森中定治ブログ「次世代に贈る社会」

人間のこと,社会のこと,未来のこと,いろいろと考えたことを書きます

2021年市民シンポジウムを終えて

2021-05-22 20:24:00 | 人類の未来

相模原障害者殺傷事件を切り口にして、人間の持つ利己と利他に切り込もうとしました。残念ながら私の主張はあまりご理解いただけなかったように感じました。でも、集団遺伝学を基盤にした進化心理学(生物学:小田亮先生、岡ノ谷一夫先生)、社会科学からの利他についての言及(心理学:藤井聡先生、社会学:宮台真司先生、経済学:松尾匡先生)、私の主張(生物学)、これらが合わさった場はおそらく初めてであり、初めての試みがスムーズに行い得たことはまずはよかったと思います。

人間がチンパンジーと袂を分かって600万年、樹上から地上に降りました。地上には肉食獣など強力な外敵がいるため、より強力な集団を作った人々が生き残りました。進化心理学はこの600万年を射程としているように思いました。外敵に伍して生き残り、強くなった集団。その集団同士が争い弱ければ食糧を奪われ、時には全滅・・。自集団の内には「利他」、外の集団にはそれが裏返って「利己」となる・・。「俺たち」と「あいつら」。所詮、利己と利他はこのようなものであって、純粋利他は存在しない。岡ノ谷先生が映画『鬼滅の刃』の感想で仰った「鬼の殺しすぎじゃないか・・」、この言葉に、私にはまさに進化心理学の射程、「俺たち」と「あいつら」の区別が如実に出ていると感じました。小田先生も同じです。純粋利他は天動説であって、そうあって欲しいという願いから出てくる夢まぼろしである。でもその夢まぼろしが集団同士の争いを防ぎ、戦争を防ぐ道具になっている・・。
つまり600万年の射程では、集団同士が争うことになってしまい、利他は役に立たず、ゆえに夢まぼろしの純粋利他をいみじくも小田先生は望んでいると感じました。
有性生殖は5億年の歴史を持ちます。600万年ではありません。他人の遺伝子を育てる。その個人がどう考えようと関係ありません。利他は人間が生きていくための仕組みです。少なくとも集団の内外から出てくる損得バーターの利他ではありません。有性生殖生物は、無関係の他個体の遺伝子を育てねば存続ができません。

ハミルトンの方程式から出てくる利他、人間は生物として実在します。実在するためには自己の遺伝子を増やさねばならない。無関係の他人に、無思慮にエネルギーを与えていれば、自分自身が実在できなくなります。それは38億年前の生命の誕生以来です。5億年前に有性生殖生物が出現した。この時に、無関係の(同種内の)他個体の遺伝子を育てねば自分自身が実在しえなくなった。原初の方程式に、新しい変化が生じたのです。38億年前に生まれた方程式を、600万年前以降の人間活動に当てはめるのが進化心理学と理解しました。5億年前に生まれた仕組みが抜け落ちています。

また機会があれば、この利己と利他に関わるシンポジウムをやってみたいと思います。

なお、当日の状況は以下の通りYoutubeに上げました。
ご関心のある方はご覧ください。

また、私の歌もYoutubeにあげています。
これは市民シンポジウムとは無関係です。
ご関心のある方はご覧ください。

市民シンポジウム
相模原障害者殺傷事件について
雨宮処凛(作家・活動家)、インタビュアー(幾島淑美)
https://youtu.be/aRwVqz3ryNw

人類の道
森中定治(日本生物地理学会会長)
https://www.youtube.com/watch?v=fsOmHS0pzzk

論評
藤井聡(京都大学教授)
https://youtu.be/0ENN5UbvWbs

論評
小田亮(名古屋工業大学教授)
https://youtu.be/J5YVUA3XyKk

論評
斎藤環(精神科医・筑波大学教授)
https://youtu.be/ksbv_zFW8rg

論評
松尾匡(立命館大学教授)
https://youtu.be/Rhx5uPzV81k

歌唱(オペレッタ・市民シンポジウムとは無関係)
https://www.youtube.com/watch?v=UvfKreXEDD0

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2021年市民シンポジウム「次... | トップ | 「情けは人のためならず」に思う »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

人類の未来」カテゴリの最新記事