本日のテーマ

【お年寄りを活かす話の聞き方】

 

 

以前に“人の話を聞くことの大切さ”について述べましたが、そのことが更に理解できる本と出会いました。

 

それを教えてくれたのが、
六車由美(むぐるま・ゆみ)氏の著書『驚きの介護民俗学』です。
特別養護老人ホームの介護職員を勤務して書き上げた論文です。

 

その著書の中には、こんなことが書かれていました。

「人生を諦めたお年寄りが、ご自身の若い頃の話をしてもらい、関心を持ち聞いてあげることにより活き活きしてくる」

 

ある男性は、
「こんな年寄りになって、ただ生きているのは地獄同然だ…」

 

また、ある女性は、送迎車で葬祭場の前を通りかかったとき、
「私はいつここに来られるのやら、早く来たいよ…」

 

六車氏は、以前大学で民俗学を教えていました。実習で学生を連れてムラに通い、そこに生きてきたお年寄りたちに昔の暮らしについて話を聞きます。大勢で何度も訪れる若者たちに最初はお年寄りたちもどう対応していいのか戸惑っていたそうですが、回を重ねるうちに、自分たちの話に関心を示すことに楽しみや喜びを感じてくれるようになり、次の来訪を待ち遠しく思ってくれるようになったそうです。

 

このことをヒントに老人ホームのお年寄りたちに話を聞くことにしました。
すると、今までふさぎこんでいたお年寄りたちが話しはじめるのです。 


今では考えられない
 昔の生活習慣…
 苦労の体験…
 自慢のできること…

その姿は、ふさぎこんでいたことなどウソのように、とても楽しそうに語るのです。
それを機に以前より明るくなるそうです。
相手の話に関心を持つ聞き方をすることで心を開いてくれたのです。


 

六車氏は著書の中で、この体験に対してこのように述べています。
「一般的に老人ホームは、身体能力も記憶力も衰えた“社会から見捨てられて”老人たちが集まっているというイメージがあるのではないか。民俗研究者の意識もそう変わりはしないだろう。だから老人ホームの利用者など聞き書きの対象にはならないと、『介護民俗学』の可能性など真っ向から否定されるかもしれない。だが、ここで紹介したように、子どものころから青年期についての彼らの記憶はかなり鮮明であり、ムラで出会うお年寄りたちに勝るとも劣らない記憶力の持ち主たちばかりである。それは認知症を患った利用者であってもあまり変わらない。というのも、ここに紹介した利用者たちの半数以上は軽度~中度の認知症をわずらっているのである」

 


年老いて認知症になっても、子どものころから青年期の記憶が鮮明にあるということには驚きました。
この本を読み、お年寄りとの接し方をもっと学ばなければならないと思いました。