本当は目を背けていたいテーマなんですが、現実問題として大いにリアリティーがあるので無視するわけにも行きません。

北野幸伯さん発行『ロシア政治経済ジャーナル』の記事をご紹介します。

(以下引用)

今回は、予測というか、「可能性」に関するお話です。

私自身、「絶対に起こってほしくないシナリオ」について。それでも「可能性がある」ので書かないわけにはいきません。

▼追い詰められたプーチン

私は以前から、「プーチンは、戦略家ではなく戦術家。だから進めば進むほど苦しくなっていく」と書いてきました。
今回のウクライナ侵攻がはじまる前から、「プーチンの戦略的敗北は不可避」と書いてきました。

実際、何が起こったのでしょうか?

2月24日、プーチンは、ウクライナ侵攻命令を下します。
当初は、「3日でキーウを攻略して終わらせる」予定だった。
それで「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」という用語を使ったのです。

ところが、キーウは、落ちませんでした。
3月末、ロシア軍はキーウ攻略を断念します。

新たな目標は、「5月9日の対ドイツ戦勝記念日までに、ルガンスク州、ドネツク州を完全制圧し、勝利宣言すること」になりました。
5月9日、ロシア軍は、ルガンスク州、ドネツク州を制圧できていませんでした。

7月3日、ロシア軍はようやくルガンスク州を完全制圧したと発表しました。
プーチンは歓喜し、「次はドネツク州だ!」と小躍りしたことでしょう。

ところが、ロシア軍の進撃は、ここでストップ。
以後、ウクライナ軍が反転攻勢を強めるようになっていくのです。

プーチンは弱気になり、「停戦交渉派」になっていきます。
プーチンの停戦条件は、

・ウクライナは、クリミアをロシア領と認めること。

・ウクライナは、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を認めること。

・ザポリージャ州、ヘルソン州をロシア領と認めること。

ゼレンスキーは、こんな無茶な要求を呑めるわけがありません。
それで、停戦交渉再開を拒否していた。

そうこうしているうちに9月11日、ハリコフ州の戦いでロシア軍が大敗した。
ウクライナ軍は5日間で、東京都よりも大きな土地を奪還することに成功しました。

この敗北は、ロシアの支配者層に大きな衝撃を与えました。プーチンは、

「このままでは、ロシア軍が実効支配している、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州も維持できないかもしれない。ロシアは負けるかもしれない!」

と思ったことでしょう。

つづいてイメージされるのは、プーチン自身の未来です。
辞任に追い込まれるのはまだマシで、捕まったり、殺されたりすることもイメージできたでしょう。

プーチンは、「自分の体面、権力、命を守るために」この戦争に勝利しなければならない。

▼プーチンに残された二つの選択肢

でも、どうやって? 二つしか方法は、ありません。

・動員をかけて、兵士の数を激増させること。

・戦術核を使うこと。

それで9月21日、プーチンは、「部分的動員令」を出したのです。

「部分的」といいますが、ロシア全土で大々的に動員が行われています。
「部分的」という言葉は、「戦争」を「特別軍事作戦」と言い換えたのと同じ詭弁です。
国民がパニックを起こさないよう「総動員」という言葉を避けた。
実際は、「総動員」と変わりません。

▼戦術核使用のロジック

9月30日、プーチンは、東部ルガンスク州、ドネツク州、南部ザポリージャ州、ヘルソン州を併合しました。

併合したからといって、ウクライナ軍が攻撃をやめることはないでしょう。

何が変わったのでしょうか?

ロシア側のロジックでは、4州は、すでに「ロシア領」です。
ウクライナ軍が4州を攻撃することは、「ロシア領を攻撃している」ことになる。

そうなるとこれは、ロシア側によると、

「ウクライナ軍がロシア領を侵略している」

ことになるのです。

かなり異常な論理ですが、プーチンのロジックは、まさにそういうことになります。

そして、ロシアの軍事ドクトリンによると、

自衛のためなら核を使用することができる

のです。

ロイター9月30日。

 <ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ東・南部4州の併合を宣言する演説で、米国が第二次世界大戦末期に広島と長崎に原爆を落とし、核兵器使用の「前例」を作ったと指摘した。

プーチン大統領は最近、自国の領土を守るために核兵器を使用する用意があると述べ、核兵器使用が懸念されている。

プーチン氏は演説で「米国は日本に対し核兵器を2回使用した」とし「米国が核兵器使用の前例を作った」と述べた。>

要するにプーチンは、

「アメリカも核を使ったよね。だから、俺が使っても文句ないよね」

と主張している。

▼ロシアが戦術核を使ったらアメリカは?

その時、アメリカはどう動くのでしょうか?

サリバン大統領補佐官は9月25日、核を使えば「ロシアに破滅的な結果を与える」と警告しました。
彼は、ロシア政府に、直接同様の警告を繰り返ししているそうです。

「破滅的な結果」とは何でしょうか? サリバンさん自身は語っていません。

しかし、ホッジス元米陸軍欧州司令官は以下のように語っています。

<米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。>

(FNNプライムオンライン10月3日)

ロシアが戦術核を使えば、「黒海艦隊をせん滅させる」そうです。

実際にそうなるかわかりません。しかし、それをするとすれば、米軍・NATO軍が黒海艦隊を壊滅させるのでしょう。

そうなると、ウクライナ対ロシアの戦争ではなくなります。

NATO・ウクライナ 対 ロシアの戦争になる。

第3次世界大戦勃発です。

▼最悪のシナリオ

NATO軍の攻撃で、黒海艦隊が全滅した。

プーチンは、「やべえ!やっぱNATOにはかなわねえ。降伏しよう!」となるでしょうか?

ならない可能性が高い気がします。

そうなると、「黒海艦隊のかたき」を討たなければならない。

どうやって?

たとえば、
NATO加盟国であるバルト三国やポーランドに対する戦術核使用。

これは、NATO加盟国への核攻撃ですから、当然NATOも核で反撃する可能性がでてくる。

核の撃ち合い。最悪です。

そうなると今度は、「プーチンは、いつ戦略核の使用を決断するのか?」といった話になってきます。

▼超最悪のシナリオ

さらに悪いシナリオもあります。

欧州で、NATO対ロシアの戦争がはじまった。
アメリカは、ロシアとの戦いで忙しい。

その時、習近平は、「アメリカが欧州方面で戦っている今がチャンスだ!」と考えないでしょうか?

習は、「千載一遇のチャンスを活かさなければ!」と考え台湾に侵攻する。

そうなると、日本と中国の戦争もはじまってしまいます

なんとも、恐ろしいシナリオでした。

しかし、このシナリオの最初の部分、

「プーチンが戦術核を使う可能性がどんどん高まっている」

というのは、事実です。

クリミア大橋が爆破された。

これでまた、「プーチンが戦術核を使用する可能性が高まった」と見るべきなのです。

私には夢がある。

「第3次世界大戦が起こっていない世界で、2023年を迎えること」

戦術核が使われませんように。