敗血症という病態を知ろう
Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART3
推奨内容の整理:スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態における45項目
欧州集中治療医学会/米国集中治療医学会
〜 6グループ 93の推奨ポイント 〜
名古屋大学大学院医学系研究科
救急・集中治療医学分野
教授 松田直之
はじめに
Surviving Sepsis Campaign guidelines 2021(SSCG 2021)が, 2021年10月2日に欧州集中治療医学会と米国集中治療医学会より公表されました。SSCG 2021における「スクリーニングと初期蘇生」,「感染」,「血行動態」における45項目(93項目中の45内容)の推奨内容を整理し,記載しています。一部には,コメントを追記しています。敗血症および敗血症性ショック,敗血症診療の補助として,ご確認ください。
敗血症のスクリーニングと早期発見
1. 病院や医療システムでは,急性疾患の敗血症のスクリーニングを含む敗血症,高リスク患者,治療ための標準操作手順(standard operating procedures)などのために,敗血症のパフォーマンス改善プログラムを作成し,運用する。
(スクリーニング:強い推奨,低い質のエビデンス)
(標準操作手順:強い推奨,非常に低い質のエビデンス)
2. 敗血症や敗血症性ショックのスクリーニングツールとして,SIRS,NEWSやMEWSと比較して,qSOFAを単独で使用しない(強い推奨,中等度の質のエビデンス)。
3. 敗血症が疑われる成人では,血中乳酸を測定する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
初期蘇生
4.敗血症と敗血症性ショックは救急疾患としてすぐに治療と蘇生を開始する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
5.敗血症によって誘発された低灌流または敗血症性ショックでは,蘇生の最初の3時間以内に少なくとも30 mL/kgの晶質液輸液を開始する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
6.敗血症または敗血症性ショックの成人では,動的測定を使用して輸液蘇生のガイドとする。動的パラメータには,輸液ボーラス投与や脚上げにおける1回拍出量(SV),1回拍出量変動(SVV),脈圧変動(PPV)また心エコーの反応評価を含む(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。
7.敗血症または敗血症性ショックの成人では,乳酸レベルが上昇している患者の血清乳酸値を減少させるように蘇生の指導とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
8.敗血症性ショックの成人では,組織灌流評価の補助として毛細血管補充時間(capillary refill time:CRT)を使用して蘇生補助とする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:ベッドサイドCRTの併用が含まれています(松田直之)。
平均血圧の管理
9.昇圧剤に敗血症性ショックがある成人では,より高い血圧ではなく,平均血圧65 mmHgを初期のターゲットとする(強い推奨,中程度の質のエビデンス)。
ICU入室について
10. ICU入室が必要な敗血症または敗血症性ショックの成人では,6時間以内にICUに入室させる(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
感染症の診断
11. 敗血症または敗血症性ショックが疑われるが感染が確認されていない成人では,継続的に他の診断を再評価および検索し,他の病因が示されるか,強く疑われる場合は経験的抗菌薬を中止する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
抗菌薬投与のタミング
12. 敗血症性ショックの可能性がある,または敗血症の可能性が高い成人では,抗菌薬を直ちに,理想的には疑いから1時間以内に投与する。
強力な推奨,低い質のエビデンス(敗血症性ショック)
強力な推奨,非常に低い質のエビデンス(ショックのない敗血症)
13. ショックのない敗血症(疑)の成人では,急性疾患に感染症が併発しているか否かを迅速に評価する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
14. ショックのない敗血症(疑)の成人では,感染症の迅速調査の期間を区切り,感染の懸念が続く場合には敗血症が最初に認識された時から3時間以内に抗菌薬を投与する(非常に弱い推奨,低い質のエビデンス:BPS)。※ コメント:非ショック敗血症(疑)では,感染症かどうかの再評価を行い,直ちに抗菌薬を投与するのではなく,3時間までの時間に猶予をもたせる(松田直之)。
15. 感染の可能性が低く,ショックのない成人では,注意深く監視しながら,抗菌薬投与を延期する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)
抗菌薬開始のためのバイオマーカー
16. 敗血症または敗血症性ショックが疑われる成人において,プロカルシトニン値を抗菌薬開始の評価として用いない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。
抗菌薬の選択
17. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のリスクが高い敗血症または敗血症性ショックの成人では,MRSAの対象外の抗菌薬を使用するよりも,MRSAの対象となる経験的抗菌薬を使用する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
18. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のリスクが低い敗血症または敗血症性ショックの成人では,MRSAの対象となる経験的抗菌薬を使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
19. 敗血症または敗血症性ショックがあり,抗菌薬の多剤耐性のリスクが高い成人では,経験的治療としてグラム陰性に対する2種類の抗菌薬を併用する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。
20. 敗血症または敗血症性ショックがあり,抗菌薬の多剤耐性(MDR)のリスクが低い成人では,経験的治療として1つのグラム陰性菌として,2つのグラム陰性菌用の抗菌薬を併用しない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。
21. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,原因となる細菌と薬剤感受性がわかったら,2つのグラム陰性菌用の抗菌薬を併用しない(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)。
抗真菌薬
22. 真菌感染のリスクが高い敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗真菌療法なしではなく,抗真菌薬を経験的に使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
23. 真菌感染のリスクが低い敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗真菌薬を経験的に使用しないこと(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
抗ウイルス薬
24. 抗ウイルス薬の使用については推奨を定めない。※ コメント:Rationale(理由)には,コメントが46行にわたってまとめられています。特記事項として,COVID-19の管理については以下のSSCG-COVID-19が紹介されています(松田直之)。
紹介文献:Alhazzani W, Moller MH, Arabi YM et al . Surviving Sepsis Campaign: guidelines on the management of critically ill adults with Coronavirus Disease 2019 (COVID‐19). Intensive Care Med 2020;46:854–887.
抗菌薬の投与方法
25. 敗血症または敗血症性ショックの成人へのβラクタム系抗菌薬の投与では,従来のボーラス投与よりも,最初のボーラス後は長時間で投与する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。※ コメント:30分程度での初期投与後に,投与間隔の半分程度,つまり6時間間隔であると3時間程度の時間をかけて長時間投与するという方法です(松田直之)。
PK/PD(薬物動態/薬力学)
26. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,薬物動態/薬力学(PK/PD)の薬物特性に基づいて抗菌薬の投与戦略を最適化する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
感染巣制御(ソースコントロール)
27. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,医学的およびロジスティック的に実用的であればすぐに,感染源管理を必要とする感染巣の解剖学的診断を行い,必要な感染源管理介入を実施する(ベストプラクティスステートメント:BPS)。
※ 松田コメント:ソースコントロールとして,膿瘍ドレナージ,感染壊死組織の創面切除,感染デバイスの除去,腹腔内膿瘍,胃腸穿孔,虚血性腸炎,胆管炎,胆嚢炎,閉塞または膿瘍に関連する腎盂腎炎,壊死性軟部組織感染症,敗血症性関節炎,デバイス感染などが解説に挙げられています。
28. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,原因の可能性のある血管内デバイスを,他の血管内デバイスの確保後に迅速に抜去する。(ベストプラクティスステートメント:BPS)
抗菌薬のディエスカレーション
29. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,抗菌薬のディエスカレーションを毎日行い,毎日の評価のない一定期間後のディエスカレーションとしない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:敗血症におけるディエスカレーションは,良くなってきている患者さんに適応される傾向があるため,後ろ向きの解析などで短期死亡率を改善するという報告には注意します。一定の期間をおくのではなく,毎日,ディエスカレーションできるかどうかを検討してくださいませ(松田直之)。
抗菌薬中止のタイミング
30. 敗血症または敗血症性ショックにおいて,適切なソース管理が行われている成人では,抗菌薬治療の期間を短くする(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:管理できている感染症では,抗菌薬をできるだけ早く中止するように意識します(松田直之)。
抗菌薬中止のバイオマーカー
31. 敗血症または敗血症性ショックで適切なソースコントロールが行われている成人において,最適な抗菌薬投与期間が不明である場合は,抗菌薬を中止する時期を決定するために,プロカルシトニンと臨床評価を併用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
血行動態管理
32. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,蘇生の第一選択として晶質液を使用する(強力な推奨,中程度の質のエビデンス)。
33. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,蘇生には通常の生理食塩水の代わりにバランスの取れた晶質液(balanced crystalloid)を使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)※ コメント:救急外来やICUでは,薬剤のルート内での沈殿などの観点より生理食塩水を使用する傾向がありますが,大量の生理食塩水による腎血管収縮,急性腎障害誘発の危険性が示唆されていました。解説では,敗血症患者の14件のRCTのネットワークメタアナリシスとしてクリスタロイドが生理食塩水と比較して死亡率を低下させるとする以下の論文を紹介しています(松田直之)。
紹介文献:Rochwerg B, Alhazzani W, Sindi A, et al. Fluid resuscitation in sepsis: a systematic review and network meta‐analysis. Ann Intern Med. 2014;161:347–355.
34. 敗血症または敗血症性ショックの成人では,晶質液のみを使用するよりも大量の晶質液を投与された患者にはアルブミンを併用することを推奨する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。※ コメント:エビデンスは不十分ですが,日本版敗血症診療ガイドライン2020と一致する内容ですし,欧州の先生の見解が取り入れられています。賛同できる内容です(松田直之)。
35. 敗血症または敗血症性ショックの成人には,蘇生にHES 130/0.38–0.45 などのスターチを用いない(強い推奨,高い質のエビデンス )。
36. 敗血症および敗血症性ショックの成人では,蘇生にゼラチンを用いない(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。
血管作動薬の選択
37. 敗血症性ショックの成人には,他の昇圧剤よりも第一選択薬としてノルエピネフリンを使用する(強い推奨)
比較対象
・ドパミンよりノルエピネフリン:高い質のエビデンス
・バソプレシンよりノルエピネフリン:中等度の質のエビデンス
・エピネフリンよりノルエピネフリン:低い質のエビデンス
38. ノルエピネフリン投与で血圧上昇が不十分である敗血症性ショックの成人では,ノルエピネフリン持続投与量の増量の代わりに,バソプレッシンを追加する(弱い推奨,中程度の質のエビデンス)。(リマークス:バソプレッシンは通常,ノルエピネフリン0. 25μg/kg/分の持続投与量以上であるときに併用する。)
39. ノルエピネフリンとバソプレシンにもかかわらず,敗血症性ショックと不十分なMAPレベルの成人には,エピネフリンを追加する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
40. 敗血症性ショックの成人では,テルリプレシンを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。コメント:テルリプレシン(terlipressin)は,バソプレシンV1受容体選択性の高いバソプレシン類似体す。海外では,肝腎症候群 1 型(HRS-1)の治療に使用されています。欧州では,敗血症性ショックに用いる施設があるとのことです。敗血症性ショックでの治験では,生存率を改善する有意な結果が認められませんでした(松田直之)。
陽性変力作用/陽性変時作用
41. 十分な循環ボリュームと血圧にもかかわらず,低灌流と心原性ショックのある成人では,ノルエピネフリンにドブタミンを追加するか,エピネフリンのみを使用することを推奨する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。※ コメント:ドブタミンにより敗血症性ショックの生存率が改善したというエビデンスはありません。一方,両膝に網状皮斑(リベドー)の出現する症例に限り,NOMIの予防を含めてドブタミンを併用する臨床研究は必要です。その上で,ドブタミンの有害性については,引き続き,注意が必要です(松田直之)。
42. 十分な循環ボリュームと血圧にもかかわらず,敗血症性ショックと持続的な低灌流を伴う心機能障害のある成人には,レボシメンダンを使用しない(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
モニタリング
43. 敗血症性ショックの成人では,非侵襲的モニタリングではなく,利用可能であれば観血的動脈圧を使用する(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
44. 敗血症性ショックの成人では,末梢静脈路より昇圧薬を開始し,中心静脈路が確保されるまで遅らせずに,血圧を回復させる(弱い推奨,低い質のエビデンス)。
輸液バランスについて
45. 敗血症および敗血症性ショックの患者で,初期蘇生後も組織低灌流と循環血液量不足の兆候がある場合において,初期24時間の輸液制限が良いのか否か(restrictive vs liberal fluid strategy)についての推奨には,エビデンスが不十分である。
おわりに
本稿は,SSCG2021における「93の推奨項目」のうち,「スクリーニングと初期蘇生」,「感染」,「血行動態」に関係する45項目を紹介しています。ご確認ください。2021年においても,診療エビデンスを満たしていく領域が散見されます。本稿においては,適時,修正,追記,また補足とさせていただきます。
初稿:2021年10月6日
続編:Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 PART4 推奨内容の整理:呼吸管理,追加治療,ケアの目標と長期転帰(48項目の推奨)
参照:
PART1 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 概要 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021
PART2 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 「敗血症のスクリーニングと早期発見」について
PART3 Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021 推奨内容の整理「スクリーニングと初期蘇生,感染,血行動態の45項目」