10月20日にテレビ放映された映画『南極物語』(83年/蔵原惟繕監督)は面白かった。15頭のカラフト犬たちの迫真の”芝居”が名優高倉健や渡瀬恒彦らの演技を圧倒していたからです。

 南極物語 (2)もちろん、犬たちが俳優修業を極めたわけではなく、カメラマンと編集テクの勝利。幼児に演技をさせた(ように見せる)チャップリン映画のスキルと同じです。

 高倉健は77年の『幸福の黄色いハンカチ』を境に無口で不器用な中高年男性を演じる路線に転向して俳優生命を劇的に延長させました。この映画はまさにその路線。

 ただ個人的には、任侠映画時代の健さんの魅力をストレートに継承したのは、むしろ『ブラック・レイン』の刑事役(89年/リドリー・スコット監督)や『ミスター・ベースボール』の中日ドラゴンズ監督役(92年/フレッド・スケピシ監督)といったアメリカ映画だったと思うのです。

 日本の経済や社会が凋落ていく時代に、サムライ的に体を張って信念を貫く、高倉健のあるべき姿を撮っていたアメリカ映画の審美眼のスケールをあらためて感じました。