細胞シートによる再生医療 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

細胞シートによる再生医療の第一人者である、東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長の清水達也先生のお話をご紹介します。

 

医師協Mate 2021; 324: 7(日本)

要約:再生医療は急速な進歩を遂げています。第一世代は細胞浮遊液注入でしたが、現在の第二世代は細胞シート移植の時代になっています。細胞をシート状に培養することは比較的簡単にできますが、シートをうまく剥がすこのが大きなネックになっていました。東京女子医科大学では、培養皿の材質を温度変化により変える方法により、この難題を解決しました。すなわち、培養中の疎水性培養皿(37℃)を剥離時には親水性培養皿(20℃)に変化させることにより、難なくシートを剥離することが可能になりました。この細胞シートを用いることにより、飛躍的に再生医療の応用範囲が広がりました。現在すでに商品化されている角膜上皮、条件付きで承認されている心筋細胞、先進医療として認可されている軟骨細胞の他に、中耳粘膜細胞、食道上皮細胞、歯周細胞、肺線維芽細胞の臨床研究が進められています。また、将来的には、膵臓、甲状腺、腎臓、子宮、脳、肝臓の再生医療が期待されています。今後の第三世代では、細胞シートに血管を導入したシートを用いて、拍動心筋組織移植やポンプ機能を有した管状心臓の移植が期待されています。最終的には、ドナー臓器移植から再生臓器移植への転換が実現できるようにしたいと考えています。

 

解説:心筋細胞の再生医療は1999年(J Clin Invest 1999; 103: 697)に始まり、2000年代に急速に進歩しました。それから20年以上が経過し、順次実用化されています。その間にiPS細胞も登場し、再生医療は大変魅力的な分野になりました。今回、非常に夢のあるお話を楽しく読ませて頂きました。将来、子宮内膜再生や子宮筋再生が実現できれば、現在治療法がない子宮因子の患者さまにとって極めて有効な手段になります。この世界は、間違いなく進化していますので、今まで出来なかったことが必ず出来るようになると思います。

 

なお、心筋細胞の再生医療の最初の論文を書いたのは、慶應義塾大学病院時代の私の恩師である牧野恒久先生のご子息「牧野伸司」先生です。培養した細胞が拍動を始める姿に感動が止まらなかったなど、発見の際のエピソードを聞かせてもらい、エキサイティングな気持ちになったことを思い出します。