本日のテーマ
【怖れていることを敢えてする】
人は誰でも、自分が怖れていることは避けたいものです。
こんなことわざがあります。
「毒をもって毒を制す」
(毒に当たった病人の治療で、別の毒を用いて解毒することから、悪を滅ぼすために別の悪を利用するということ)
これと同じように、怖れには怖れを用いて対処します。
オーストリアの精神科医であり、神経科医のヴィクトール・E・フランクルは、神経症に威力を発揮する「逆説志向の技法」で効果を上げています。
斉藤啓一氏の著書『フランクルに学ぶ 生きる意味を発見する30章』(日本教文社)にこのような記述があります。
■怖れていることを敢えてすれば、悩みは即座に解決する
フランクルは、他のロゴセラピストによって報告された症例なども交えながら、神経症に関する治療例の数々を紹介している。次もまた、そのひとつのケースである。
手の震えに悩む48歳の婦人は、コーヒーカップをこぼさずにはもてないくらいの状態だった。
面談中、彼女の手が震え出した。
そこで、ロゴセラピストは次のような提案をした。
「どうでしょう。震える競争を一緒にやってみませんか?」
「なんですって!」
こうして二人は、一所懸命に手を震わせ始めた。
「まあ、先生は私より早く震えることができるのですね」
「もっと速く! あなたもがんばらないとダメですよ」
だが、婦人はついに疲れてしまい、この奇妙な競争にギブアップしてしまった。
「もう無理です。続けられません」
そういうと台所へ行き、コーヒーを入れてもってきたかと思うと、それを飲み干したのである。
カップをもつ手は、もはやまったく震えていなかった……。
素人は容易く治療などできませんが、不得意なことに対し、応用が利くように思います。
わたしの以前の体験ですが、新潟県の佐渡に講演に行ったときのことです。
わたしは、人より船酔いをするので船は苦手でしたが、このときは船に乗らなければなりませんでした……。
天候が悪く海が大しけで、船が大きく揺れ船酔いをしてしまいました。
この船酔いがかなり激しく、下船した後もしばらくは、地面が揺れているかのように感じられたほどでした。
しかし、翌日講演を終えた帰りの船でのこと、まわりの乗船客は「海が荒れている」と言っていましたが、わたしには海の荒れをほとんど感じられませんでした。
それは何故か?
昨日来るときにもっと大変なことを体験したため、自分の中の感じ方が変わっていたのです。
「あのときと比べたら、こんなことまだいい方だ」という基準ができていたのです。
今の苦しみより、もっと大きな苦しみを味わうことで、今までの苦しみが小さく思えることがあります。
もし今、苦手なこと、限界だと思っていることがあれば、今まで以上にやってみることも、克服のためのひとつの方法になるかもしれません。
すると、自分の苦手や限界の基準も変わることでしょう。