枯れることを許せない人　～香川照之さんの性加害疑惑～

ここ連日報道されている、俳優の香川照之さんの銀座ホステスへの性加害疑惑事件。
私はドラマ半沢直樹は見たことがないし、最近はテレビそのものをほとんど見ないため、香川照之さんの最近のテレビでの活躍は知らないのですが、個人的な理由があってリスペクト的な感情を彼に抱いていましたので、今回の事件はとても残念に思っています。

個人的な理由というよりは「個人的な思い出」という方が近い感じがしますが、今回はなんとなくそれを書いてみようと思いました。

私が20代前半で、教育系出版社に勤めていた時。
その出版社から中学生と高校生向けの雑誌が一時だけ発売されていました（たぶん両雑誌とも数年で廃刊になり、かつ購入できるのは会員と特約書店のみという販売でしたので、読んだことがある方はごく少ないと思いますが）。
私はその会社の社員でしたので、在庫の場所に行けば読むことができました。

ある日、高校生向けの雑誌の方をパラパラとみていたところ、香川照之さんの受験時代のインタビュー記事が掲載されていました。
彼は東大出身。
私の勤めていた出版社の通信教育は、東大や京大など難関大学への合格者が多いことで有名だったので、東大出身の香川さんへのインタビューは彼の後輩となるであろう通信教育の会員への応援メッセージ的な意図があったと思います。
その当時、彼は20代後半で、まだ知名度は低い俳優さんでした。
私がなぜ香川照之さんを知っていたかと言えば、母親が彼のお母さんである浜木綿子さんのドラマが好きでよく見ていたからです。
そのため、「浜木綿子の息子」ということと、浜木綿子の息子が東大に入ったという母親経由のゴシップで彼の名前を知っていたという感じでした。

その記事は、主に彼の大学受験までのエピソードでした。
彼は千葉県にある難関私立中高一貫に通っていたそうですが、高校３年生になるまでは、現役では絶対に東大は無理という成績だったそうで、ただ何となく「東大に行きたいな」と思っていたくらいだったそうです。

それがある日、突然こう思ったそうです。
「そうだ！俺は東大に行きたいんじゃないんだ。そうじゃなくて東大に行くのだ。これは決定事項なのだ」
と。
そしてそう思ったら、もう東大に行くのは決定なのだから、たとえ何年かかっても東大に入ればいいのだと気持ちが楽になっ
て、結局現役で東大に入ったと。

文章のデティールは異なっていると思いますが、大筋でこういう内容でした。
私はこれを読んですごく衝撃を受けました。
この人ってすごい！

人間が精神的に追い詰められたとき、その底をいかにバネにするかという思考の突破力ってすごい力だと思っていて。
香川照之さんという人は、それができる人なのだと感じたのです。

そして、この
「なりたい」ではなく「なる」
と決める思考は自分の中で何かの目的を持つときにとても大切な考え方となりました。

たぶん今でいうところの「引き寄せの法則」とか「思考は具現化する」とかいったものに近い考え方だと思うのですが、これらの言葉が流行ったのはそのもう何年も後のこと。
20代前半でこの記事を読めた自分はラッキーで、私はそれから少しずつ売れていく香川照之という役者さんを好ましい思いで見ていたのですが・・

後出しジャンケンみたいであれなのですが、
私はその後、香川照之さんの生い立ち（特に父親との関係性）を知って、最近の異常ともいえる彼の活躍ぶりに少し危うい感じがしていたのですよね。

すごいエネルギーで思考を具現化していく力は、実業家や政治家には何歳になっても重要なものだと思うけれど、役者としてはどうなのだろう。
彼も心ではもっと枯れていきたかったのではないか。
50歳も過ぎれば多くの役者さんが上手に枯れていくことを考えると思うのですが、それはある程度若いときに栄華を極めた人だからできること。
長い間自分を子供として受け入れてくれなかった芸能人の父親に対する反骨精神が底にあり、そしてここ数年でやっと売れたという自分自身がいる。
枯れることの大切さを理解しつつもそれを許すことを許さない自分がいて、その矛盾によるストレスが間違った方向で発散されたのが、今回の事件だったような気がします。
もうほんとただの推測ですが。

2006年公開の「ゆれる」という映画があって。
それに香川照之さんがオダギリジョーさんと兄弟役で主演されているんですよね。
私はあのお兄さん役の香川照之さんが、素の彼に近いのではないかと思っています。

私生活も役者も、今みたいに目が血走っていたら疲れるんじゃないかな。
少し自粛生活をして、粛々と自省して欲しいと思います。
香川照之というポテンシャルは、その自粛期間に何か気づきを得られるのではないかと個人的に思っています。