イノセント11 | たろすけ日記

私は映画とかドラマとかはよく見る。こんな感じでこれまで見てきたドラマとかの感想書いていきたい。

「モンスター」。これは本だ。百田(ひゃくた)尚樹(なおき)の作品。

 

同作品の主人公は、田舎町でレストランを経営する絶世の美女、(すず)(はら)未帆(みほ)。38歳だが、年齢不詳の美を宿している。そんな未帆の正体は、かつて町で「モンスター」と呼ばれて追い出された醜女=「田淵(たぶち)和子(かずこ)」。美しい未帆と、醜い和子は、誰が見ても別人だが、実は同一人物だったのだ!

 

醜かった「和子」は、幼少期から外見を理由に、すさまじいイジメを受けていた。一方で、密かに恋愛感情を高ぶらせ、高校生の時、クラスメイトの「英介」を相手に、ある事件(メチルアルコール事件)を起こす。そのことがきっかけで、和子は「モンスター」と呼ばれるようになり、町を追われた。物語の前半では、「美しくないこと」がすべての元凶のように描かれる。せめて人並みの顔さえあれば、まともな人生が送れるはずなのに。美しくなって、ただ恋がしたいだけなのに。社会が「ブス」を差別するから、ブスはどんどん性格が悪くなってしまう。美人はその逆だ。なんて理不尽だろう。そんな和子のモノローグが150ページも続くのは、あからさま過ぎて正直つらい。

24歳になった和子は、呪いのように「美」を求め始める。東京の風俗で働きながら、美容整形を繰り返すのだ。そこからの描写は、面白いように軽快である。まずは二重まぶたの埋没法、次に鼻、インプラントで美しい歯を手に入れ、さらに目を直し、顎の骨を切り取る大手術(そのために和子は、噛む力が極端に弱ってしまう)……。他にも数え切れないほどの施術をしたおかげで、未帆は絶世の美女となる。その美貌に、世の男たちは次々と虜になる。しかし未帆は、かつて愛したクラスメイトの英介を忘れられない。やっぱり「英介」に愛されたい。38歳になり、そう願った未帆は大金をつぎ込んで、故郷にレストランを開く。店にやってくる男たちの中に、英介がいることを信じて……。

『モンスター』で描かれる美容整形のプロセスは、かなり具体的だ。本当によく取材されている。男性である百田尚樹氏が、ここまで美容に興味を持てるのかと感嘆するほどだ。美しくなった未帆に、男たちが態度をコロッと豹変させる様子も愉快である。しかし、主人公が整形を繰り返した末が、結局「1人の男から愛されたい」という目的へと収斂していくのには失望した。

 

絶世の美女へと変貌を遂げた未帆は、かつて自分を忌み嫌った英介と再会する。既婚者になっていた英介は、未帆の容姿に惹かれ求愛するが、「妻とは別れられない」と言う。不倫男性の定型句だ。10年以上、体を酷使してきた未帆にはもう、時間がなかった。美帆は「結婚してくれないなら、あなたとはもう会わない」と告げる。動揺した英介は怒りを露わにし、言い争いになる。そんな未帆を「くも膜下出血」が襲う。死を悟った未帆は、「私の、本当の名前は和子。和子でも好きでいてくれる?」と明かす。彼女は結局、整形で美人になっても、「別人」にはなれなかったのだ。元のままの「私」を愛して欲しかったのだ。が、英介は口先で「ああ、好きでいるよ」等と答えつつ、結局、和子を見捨てる。「なんだ、元はあのブス女だったのかよ……」という感じだろうか。くも膜下出血の未帆を「ほうって逃げた、最低の男」(エピローグより)だったのだ。