遠い星42(裕美の家編③) | たろすけ日記

「はじめまして。裕美さんとお付き合いさせていただいております小田島と申します。本日はお忙しい中お会いいただき有難うございます。これ、つまらないものですが受け取ってください」

よし、台本?通りに言えた。良かった。・・・裕美の母親はメガネかけて少し棘のありそうな女性だった。俺のことじっと見ていたが、

「あなたも忙しかったんでしょう?勝手に日にちとか決めてごめんなさいね。まぁお上がりなさい」と言って中に入れてもらった。裕美を見ると裕美もホッとした表情浮かべてた。ってことは第一関門は成功したのか?って考える間もなく、俺は、

「はい、失礼いたします」と機敏に返事返して入った。どひゃー、心身ともに汗でびっしょりだ。想像と実際とはやっぱ全然違う。入って靴脱ぐとき少しギクシャクしてしまってこけそうになったんだ。でも、臨機応変に流して靴も綺麗にそろえて上がった。

そのまま応接室に案内されお母さんから
「どうぞおかけになって」とソファ勧められ、

「はい、失礼いたします」と言って裕美と一緒に座った。

「ちょっとお茶用意してきますね。裕美、あなたも」と言って裕美を連れて応接室を出て行った。ポツンと一人残された俺。次に言うことは決めてある。決めてあるし気持ちだけはしっかり持っていこうと思った。うー、でもやっぱ緊張する。裕美はお母さんと何話してるんだろ?気が気でないって感じ。しっかりしろ、俺!

いろんな飾り物が置かれている。見たことのない絵画とか高そうな日本人形とかが置かれていた。シャンデリアも普通の家には置いてないようなシロモノ。裕美ってやっぱりお嬢様なんだ。そんな彼女と付き合ってる俺って、これでいいのだろうか、とか住む世界が違うんじゃないのかとまた否定的な感情が走った。

否、裕美との明日を考えればここはどうしてもあのお母さんに自分の気持ちを真っ直ぐに伝えて承諾もらわなければ来た意味がない。そう強く思い軟弱な感情を否定した。二人が入ってきた。そのままお母さんは座り裕美がお茶(紅茶)を甲斐甲斐しくテーブルに置いた。

裕美も俺の隣に座りしばし沈黙。切り出したのはお母さんだった。

「・・・いつから付き合い始めたの?裕美とはあまり話さないものだから」

「今年の6月からです。お母様もご存知だと思うのですが甲府の合宿があった際に知り合いました」

「何かあったの?」

「裕美さんが倒れていたのを私が介抱してあげたことがきっかけです」

「どうして倒れてたのかしら?熱でも出してたの?」

「いえ、彼女が飲めないお酒を飲んでしまって気分が悪くなって倒れたんだと思います」

「この子はお酒全く駄目だから。それを小田島さんが助けたと?」

「そうなりますね。人の出会いっていろいろあると思いますが、こうしたきっかけで裕美さんとお知り合いになれて嬉しく思っております」

「そう。裕美ったらそんな話ちっともしないから分からなかった。・・・で、小田島さんはご出身どちら?」

「はい、兵庫の尼崎に実家があります」

「お父さんは?」

「地方の銀行に勤めています」

「そう。尼崎は私も知り合いいますけど、尼崎のどちら?」

「阪急武庫之荘駅の近くに住んでおります」

「いいとこにお住まいなのね。尼崎って、こう、何ていうのかな、庶民的でしょ?でも武庫之荘はちょっと違うものね」

「そうですね。武庫之荘は少し住民感情が穏やかな感じがします。でも同じ尼崎です」

「そうよね。あぁ、ちょっと突っ込みすぎたかしら。まぁお茶でも召し上がれ」と言ってお茶を勧めた。

「はい、いただきます」おそらく俺の一挙一動見られると思い、軽い深呼吸してミルクと砂糖を入れた。特にミスは起こさなかったと思う。「美味しい紅茶ですね」
(続く)