アマゾンプライムで無料視聴可能だったので観てみたら思いのほか琴線に触れたアニメだったのご紹介したいと思います。
TVアニメ 「恋は雨上がりのように」
17歳の女子高生と45歳冴えない中年の恋のはなし
このアニメのモチーフは女子高生と中年の恋。
あるきっかけで女子高生が一方的におじさんを好きになってしまうところから恋のお話が始まります。
奇をてらったドタバタ話や中年のエロ要素が盛り込まれた妄想的な話が続くと予想されますが、この作品は思いのほか細やかな心情を描いていて刺激的な内容やエロ要素はほとんどありません。
堪え切れないほど溢れるほどの恋心を抱く女子高生「あきら」の気持ちを真正面から受け取ることをしようとしないファミレス店長「近藤」ですが、決して恋心を抱かれることを迷惑と感じているわけではありません。
でも、だからと言って相思相愛のちょっと変わったドタバタ恋愛喜劇に発展するわけでもなく、また恋のライバルが登場して二人の恋愛がなかなかうまくいかないところにハラハラドキドキする物語でもありません。
この作品の主題は恋愛ではなく「人生の雨宿り」
私はこの作品が恋愛を主題にした物語とは感じませんでした。
確かに一途に店長のことを想うあきらの恋心は中高年に眩しいほど素敵なのですが、それはこの主題を輝かせるためのスパイスに過ぎないと感じます。
ファミレスの冴えない店長というポジションが定着した近藤があきらからの恋のアプローチに接するうちに、自分の中に封印していた若い頃の熱量を呼び覚まします。
そして女子高生あきらも陸上部のエースとして活躍していて親友と充実した高校生活を送っていたのに怪我によりその道を閉ざされて、周りに取り残されていくような寂寥感から、もう一度自分の熱量を取り戻します。
1話が 「雨音」で始まるように、毎回、雨にまつわるタイトルが付けられています。
この物語が「人生の雨宿り」であることを暗示しているようです。
あきらの人生にとって軒を貸してあげた店長のお話であると同時に、軒を貸すしかできないと思っていた店長にとっても実はあきらが封印していた鍵をこじ開けてくれたという大人の人生の雨宿りの話でもあるところが物語に深みを与えてくれています。
だからと言って恋話をおろそかにしているわけではないところが良い
でもこの作品で恋愛について「若者が人の親切心に触れたのを恋と勘違いしただけ」という描き方をしている訳でもありません。
そこには恋愛は成立していたし、二人の間にそういう感情があったことも否定していません。
このアニメ作品は第7話に一気にクライマックスを迎えます。
それまで一途に自分に恋心を打ち明けてぶつかってくるあきらの気持ちをはぐらかしてきた店長でしたが、彼女に惹かれていく自分自身を肯定し受け入れます。
この時の描写に心を打たれて感動してしましました。
感動の第7話 「迅雨(じんう)」
陸上部エースとして活躍して親友と充実した高校生活を送っていた女子高生「あきら」は、アキレス腱のけがを負って陸上を断念することとなってしまいます。
絶望に打ちひしがれ雨の中、雨宿りに立ち寄ったファミレスで一人窓の外を降る雨を寂しげに眺めるあきらに店長の近藤はコーヒーをサービスしてくれます。
訳ありの佇まいを感じて差し伸べた店長のさりげない気遣いだったのですが、乾いた心に慈雨を降らせてくれた店長にあきらはこころを惹かれます。
そして店長のファミレスでアルバイトをすることにしたあきらは秘かに淡い恋心を抱きながら店長のことを見ていました。
店では従業員からまったく尊敬されない冴えないファミレス店長ですが、そんなことはあきらにはどうでもいいくらい、こころに深く住み着いてしまっているようです。
ある日店長の息子がファミレスに遊びに来ていて、子持ちであることにがっかりしていたあきらでしたが、バツイチであることが分かり、恋心に火が点きます。
二人を近づけるきっかけがいくつか続き、あきらは抑えられない感情をストレートに店長にぶつけます。
あまりの想定外のことに困惑する店長は最初は相手にしませんが、彼女の気持ちに接せるうちに一途の気持ちが偽りのないことを知り、気持ちに応じることはできないものの無下にすることもできないとも感じています。
行きがかり上、デートをしたりしているうちに少しづつ相手のことをお互いに知る機会も増えていきます。
あきらは店長が以前小説家を目指していたことを知り、現在も文章を書いているということも知り、ますます自分には無い面を持つ店長に惹かれていきます。
そして第7話へと突入していきます。
バイト中にけがを再発させる事件があって、しばらくバイトを休んでいたあきらはメールやラインで店長とつながりが持てたらいいなって思います。
バイトに復帰したあきらはそんなことを想いながら店長にそれを伝える機会を伺っています。
店長との距離が縮まることに喜びを見出し始めたあきらとは裏腹に、店長の心は憂鬱になります。
若い頃に夢見たことに挫折して現在は惰性の様に生活のために生きている自分が人に誇れるものを何も持っていないと自己否定している彼にはあきらの言葉は痛かったのです。
あまりにも自分を褒めるあきらに店長は少し厳しい言い方で自分はあきらの恋愛対象になるような人間ではないと否定します。
「君が俺の何を知っているの?」
ぼそっと言われた店長の一言が胸に刺さりあきらは何も手が付かないほど傷付きます。
そしていても経ってもいられず風邪で寝込んで休みを取っていた店長の自宅を訪れてしまいます。
そう、いても経ってもいられず足がそこに向かってしまったという感じです。
豪雨であきらを部屋に迎え入れざるを得ない状況のなか、部屋のテーブルに突っ伏し何も語らないあきらに困惑する店長。
「わたし、わたしは店長のこと何も知りません。」
「だから知りたいです。店長のこと、わたし。」
突っ伏したまま寂しげに語るあきらの言葉に自分が投げかけた言葉があきらを傷つけてしまったことを知り、店長は悪かったと謝ります。
言い方は悪かったが自分はあきらが思っているような素敵な大人ではないことを訴えます。
あきらの期待に自分が応えられないことを改めて店長はあきらに伝えます。
「店長、素敵です。」
突っ伏したあきらはそんなことはお構いなしです。
自分なんかよりあきらの素晴らしさを語り始める店長に対して、
「じゃぁ!どうしてこんなに胸がちぎれそうなの?」
遮るように強く訴える言葉にはっとする店長。
いつまでも逃げていてはだめだと悟る店長。
「あたしが店長のことを好きなのが迷惑ですか?あたしではだめですか?」
「だめなわけないじゃないかっ!」
即座に答える店長の語気の強さ。
そして、自分はあきらといるとかけがえのない若い頃得た財産を思い出させてくれて、むしろ感謝していると伝える。
その言葉を聞いて初めて突っ伏した顔を起こして、
「良かった。」
と言って泣きじゃくるあきらの姿を見て店長は自分のこころの枷をすべてを外して彼女の気持ちに向き合い言葉をかける。
若い頃より純文学を愛してきた店長が彼女のことを想って心のなかで投げかける言葉はとても美しい。
このシーンはこの作品のなかで最も素晴らしいシーンだと思います。
そして私がこの物語のもう一つ主題と捉えている「大人ということ」につながります。
それは店長が自分の気持ちやあきらの気持ちに気付いた後も「分別のある大人」として行動し続ける点です。
店長のような大人になれたらすごい
店長は子持ちとは言えバツイチで奥さんがいるわけではありません。
ですから禁断の恋ではありませんから7話から恋が始まっていくという展開もありなのですが店長は決してそれを良しとはしません。
一時の感情で流されてはいけないという点を最後まで貫き通します。
自分に思いを寄せてくれる彼女に惹かれている自身の気持ちに気付いてもなお、それをかたくなに守ります。
私はこういったことができるのは分別のある大人って思っちゃいます。
昔に比べるとこういう大人が減ってきたのではないかと感じているから尚更です。
そして彼女が抱えている悩みを解きほぐすように、それを自分から気付かせるようにさりげなく優しい言葉を投げかけていきます。
そして最終話の第12話ではその店長の努力は実を結んで結末を迎えます。
店長、カッコいいって思っちゃいます。
人生の雨宿りの大切さ
人は大きな困難に出会ったり、どうしていいかわからないと困惑することがあります。
人生は長いですから誰しも何かしらあると思います。
そんな時に歯を食いしばってそのことに立ち向かわなければならない時もあるでしょうが、時には雨宿りのようにそこから距離を置いてこころを落ち着かせた方が良いこともあると思います。
そんな時にあきらにとっての店長の様に優しく「軒を貸してくれる」人や環境があるといいなって感じました。
あきらは夢中になっていたスポーツができなくなり、周りのみんなが輝いているように見えて、自分だけが置いてきぼりになるような疎外感を感じて心がささくれていたのだと思います。
でももう一度切れた糸を修復してみようと思い歩き出す勇気を得て一歩を踏み出します。
人にとってそれが簡単な一歩に見えても傷ついたり、弱っている心の人にとっては果てしなく遠い一歩に思えたりするものです。
そんな時に雨宿りをすることができて、雨上がりを待つ時間が持てたなら違う景色がそこに広がるのだと思います。
店長のように雨のままの日常がずっと続いていているような人にも、空を見上げようと思うような出来事が人生にあったなら素晴らしいと思います。
店長はあきらに接していくうちに大事な自分との約束を見つめ直し雨上がりの第一歩を踏み出すきっかけを得ることができました。
最終話では二人がお互いにそのことに気付いてお互いに感謝しながら爽やかに雨上がりの人生の一歩を踏み出すように描かれ素敵な気持ちにさせてくれます。
アニメには音楽の力
この作品は漫画が原作ですがアニメの良いところは声優さんの素敵な演技と音楽と併せて味わえるところです。
さきほど紹介した7話のクライマックスシーンで店長があきらに優しく心の声を囁きながら近づくときのBGMは涙腺を緩める効果大です。
このアニメにはシリアスなシーンは少ないですが、そんな時にバックを流れる優しげなメロディが心に沁みます。
好きなアニメのテレビシリーズを観ると毎度のことながら好きなるのがオープニングとエンディングのテーマソングです。
オープニングは元気はつらつと、エンディングはしっとりと作品を盛り上げてくれますね。
この作品でも素敵なテーマソングが色を添えています。
オープニングテーマ
CHiCO with HoneyWorks
「ノスタルジックレインフォール」
エンディングテーマ
Aimer
「Ref:rain」
どちらの曲もすっかり気に入ってしまいました。
大泉洋・小松菜奈の主演で映画化も
コミックもアニメも人気のこの作品「恋は雨上がりのように」は実写での映画化もされます。
配役については主演の二人は私の中ではちょっとイメージが違う気もしますが、漫画とは違う楽しみ方もできるかな?って思って観ようかなって思っています。
ちなみに私のなかでは「孤独のグルメ」で人気の松重 豊さんなんですよね。
(さすがにちょっと歳が行きすぎちゃってますけどイメージとしてはピッタリな感じなんだけど)