母体ストレスは性比に影響しない | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、母体ストレスは性比に影響しないことを示しています。

 

Hum Reprod 2021; 36: 2782(英国)doi: 10.1093/humrep/deab158

要約:1749〜1991年のスエーデンの国家データベースを用いて、母体ストレスと性比の関連を調査しました。母体ストレスの指標として経済と気候を用い、分析法はARIMAモデル(AutoRegressive Integrated Moving Average)を使いました。経済指標には、GDP、CPI、Real wage、Rye price、Crop index、Consumptionを、気候指標には異常気象データを用いました。経済指標と気候指標を元にした母体ストレスは性比に影響しませんでした。

 

解説:戦争、飢饉、経済危機、環境汚染、高温環境などのストレスによりお子さんの性別に変化(女児>男児)が生じることが疫学調査(統計)により知られています。1973年TriversとWillardにより提唱されたTWH仮説です。その後、多数の研究が行われましたが、賛否両論があります。本論文は、国家データベースを用い、243年間という長期間にわたる調査を実施したものであり、母体ストレスは性比に影響しないことを示しています。ただし、検討項目は経済と気候のみですので、全てを否定したものではありません。

 

なお、本論文の著者は1名です。単独著者の場合には、複数著者による論文のチェック機構が働かないため、私はやや批判的な目で論文を見ることにしています。

 

下記の記事を参照してください。

2020.11.23「プロサッカー選手のお子さんは女児が多い!?

2019.8.25「☆X精子とY精子の新たな選別法TLR7/8:男女生み分け

2017.10.12「リン酸カルシウムで男の子の産み分けは?

2016.5.7「☆精液所見による体外受精妊娠の男女比の違い」
2016.1.4「女の子が欲しい時、夫に痩せてもらう?」

2015.4.19「Q&A667 精子無力症で生み分けは?」
2015.3.4「タイムラプスを使って女の子の胚を選別できる?」

2014.12.29「☆着床前診断(PGS)したらどうなる?」
2014.12.14「地球温暖化により女児が増加!?」

2014.9.19「Q&A452 精子の重さ」
2014.6.14「☆体外受精、顕微授精による赤ちゃんの男女比」

2014.5.18「☆抗菌剤による避妊から学ぶ、膣内感染防御の巧妙な仕組み」
2013.6.27「☆性別の選択(男女生み分け)その2」
2013.6.20「☆性別の選択(男女生み分け)その1」
2013.3.10「発育が速い胚盤胞は男の子になる?」
2012.11.27「女性のストレスが強いと女の子が生まれる?」