精子DNA損傷に影響する因子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精子DNA損傷に影響する因子をMOXIスタディで検討したものです。

 

Fertil Steril Rep 2021; 2: 282(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2021.06.003

Fertil Steril Rep 2021; 2: 265(米国)コメント DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfre.2021.07.002

要約:2015〜2018年に米国9施設から男性不妊(精子濃度1500万/mL以下、運動率40%以下、正常形態率4%以下、精子DNA損傷25%以上女性40歳以下、卵管通過性あり)174名を対象に、アンチオキシダントサプリメント(ビタミンC 500mg、ビタミンE 400mg、セレン 0.2mg、Lカルニチン 1,000mg、亜鉛20mg、葉酸1000μg、リコペン10mg)を3〜6ヶ月服用しました(サプリ群85名、対照群86名、Males, Antioxidants, and Infertility = MOXIスタディ)。MOXIスタディのうち、精子DNA損傷30%以上の方147名を対象に、精子DNA損傷に影響する因子を検討しました。なお、精子DNA損傷は、SCSA法、TUNEL法、Comet法で分析しました。精子DNA損傷に有意に影響する因子は、男性年齢のみでした(0.75倍)。また、精子DNA損傷は、妊娠率や出産率に有意な変化をきたしませんでした。SCSA法、TUNEL法、Comet法にはわずかな相関を認めました。

 

解説:男性アンチオキシダントサプリメントのランダム化試験(MOXIスタディ)では、精子濃度、総精子数、総運動精子数でわずかに有意な改善を認め、運動率、正常形態率、精子DNA損傷に有意な変化を認めませんでした(Fertil Steril 2020; 113: 552)。本論文は、MOXIスタディの一部を用い、精子DNA損傷に影響する因子を検討したところ、男性年齢のみが抽出されたことを示しています。しかし、精子DNA損傷は、妊娠率や出産率への影響はありませんでした。

 

コメントでは、TUNEL法で45%精子DNA損傷陽性の場合に、Comet法ではわずか4.1%の陽性率であるとの報告もあり、精子DNA損傷の分析法として、SCSA法、TUNEL法、Comet法のどれを用いるかによって結果が大きく変わってしまう可能性があることを指摘しています。