ナショナル・シアター・ライヴ「ブック・オブ・ダスト〜美しき野生〜」 | First Chance to See...

First Chance to See...

エコ生活、まずは最初の一歩から。

 フィリップ・プルマンのファンタジー小説『ダーク・マテリアルズ』三部作の前日譚にあたる『ブック・オブ・ダスト〜美しき野生〜』の舞台化。かつてナショナル・シアターで『ダーク・マテリアルズ』の舞台化を手掛けたニコラス・ハイトナーが、今度は自身のブリッジ・シアターに場所を移し、最新のプロジェクションマッピング技術を駆使して壮大なファンタジー世界を描き出す。

 

 

 正直に言うと、私は大昔に一度『ダーク・マテリアルズ』三部作を読んだものの、自分でも意外なくらい好きになれなかった。当然、『ブック・オブ・ダスト〜美しき野生〜』は未読。そんなわけで、今回のナショナル・シアター・ライヴはひとえに「ニコラス・ハイトナーの演出マジック」だけを期待して観に行ったようなものだったが、そんな私の後ろ向きな期待を十分以上に満たしてくれる、それは見事な演出だった。

 

 

 最小限の小道具と大道具を除き、背景はすべてプロジェクションマッピング。床も壁もすべて投射された映像で出来ている。実際の劇場の座席からどう見えるのかはわからないが、少なくともナショナル・シアター・ライヴの映像で見ている時の没入感はハンパない。おまけに、場面転換がとてつもなくスムーズになったせいで、話の展開そのものがスピーディになったようにさえ思える。何と言うか、今回のプロダクションで劇場でのプロジェクションマッピング使用の可能性が一気に広がったような、レベルが一段上がったような、そんな感じさえした。

 

 ただ、残念ながら物語そのものは私の好みではなく、観ながら「そうそう、すっかり忘れてたけどこれだから『ダーク・マテリアルズ』は好きになれなかったんだっけ」と、つい考えてしまったのも事実。とは言え、こんな演劇体験をさせてもらえただけで、木戸銭代の元は取れたというものである。

 

 

 最新技術のプロジェクションマッピングに比べると、人間の魂が別の生き物の形になって現れる「ダイモン」のパペット演出はとっても原始的でアナログだ。でも、舞台上で動物のパペットを人間が姿を出して操作するという演出は、近年の「ライオン・キング」とか「戦火の馬」といった舞台で技術を培われ、かつ、西洋の観客の目にも違和感がなくなってきた今だからこそ可能になった演出ではなかったか。

 

 今回のすんごいプロジェクションマッピングも、きっと、近いうちにさらに上をいく演出が試みられるにちがいない。こうしていろいろな作品が次々と表現の幅を広げ、影響を与え合って発展させていく様をリアルタイムで体験できるのって、いいね。