眠れない深夜に街を出た。



新しい朝の、光を求めて車に飛び乗る。



まだ明けやらぬ、水平線の彼方に輝く白い星を見つめながら。




私たちは、誰もが言葉を交わす事もなく



ただ、その星だけを見ていた・・





ふとした事から、言葉を交わし



いつの間にか、誰にも打ち明けることのなかった心の悩みや想いを



共感出来うる、親友と呼べる関係になれた。



高校・大学と・・楽しく過ごした時間の中で、いつも私達は一緒だった。



間もなく訪れる、「卒業」という名の扉が開いて



私達は、自らが信じる新しい未来に向かって飛び出して行く事になる・・







 




私、圭子は・・




念願叶って、大手町にある某広告大手企業に就職が決まっていた。



この春から、夢にまで見たＯＬ生活をスタートさせる。



誰にも負けない・・確固たる自信はないけれど、そう心に誓った。







 




私、今日子は・・




幼い頃からの夢だった、菓子職人「パティシェール」を学ぶ教室で、



同じ夢を追い求める彼と出会って、そして恋に落ちた。



愛する彼と、いつか自分達の店を持とうと約束して



大好きな彼と二人で、その夢を追い求める道を選んだ。






 
  



私、涼子は・・・




圭子や今日子の様に、自らが納得しうる姿をまだ見つけられずにいた。



卒業までの、悶々とする日々を過ごしながら・・



でも、このまま押し出される様に社会に出る事だけはしたくなかった。



少し遠回りになるけれど・・



１年間という期限付きで、自らの可能性を求めて、



まだ見知らぬ世界を巡って、改めて自分探しの旅に出る事にした。



卒業式の翌朝、二人には別れを告げずに旅立つ・・







春の風と共に、



それぞれの、まだ見ぬこころに描いた夢に向かって



私達は旅立って行く・・








 

あの時交わした約束を



今でも、あなたは覚えていますか。



小さなつぶやくような声だったけど・・



「いつまでも、この手を離さないよ」と、言ってくれた事。



そんな君の一言に



一瞬、ぎゅっと指先に力を込めた私の想いに



あの時、君は気づいてくれましたか。




余りにも幼くて・・言葉に出来なかった私の初恋は



いつまでも、心の襞に刺さったとげのように



あの日の手の温もりと共に、忘れさせてはくれない。





指先が凍えるように寒い朝



記憶の扉が、またそっと開いた・・





 

君の背中を見つめていたら



そんな僕のこころを見透かすように



君の背中がつぶやいた。




いつまでも・・私だけを見つめていてね。

メールじゃ伝わらない・・この想いを届けたい。



鏡の中の私に呟きながら・・



何度も何度も、同じ言葉を繰り返してた。



今年のイヴは、雪が降らなくて・・



二人で過ごす夢も叶わなかったけれど、



遠く東の空の下で、一人頑張ってるあなたを想い耐える事が出来た。




来年のイヴの日が雪だったらいいな。



ふわふわな真っ白な雪になって



きっと逢いに行くのに。



あなたの肩に、そっと舞い降りるのに。






今、鏡の中で・・



あなたを想い・・ちょっぴり頬を染めた「恋顔」の私がいた。

あともう少しで訪れる、新たな２０１６年に想いを馳せて・・



きっとまた、いろんな事があると思うけど



これからも・・顔晴れ、私。

想い出だけでは生きてゆけない・・





楽しい時は・・瞬きする間に、



それこそ、あっという間に過ぎ去って行った。




でもそこには、煌くように輝いて



笑みを見せていた私が確かにいた。




そしていつからか、静かに過ぎ去る時の流れが、



辛い記憶だけを消し去り



優しい想い出に変えてくれた気がしてる。

もう・・開くことがなくなったアルバムの中に、



あの時、何故か一緒に捨て去る事が出来なかった私だけの写真が、



今も、一枚だけ残されている。




私が、一番美しく輝いていた・・あの頃

２０１５年が、間もなく終わりを告げようとしています。




今年も、いろんな事があったけど



あともう少し・・顔晴れ、私。

繋がってる時は・・・



いつも、あなたが隣にいるように思えていたのに。

でも・・



何度見直してみても、今はあなたが見えない。



着信履歴にあなたの名前が無い日が続き・・・哀しくなる。




始まりの時は、



何故か、あなたの声が聴きたいなと感じていた時に



必ず、あなたからの電話があった。



そして、私から電話した時も・・・直ぐにあなたからの返事が返って来た。



いつもいつも、



そんなふうに繋がっていたのに・・





何時からなのか、そんな繋がりが微妙にズレ出して、



着信を確認する回数が増えていった。





壊れたのはスマホじゃなくて・・きっと、




私たちなんだと思う。

いつの間にか



僕のアトリエに迷い込んだ君が、



まるで・・



「私を描いてください」　とでも言っているように、僕には見えた。



僕はそんな君を・・ただ、じっと見つめている事しか出来なくて



とても、声を掛けてそのことを聞くことが出来ずにいた。



何故なら・・



君の、柔らかな栗色の髪と、



僅かに開いたローズピンクの唇から、ほのかに甘い香りがして



僕に、どこか大人びた女性を感じさせ



こころが揺れて・・



いつものように、無心でキャンバスの前に立つことが出来ない気がしていた。

もし君に・・そんな僕の胸の内を覗かれてしまったなら、



君の表情から笑みが消えて、



突然、君がこの部屋から逃げ出して



もう二度と、僕の前に姿を見せてはくれなくなるかも知れない。



何故か、そんな予感がして恐かった。



そしてきっと僕は、その日から・・



そんな君が再び現れるのを、このアトリエで待ち続ける事になるだろう。




だから、もし許されるのなら・・



このまま僕の世界に閉じ込めて、



何も言わないまま絵筆を走らせ・・君のすべてを奪いたい。




そして君を・・



僕が愛してやまぬ、ルノワールの



「イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢の肖像」の隣りに、ひっそりと飾りたい。