佐々木、イン、マイマイン【映画レビュー】〜King Gnu井口に似てるなと思ったら井口だった | おたるつ

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モノホンのおたくにジャンルは関係ねえはずだ!
ってわけで、おたくのるつぼ。略しておたるつ

見たかったんですよ〜この映画!!
昨年11月に公開され、各所でほめにほめられていたんですが、見逃したまま。
地元の映画館で再上映されていたのでやっと観賞!

 



【佐々木、イン、マイマイン】
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、細川岳
キャスト
石井悠二=藤原季節、佐々木=細川岳、ユキ=萩原みのり、多田=遊屋慎太郎、木村=森優作、一ノ瀬=小西桜子、苗村=河合優実、吉村=井口理、佐々木正和=鈴木卓爾、須藤=村上虹郎

作品データ
2020年製作/119分/G/日本

◆ストーリー◆
俳優を目指して上京した悠二は、芽が出ないまま20代後半にさしかかる。
別れたが同棲を続けるユキへの気持ちも曖昧にしたまま、何もかも中途半端な生活を送っていた。
高校時代の友人・多田と再会したことから、クラスのお調子者でカリスマ的存在だった佐々木の存在を思い出す。
悠二は稽古中の舞台と佐々木との思い出を重ねていくうちに、自分自身を振り返り変化を感じるようになる。
しかし、数年ぶりの着信で再会した佐々木は思い出の佐々木とは違っていた。
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青春時代に出会った印象的な人物を思い出すー。
「横道世之介」(沖田修一監督/2013年)を引き合いに出されることが多いようですが、わたしは「青の帰り道」(藤井道人監督/2018年)を思い出しました。
田舎道を2人乗り自転車で数人で駆け抜けるビジュアルが印象的だったので余計に。
高校時代の友人グループと、時間が経ってキーマンが迎える結末の基本構造がより近い。

内山拓也監督は20代で、本作が劇場長編デビュー作だそう。
主人公・悠二が30を前に焦燥感と頭を覗かせ始めた諦観の間で揺れるのが、ひりひりするほどリアルでした。
可能性と万能感でまぶしかった高校時代の見え方と、30を前にしてまだ何者にもなれていない自分への焦りとのコントラストがキワッキワで素晴らしかったです。

この映画、引き込まれる仕掛けは多々あるものの、最大の魅力は登場人物たちのリアルな佇まい。
絶対どこかにいる、探したらいる、町で見かけたら話しかけちゃいそう。
特に「ゾッキ」で目を引いた森優作さん。
うっわ、また出てる。またこのリアル感。なんなのこの人。
日本人全員、誰もがこの人に似てる知り合いいるでしょ。
いるだけでこうゆう人生歩んできましたって役ごとに醸し出してて、なんの説明もいらない、なんだあの森優作という俳優は。

 



物語は大人になった悠二と、高校時代の佐々木との日々が交互に描かれる構成。
各キャストは現在と高校時代と同じだが、風貌も明らかに大人と高校生で、非常に分かりやすい。混乱がない!スムーズ!「ゾッキ」と大違い!

佐々木という人物は、お調子者で仲間内でカリスマのような存在でありながら、一方で唯一の家族である父親が家に帰らず、不安定で寄る辺ない生活を送っていました。
孤独や諦めを抱えながら、佐々木は「俳優になれ」「好きにやれよ」と背中を押してくれたのでした。
その思い出が現在の悠二を奮い立たせます。
“佐々木、イン、悠二マイン”の佐々木です。

 



この“悠二マイン”な佐々木、抗いきれない問題の前に人生を諦めていた佐々木が、大切な友人の中に残りたかった自分だと思うと切なくてたまらない。
ふざけ、服を脱いで踊り、笑い飛ばし、かっこ悪くても気にしない。
誰かの中に残るなら「バカなやつ」。
でも、それが佐々木の望むことでもあるのが、ちょっと驚くラストシーンのアンサーに繋がると思いました。

ラストシーンの他にも、感情があふれたときの演出が素晴らしかった。
溜めて溜めて、うわあああああああ!!!!! ってなるまでがニクイ。
ラスト手前、悠二が木村の赤ちゃんを抱いて泣きむせぶところからすごい。
赤ちゃんを抱いて、赤ちゃんが泣き出してしまって、悠二も泣く。
よく奥さん赤ちゃん取り上げないなと思うほど長い。
だから悠二が泣くとこで、こっちも溜めてたものが「うわあああああああ!!!!!」ってあふれかえる。


そして喪服姿の悠二がもくもくと歩くシーン。
これ高校時代に自転車で佐々木たちと駆け抜けた道なんですが、進行方向がその時と逆なんですよ。
過去と!現在の!対比!! 悠二の決意!!
うわあああああああ!!!!!


要所、要所で鳴り響く荒いドラムの音楽!!!
ラストシーンは……
うわあああああああ!!!!!

この衝動、発露。
いつでも出せるもんじゃないんじゃないかと。
アラサーから振り返る青春時代を同世代の監督が描くからこそ出るパワー。
しかと、浴びました。

でもですね、本当に細かい仕掛けも丁寧でキマってます。
ポスタービジュアルがどのシーンかわかった時、声が漏れますよ。
冒頭のシーンもちゃんとラストに向けてのものでしたし。
バッティングセンターどっからにおわせてんだよ。
またこれ、4人がそれぞれ20代後半のありうる選択肢でそれぞれなのもいいんですよね。

ああ、ユキもです。そりゃ別れるよ、アンタ。


ユキとのやりとりも、ひとつひとつ悠二が思っていることが表情、行動、指先にまで現れてたまらんかったですね。いつまでもマフラーしてんじゃないよ悠二(涙)。
流しを片付け出すシーンが好きでした。

佐々木と同じように、わたしの中にも忘れ得ぬ人が思い出にあり、またわたしも誰かの忘れ得ぬひとりなのかもしれません。
キラキラと輝いていたり、何気なかったやりとりを思い出して元気になったり、誰かの毎日をほんの少し支えているのかもしれません。
それはとても幸せなことだなあ。
今を生きるわたしが、そのイン誰かマインのわたしと違ってたとしても。
幸せなことであるのに変わりはない。

おすすめの映画です。
あ、このひとKing Gnuの井口理に似てるなあ〜と思ったら本物でした。
短編がまた同じ映画館で上映予定なので楽しみです。