「鮫行、ちょっと散歩でも行くか?」と言ってきたものだから、
「ええよ、でもどこ行くの?」
「大井戸公園でも行くか?」
「また?別にいいけど。母ちゃん、男連中は暇なんで散歩行ってくる。じゃ行ってきます」と言って出かけた。
正月は人通りが極端に少ない。ここ尼崎もいつもなら誰かは歩いてるのが普通なのだが、今日は誰もいなかった。
二人でとぼとぼ歩きながら、おとんが俺をちょっと見て、
「鮫行」
「何?」
「お前がこれから言いたいことって、横山さんのことやろ?」
「え?バレてた。・・・でも何で分かんの?」
「お前がウチに帰ってくるのいつもあの子と一緒やろ。誰でも分かるわ」
「そう、彼女との将来のこと。話しておきたくて聞いて欲しいんだ」
「お前、あの子のこと好きか?」
「うん。好きだ。浮ついた気持ちじゃなく将来のことも考えて」
「・・・そうか。公園着いたな。寒いけどちょっと座ろか」とベンチに二人腰掛けた。公園も冬なので誰もいない。
「・・・父ちゃんには事前に話しておくけど、俺彼女と結婚したいと思ってる」
「そうか・・・」おとんはタバコに火をつけゆっくり吸い込んだ。「お前も俺と一緒やな」と呟いた。
「何が・・・?」
「・・・俺もお前の年頃にお母さんと付き合い初めてな。もうちょっと年取ってたか。就職してすぐ結婚したんよ。こんな話聞いたことなかったやろ?」
「初めて聞いた。父ちゃんって見合いで結婚したもんだとばっかり思ってた。恋愛結婚だったんだ」
「そや、やから横山さん大事にせなあかん。恋愛も結婚も大変なんは女性の方やからな。お母さんの親御さんには最初反対されてな。俺以上にお母さん大変やった」
「そんなことあったん。知らんかった」
「お母さんの両親には何度も何度も通って何とか賛成してもらえたから良かったけどな」
「父ちゃんも学生の頃から母ちゃんの爺ちゃん婆ちゃんに会ってたの?」
「あぁ、お母さんオンリーやったからな。反対されたらされたで燃えたな」
「へぇ、父ちゃんも普通の男やったんや。それ聞いて安心した」
「何が?俺だってまだ若い。49や」
「いや、年じゃなくて行動がってこと。父ちゃんの歩いた道、俺も今歩いてる」
(続く)
