Friday 15 December 2023

Two advocacies

 みなさんは、「advocacy」という英語の単語をご存知でしょうか?

もともとは、 動詞の「advocate」から派生した単語です。「advocate」とは「代弁する」という意味です。「advocacy」は代弁、代弁者という意味になります。

HRにはふたつの「advocacy」があります。

  1. employee advocacy
  2. employer advocacy

まず、HRは社員の立場を理解する役目があります。従業員がどのように考えているか? Engageしているのかしていないのか。社員目線をもつことは重要です。

一方で、経営に近い位置にもあります。会社の人的資源が戦略とくらべて合致しているのかしていないのか。会社の人的資源をどのように進化させていく必要があるのか。経営層の立場で考えることも大切です。

しかし、もっとも重要なのはそのバランスです。

仮に、HRがemployee advocacyだけになってしまってはどうなるでしょうか? これでは、労働組合と変わりません。経営層はHRとは話したいでしょうが、労働組合とは話したいと思わないかもしれません。話しても、HRの言い分を信じてくれないかもしれません。また、従業員の権利と要求だけが大きくなり、それが、会社の利益と相反するようになれば、会社の利益も危うくなるリスクがあります。そして、社員と経営はバラバラになるでしょう。

逆に、HRがemployer advocacyに偏るとどうなるでしょうか? これでは、経営層と変わりません。自分たちの立場を理解しないHRに社員が話したいと思うでしょうか? 経営層は、会社の利益だけを目指し、社員の権利と尊厳はダメージを受け、その結果、労使関係はギスギスしていくでしょう。職場も荒れていくかもしれません。こちらの場合も、社員と経営はバラバラになる可能性が高くなります。

HRBPはERに近い領域で仕事をすることが多々あります。そのときに、ふたつのadvocacyのバランスを損ねると、マネジャーからの信頼が低くなったり、あるいは、社員との距離が大きくなったります。

どんな状態がバランスが取れていると言えるのか? それを言葉で表すことは難しいのですが、社員が言ったことを鵜呑みにして、社員の発言に問題がある場合に何も指摘しないときは、Employee advocacy > Employer advocacyです。逆に、うちのHRはマネジャーの言いなりだからと言われるような状況では、Employee advocacy < Employer advocacyと言えます。

いいバランスを取るには、まずは、ふたつのadvocacyがあることを理解すること。そして、時折、自分をその観点から振り返ること。そして、内省から改善へと意識を向けること。これを繰り返すことで徐々にできるようになると思います。

Striking a right balance between employee advocacy and employer advocacy is not a science, but an art. Art is based on the following principle: practices makes perfect.



Thursday 29 June 2023

わかりやすい話し方

先日、テレビで政治的な話題に関する番組を見ていました。登場していた解説者は二人。ともに経験・知見ともに抜きん出た方です。

一人の方はわかりやすく、興味を持って話を聞けました。しかし、もう一方の方は、なんだか話が聞きにくい。途中で話を聞けなくなってしまいました。

いったい、二人の差は何だったのだろう?

次の二点に絞られるという結論に達しました。

  1. 話の方向が見えるか見えないか
  2. 文章を切って話しているかどうか

ひとつめは、話の構成です。「結論から先に」とよく言われますが、これは、結論を先にいうと、話の方向性がわかりやすく、話を聞くのが楽になるからです。言われた質問に対して、手短にコメントをした上で、補足するというスタイルがやはりわかりやすいと思いました。

ふたつめは、Deliveryの側面です。「わたしは 思います」というのと「わたし は思います」というのと、どちらが聞きやすいかという話です。考えながら話をすると、通常は息をつがない箇所で息を切ったりします。すると、歯切れが悪い、耳障り、という印象は免れません。

残念なことに、一人の方は上の二つの側面で合格点に達していませんでした。そのため、聞いていて、わかりやすいとは思えなかったのです。そもそも、途中で集中力が切れて、話を聞こうという意欲さえ失われてしまいました。

英語だろうと、日本語だろうと、果たして、自分が話しているときに上の二つの側面においてどのようにPerformしているか気になりました。しばらく、気をつけて話をしてみよう。

 

 


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Wednesday 28 June 2023

Power of conversation to stay connected

 「HRのアウトソースを検討している」

もし、上のような言葉を社長やCEOから聞いたら、HR professionalとしては、ショックでしょうね。

「いつからですか?
「全部じゃなくて一部ですよね?」

そんな質問が出てきそうですが、一番大きな質問は次ですよね。

「どうしてですか?」

幸い、上のような言葉は聞いたことは私の経験にはありません。しかし、もし、HRをアウトソースしようかとビジネスが考えるとしたら、その理由は、ビジネスが期待していることと、HRが行っていることに大きな差があるということではないでしょうか?

If there is a significant gap between what the business expects from HR and what HR currently delivers, a question shall emerge challenging HR's service and even HR's existence.

ビジネスが望むことと、HRが提供することには、常に差があると思います。これは、WantsとNeedsの違いからくるものです。そもそも、HRはコンサルティングまたはアドバイザリーサービスを行うわけですから、相手のWantsから真のNeedsを探り当てるというのは仕事の一部です。

しかし、HRをアウトソースしようかとビジネスが考える背景には、HRが役に立っているのかということに疑問が生まれています。その理由は、おそらくは、HRがビジネスから離れていることでしょう。逆に言うと、最近のHR Directorの要求にBusiness acumenという言葉が必ず登場するのは、HRはビジネスとつながっていてほしいという要求であり、HRがビジネスからdisconnectするのは避けたいという切実なビジネスの願いでしょう。

どうすれば、disconnectを避けられるのでしょうか?

結局、キーは会話だと思います。

ヘッドはビジネスヘッドとビジネスの話をしているか。そして、HRBPはマネジャーだけでなくスタッフと話をしているか。会話をしていれば、インプットがあります。インプットがあれば、状況はわかりますので、意味のあるアクションを取ろうという方向に動くことは難しくありません。

しかし、会話がなければ、状況は見えないわけで、見えないのであれば、HRの行動がビジネスのニーズから離れてしまうのは時間の問題です。

ヘッドならば、ビジネスとは三ヶ月に一回はフォーマルな会話を持ちたいですし、それ以外に、インフォーマルまたはカジュアルに一ヶ月に一回は話していないといけないでしょう。そうでないと、disconnectするリスクが高まります。

みなさんは、ビジネスとの接点をどのように維持されていますか?
 


 


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Saturday 24 June 2023

Employee monitoring on the rise

 Covid-19をきっかけに、Hybrid workingが広がりました。

つまり、会社のオフィスで働くというのと、在宅勤務の混在した勤務体系です。中には、在宅勤務100%を認める会社も出てきました。

そんな中で増えてきているのが、Employee monitoringです。オフィスにいれば、サボっているのは比較的わかりやすいのに対して、在宅勤務をしているときには、本当に仕事をしているのか、仕事のフリをして実はサボっているのかわかりません。生産性は在宅勤務で担保されているのか? 在宅勤務が増えてきた状況では、この質問はもっともな質問です。

そこで、社員の勤務状況をモニターしようというのが、Employee monitoringの意味するところです。

Hybrid workingが始まる前からEmployee monitoringはありました。ただ、そのときは、勤務開始時間と勤務終了時間を把握するくらいでした。今は、テクノロジーの普及により、コンピューターがどのように使われているのか、アプリケーション単位で把握することが可能です。さらには、録画・録音も技術的には可能です。

しかし、こうなると、プライバシー侵害だと感じる社員もいるでしょう。そこまで言わなくても、モニターというよりは「監視」されていると感じることで、Engagementやモラルに悪影響が及ぶ可能性は大いにあります。

Hybrid workingを使ってサボタージュしているような社員にはそれなりの罰則が正当化されると思いおますが、False accusationに基づいて不当な処置をすることを避けるためには、Employee monitoringは必要です。一方で、Employee monitoringは導入の仕方によっては、モラルに悪影響を及ぼすリスクがあります。

CIPDの記事ではこの点をとりあげていますが、メンバーだけに公開しているため、記事をシェアすることができませんが、結論では、「透明性をもって社員に説明し、社員のBuy-innを得る」ことがEmployee monitoringの成功にとって重要だと結んでいます。まったく同感ですが、HR professionalとしては、Howが重要ですね。


 


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Saturday 27 May 2023

People or HR and high performing culture

つまらない話題かもしれませんが、ときどき、人に関することを、「HR matter」と呼ぶクライアントがいらっしゃいます。

そのたびに、内心では心を痛めております。

違うんだよな、だって、「HR matter」と言うと、「人事部門の課題」ということになってしまうから、「people matter」と呼ぶほうが誤解は少ないし、「HR matter」と呼ぶことで、深層心理では、人に関することは自分たちのことではなく、人事部門がやってくれることだと思っているように思うからです。

こういうとき、その場で訂正するほうがいいのでしょうか?

こういう用語の使い方をするクライアントは、HR planとPeople planの違いがわからないのかもしれません。

初めてPeople planを作ったとき、その違いを説明するためにスライドを一枚追加したことがあります。

- People plan: 組織における人に関する政策・計画
- HR plan: 人事部門の政策・計画

上の考えは、David Ulrich氏が本の中でも明確に違いを謳っていますが、ひょっとしたら、人事部門の中でも、この違いを意識している社員は意外と少ないかもしれません。何人のHR professionalsがこの違いを的確に説明できるのでしょうか? 

HRとPeopleの違いは重要だと思います。Peopleと言ったとき、そこにあるのは、人の話は組織全体の話であるが、人事部門のリーダーシップのもとに各部門と人事部門がパートナーシップを築きながら推進していくという枠組みです。この重要な枠組みを担保するのが、Peopleという言葉だと思います。

だからこそ、最近はChief Human Resources OfficerというよりはChief People Officerというタイトル名が増えてきているのだと思います。会社における人員政策の責任をもつことをHRのトップが期待されているということです。

でも、現在はCulture transformationが期待されているので、そのうち、Chief People & Culture Officerみたいな名前もだんだん増えて行くのかもしれません。

ところで、Culture transformationですが、私は、Silver bulletがあるとは思いません。つまり、これをすればCulture transformation確定みたいな特効薬はないと思います。でも、既存のスキームやプログラムを組み合わせることで、Silver bulletに見えるようなソリューションを提供できるのではないかと思います。

たとえば、high performing cultureを推進したい。言うのは簡単ですが、行うのは難しい。まず思うのは、現在high performing cultureでないとしたら、どんな側面なのか? たとえば

1) 高いパフォーマンスを目指す人が少ない→現状で満足する人が多い
2) 高いパフォーマンスに報いる制度がない

2つ目の質問は複雑です。パフォーマンスが高くても低くても賞与や昇進・昇給にあまり直結しないのか、高いパフォーマンスを上司が勘違いしているのか?

こんなとき、まずは、Executive memberとHR Leaderが1:1で話し合いをして、high performanceとはどんなことを指すのかヒアリングを行い、それをまとめてコンセンサスを得たものをPeople Leaders及びStaffと共有し、それを評価する、その上で、その成果を図るという仕組みが有効かもしれません。

みなさんは、どんな考えをおもちですか?



 


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Saturday 20 May 2023

Culture transformation (1)

最近のHRの流行といえば、Culture transformationでしょう。

変革を迫られない企業はないでしょう。技術変革、プロセス変革、そして、企業文化の変革。企業文化の変革はHRの領域だという主張です。

企業文化 (organisational culture) は、そもそも定義が難しいのですが、定義をしないことには、変革をすることはできませんよね。CIPによると

Culture is not one dimensional, fixed, or singular in its nature. It is the result of interacting people, processes, procedures, systems and networks (CIPD, 2016). 

「 文化は、性格から言って、一つの次元で語れるものではありませんし、固定したものでも、単一のものでもありません。人々同士のインターラクション、ワークプロセス、仕事の手続き、システム、そしてネットワークの結果が文化なのです。(和文は私訳です」

行動科学の研究によると、規則で縛られた環境は、ポジティブな文化を作ることができず、逆に、意図しない、願わない結果につながると言います。たとえば、個人の責任感など一切なくただ規則に従ったりする行動です。 

今朝、CIPDの書類を読んでいたのですが、企業文化ではなく、organisational climateというのがあることを知りました。

An organisational climate is widely defined as the meaning people attach to certain features of the work setting. It’s the feeling or atmosphere people have in an organisation, either day-to-day or more generally.

企業天候は、人々が仕事のセッティングのある特徴につける意味を指すそうです。日々の体験であろうが、一般的な体験であろうが、人々が組織の中でどのような感情や雰囲気をもっているか。

すでに成立しているorganisational climateのひとつに、safety climateというのがあるそうです。

This concerns employees’ perceptions that an organisation’s policies and practices contribute to workplace safety. A safety climate also focuses on what influences the safety of behaviour, for example whether an organisation encourages learning from mistakes or favours punishment. .
これを見て思ったのは、一般に行われているEmployee Engagement surveyというのは、organisational cultureを測るものではなく、organisational climateを測るものではないかということです。たとえば、失敗から学ぶ風潮が多いと思うか、それとも、失敗を責める風潮があるかという質問はEmployee Engagement surveyにはよく登場すると思います。

天候は時間とともに変わります。organisational climateも毎日変わるものなのかもしれません。常々、Employee Engagement surveyは社員の感情に左右されると思ってきましたが、Employee Engagement surveyがorganisational climateを測定対象としているのであれば、完全に納得が行きます。organisational climate = feeling / atmosphere ですから。

正直、Culture transformationに関する本はありますが、コースはあまりないため、HR professionalsがこの分野をしっかり学習する機会は少ないと思います。自分もまだまだ学習過程にありますが、別の機会に学んだことをシェアしたいと思います。



 


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Saturday 13 May 2023

UK update: Smarter Regulations to Grow the Economy

 英国の話です。

 People Managementによると、英国政府が雇用・労働に関係する法律の改定を考えているそうです。

Non-compete clauses, TUPE and Working Time Regulations in the spotlight of government proposals – what could this mean for employers?

記事によると、Non-compete(競合禁止)期間が最長3ヶ月に制限がかかる可能性があるとのこと。これにより、労働者の権利は守られるとしていますが、一方で、企業にとっては、労働者が短い期間で競合他社に移ることになり、何らかのアクションを考えるのではないかと考える専門家もいるようです。

たとえば、Notice periodを長くするということですね。

日本では、Non-competeは法律で決められていないので、日本企業にとっては対岸の火事かもしれませんが、外資系企業の日本企業にとっては、影響が遅かれ早かれ生じる可能性がありますね。この手の条項は「restrictive covenants」といいますが、外資系企業では、契約書に入ることが少なくないでしょう。英国に本社がある外資系企業の場合は、この条項の見直しがグローバルに通知されるかもしれません。

もう一点興味深いのは、以下の英文です。

The government has also suggested removing retained EU case law that requires companies to record working hours for practically all members of the workforce; employers are now obligated to keep these to ensure the 48-hour working time restriction is adhered to.
おそらく、EUの法律で、事実上全従業員の労働時間を記録する必要があるのでしょう。それを除去することを政府が提案しているそうです。

どこかで聞いたことがあるないようですね。

日本でも、管理監督者であるかどうかにかかわらず、労働時間を把握するように求められています。このことを説明するときに上の英文が役立ちそうというのはいい(record working hours for all members of the workforce)として、これが重荷になっているという認識は、日本政府にはあるのでしょうか。

最後に、TUPEという用語を初めて知りました。いや、どこかで見たことはあると思うのですが、興味を持って調べてみたのは今回が初めてです。

TUPE = Transfer of Undertakings (Protection of Employment)

事業譲渡の場合に、その影響を受ける社員の保護を規定した法律と私は捉えましたが、日本にはあまり参考にならないかもしれません。



 


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Two advocacies

 みなさんは、「advocacy」という英語の単語をご存知でしょうか? もともとは、 動詞の「advocate」から派生した単語です。「advocate」とは「代弁する」という意味です。「advocacy」は代弁、代弁者という意味になります。 HRにはふたつの「advocacy」...