NT at Home「Behind the Beautiful Forevers」 | First Chance to See...

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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 本当はNational Theatre at Home「Behind the Beautiful Forevers」というタイトルにしたかったのに、アメブロのタイトルには字数制限があるため「National Theatre」を「NT」と省略せざるをえなかった。くそう。

 

 ……そんなことはさておき。

 

 「Behind the Beautiful Forevers」はインドのスラム街で暮らす人々を描いた作品で、内容が内容だけに英語字幕だけで理解するのは難しそう、と敬遠していた。が、この舞台にはノンフィクションの原作本があるらしい、というので念のためググってみたら、2014年にちゃんと日本語訳が出てるじゃありませんか!

 

 

 キャサリン・ブー著『いつまでも美しく インド・ムンバイのスラムに生きる人びと』。ということで、早速近所の図書館に駆け込んで借りてきた。

 

 ムンバイ空港に隣接した土地に比較的新しいスラムができた。歴史の浅いスラムなので、スラムの住民たちの生活はもっぱら空港が出すゴミで支えられている。そこでは、多数派のヒンドゥー教徒と少数派のイスラム教徒の軋轢もあれば、賄賂と汚職がはびこる警察との駆け引きもあり、また徹底した男尊女卑社会に抑圧され一切の教育を受けられず家に閉じ込められる女子がいる一方で、生活が厳しすぎて女性だろうとなりふりかまわず金儲けに走ることを余儀なくされる世界にむしろ解放を見出す女性もいる。

 

 原作本の邦題は『いつまでも美しく』だが、原題だと「いつまでも美しく(というキャッチフレーズ)の裏側で」という意味になる。ムンバイ空港とその周辺に立つ高級ホテルの利用者たちから汚いスラムが見えないようにと高い壁が建設され、その壁には「Beautiful Forever」というキャッチフレーズのイタリア製床材のポスターが貼られている。何とも皮肉なシチュエーション。

 

 著者が現地に3年間滞在して聞き取ったインタビューと調査に基づくノンフィクションだけど、訳者あとがきにある通り、「取材する著者自身の姿をいっさい感じさせない」「この本がフィクションであるかのように錯覚してしまう」書き方になっている。おかげで読者は大勢の登場人物の内面にまで迫ることができる——と言うと聞こえがいいが、一つ間違えるとこれもまた一種の搾取になりかねない(よそものの白人が、何を勝手に代弁してるんだ、ってね)。そのあたりは胸に留めた上で読まないとな、と思いつつ、でも実際に読み出してみるとさすがは全米図書賞受賞作、つられてひきずられてついよく出来たフィクションを読む時の感覚で読んでしまう。い、いいのかなあ?

 

 そして読んだ記憶が薄れないうちに、というか月額1500円の有効期限が切れないうちに、National Theatre at Homeで「Behind the Beautiful Forevers」を観た。

 

 

 結論。先に原作を読んでおいてよかった。

 

 一応の主人公はイスラム教徒のフセイン一家の長男、アブドゥルだけど、基本的に大勢の人間が絡み合い、がっつり自己主張する群像劇なので、前知識なしに英語字幕で観てたら多分アウトだったね。それにひきかえ、あらかじめ人間関係と事件の推移を頭に入れた状態で観ると、心の余裕が全然違うぞ(笑)。

 

 ゴミの収集とかゴミの仕分けとか、お世辞にもきれいと言えないものを舞台にぶちまけては撤収する、その手際の演出にも感心した。あと、原作を読んで「こ、これはどうやって舞台化するのだろう?」とビビった焼身自殺(未遂?)シーンについても上手に演出してたと思う。

 

 ただ、フィクションのようなノンフィクションが舞台化されたことによっていよいよフィクション感が増したような気がして、そこのところだけはちょっと忸怩たるものが……。