳を刺激する。

ニュートンは「光そのものに色はついていないが、光には人間の視覚に色の感覚を引き起こす能力がある」と言っています。

色というのは光の周波数の違いを脳が感じるものであり、鍛錬すれば脳が感じる色も増えていくと思います。

体を使った実体験が感じる力を強めると思います。私も小学校から高校生まで新聞配達をしていました。朝4時に起きて自転車で新聞を配るのですが、配達をしているうちにだんだんと夜が明けてくるのです。その時の空の色の美しさは経験した人しかわからないものです。同じ景色を見ていても、部屋の窓から見るのと、外で息を切らしながら働いた後に見るのとでは全く違うのです。今日も一日よく頑張ったね!という意味での神様からのギフトのように感じます。

感じて生きるということは、人生を豊かにするだけでなく、脳を豊かにし、成長させ続けることにほかならないのです。

しかし、常に脳を刺激することは脳の若さを保つ上で大切ですが、あまりにも感じすぎると、疲れてしまうことがあります。

そして、過剰な刺激とそれに反応して湧いた感情が、脳の中であふれ返って行き場がなくなると思います。

絵を描いて思いっきり表現することの強みは、カタルシス=精神的浄化作用があることではないでしょうか。たくさん感じたことを作品に反映させながら表現することが、心の浄化作用にもなるのです。

「感じて」「考えて」「表現する」という一連の流れは、脳を広範囲かつ多様に刺激するのみならず、心の健康を保ち、また人間的な成長を招くでしょう。

画家たちは人生の時間が足りないという思いのうちに、世を去っています。画家たちにとって絵は魂の成長の記録であり、魂の成長は遺伝子にも働きかけるのは間違いないでしょう。

共感という財産

画家が残した絵は、時代や国境、民族を超えて絵を描いた作者がその時感じていたことを感じさせ、感動させるだけではなく、文化的な遺産を後世に残すことになります。

作者が死んでも、作品として生き続けるのです。

横山大観は「死んでもいい、死して滅びないものを残せば」と言い続けています。

東山魁夷は「私は生かされている、生かされているという宿命の中で、精一杯生きたいと思っている」と述べています。このように精一杯生きて、命ある限り一つでも多くの作品をこの世に残したいという情熱が画家を長生きさせていると思います。

しかし、人には寿命があり、長寿のための努力をいくらしてもいずれ死にます。

横山大観は有名な作品である「生々流転」の中で、山間の雲が一滴の水となり、地に落ちて渓流となり、やがて大河となって、最後には海へと流れ、竜巻となって天に昇る。それが人生であろうと表現しています。

この様に、自然の営みを観察する中で、生と死の循環を悟り、死んだらおしまいという命ではなくて、無量寿なる命に目覚めて生きよとの大観のメッセージが聞こえてくるようです。

無量寿なる命とは、この肉体の縛り、束縛から解放された真実なる命で、その真実なる命が吹き込まれた作品も共感という形で人々の中に生き続けていくのです。

では我々のような凡夫が、どのように生き、何を残していったらよいのでしょうか。後世に残るような絵や音楽などの作品を残すことや、歴史に名を残すような偉業を成し遂げることができなくてもいいのです。

そのヒントが坂村真民先生の詩に示されています。

坂村真民(さかむら しんみん)の詩

二度とない人生だから

二度とない人生だから
一輪の花にも
無限の愛をそそいでゆこう
一羽の鳥の声にも
無心の耳をかたむけてゆこう

二度とない人生だから
一匹のこおろぎでも
ふみころさないようにこころしてゆこう
どんなにかよろこぶことだろう

二度とない人生だから
一ぺんでも多く便りをしよう
返事はかならず
書くことにしよう

二度とない人生だから
まず一番身近な者たちに
できるだけのことをしよう
貧しいけれど
こころ豊かに接してゆこう

二度とない人生だから
つゆくさのつゆにも
めぐりあいのふしぎを思い
足をとどめてみつめてゆこう

二度とない人生だから
のぼる日しづむ日
まるい月かけてゆく月
四季それぞれの星々の光にふれて
わがこころをあらいきよめてゆこう

二度とない人生だから
戦争のない世の
実現に努力し
そういう詩を
一編でも多く
作ってゆこう
わたしが死んだら
あとをついでくれる
若い人たちのために
この大願を
書きつづけてゆこう

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