「暴君に仕えしまぶたなき見張りの目をつぶさん」
(ホメロス 『イーリアス』)
昨日の午後、ロンドン東南部で、若いイギリス兵士がアフリカ系の二人の男に殺害された。
男たちは兵士を殺した後も立ち去らずに、周囲に自分たちを撮影するように頼んで、アラビア語でこのように叫んでいたという。
「アラーに誓って戦いを続ける。毎日、イスラム教徒が殺されていることへの報復だ・・・おまえたちが手を引くまで戦いをやめない」
この事件を受けて、急遽、後編の前に中編を追記させていただいた。
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2001年9月11日、アメリカは建国以来初めて、本土への攻撃を許した。
ソ連が崩壊して冷戦が終結した後、世界で唯一の超大国となったアメリカは、あらゆる面での自信ではなく、奢りが目立つようになった。
そこに貧しいイスラム教徒が、アメリカの飛行機を乗っ取って、アメリカの富と成功の象徴である世界貿易センタービルに突っ込んで、世界中が見つめる中で崩壊させたのだから、超大国の威信は地に落ちる。
怒りにわれを忘れて逆上したアメリカは、ただちに報復を宣言した。
あれから12年。テロとの戦いを掲げて、イスラム諸国に空爆や派兵を続けた結果、アメリカとそれに追従する西側諸国は、常にイスラム教徒からのテロの驚異にさらされることになった。
アメリカや西側諸国からすれば、豊かな文明国に対するテロである。だが、イスラム教徒にとっては、神なき国に対するジハードである。
「暴君(アメリカ)に仕えしまぶた(神)なき見張りの目(資本主義により腐敗・堕落したヨーロッパ諸国)をつぶさん」
実際に起こっているのはテロとそれに対する血の報復だが、本質はキリスト教とイスラム教の戦い、そして中世と近代の戦いである。
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一体、ソレガ創作ヤ執筆に何カ関係アルノデショウカ・・・という質問が来そうだが、わたしは大いに関係あると思う。
インターネットや格安航空券の普及、世界遺産の認知などを受けて、20年前に比べて体験できる世界が飛躍的に広がったのは事実だろう。
その一方で、具体的な不安(巨大災害や生活不安や格差の拡大)と観念的な不安(テロや紛争や異常気象や環境汚染)が混ざり合って、だれもが漠然とした生への不安を抱えている。
一寸先は闇そして、奈落そもそも未来や老後など、あるのかどうかすらわからない。その傾向はバブルの崩壊以降に高まったが、日本の場合、あの大震災が決定打になった。
昭和の工場時代、年齢は敬うべきもので、限りない財産だった。
だが、今の金融資本の時代は、年齢は負債でしかない。
だからこそ、若さや若くして成功することが、過剰にもてはやされているのだろう。
さまざまな要因によって、現代は普通に生きたい、平凡に暮らしたい人間にとって、きわめて残酷な時代となっている。前回も書いたが、それが良いか悪いか、好きか嫌いかという善悪論ではなく、宿命として受け入れなければならない。
10年前の普通の生活が、10年後の現在にはあこがれになってしまった。
よって、今の普通は、10年後にはあこがれになっている確率が高い。
あらゆる可能性が無限に広がっているにも関わらず、現代はすべてが確定しないまま揺らいでいるので、現代人、特に日本人は非常に臆病でナイーブになっている。
困難な時代の中で、自己の人生と生活と幸福をいつ、どのように確立していくか。だれもが無意識のうちに、その答えを求めているのである。
キーワードは「家族」「仲間」「コミュニティ」「(次元の高い)連帯感」
「(自分の中の基準での)自己実現」「逆境の(鮮やかな)克服」
「プライベートゾーンに踏み入らないで親しく付き合う高度な処世術、つまり空気を読む社交術」「不安材料に対する明確な答えの提示、つまりビジネス書やハウツー本」「使える雑学」「新たな挑戦」「成功者の教え」
「最新流行」「モード」「未知を既知にできる広義のエンターテイメント」
「感動」「泣ける」「癒やし」「プチ変化」「ガンバレ自分」・・・
などがここ最近のテーマだが、この傾向はもうしばらく続く。あるいは、間違いなく加速するだろう。
よって、残念ながら、「長々とした主観的で感傷的な心理描写」や「孤高の高慢なマキアヴェリズムによる卑小な成功」や「壮絶な苦悩の独白」「悪い意味での陰湿な攻撃性」・・・
というあまりにも独りよがりの要素は、受け入れられる下地が少ない。
成功するには時代に合うことが必要だが、それ以上に、時代に合わせた努力をすることも必要である。