「エイリアン、故郷に帰る」の巻(51) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

 

 

 

 

 

師匠が病院の地下にある

葬儀屋の中へ運ばれ、

 

個室に安置されてから

しばらくして。

 

 

 

一緒にいた義妹は、

一旦帰宅した。

 

 

 

先生が横たわるベッドの

傍には、私一人になった。

 

 

 

 

ここまで来たら、もう。

 

寂しいも

心細いもない。

 

 

 

むしろ。

 

誰にも邪魔されず、先生と

二人きりで過ごせる時間が

有難かった。

 

 

 

部屋の通気口からは、

絶えず冷たい風が流れ込み、

先生の体を冷やし続ける。

 

これでもかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

先生は冷房が嫌いなんだってば...

 

 

 

 

 

 

 

悪いことに。

 

師匠が横たわるベッドは、

体の真上に直接風が当たる

場所に置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

先生が寒いじゃないの。

冷えるじゃないの。

 

 

 

 

 

 

 

この風をなんとか

止められないかと思ったが、

 

部屋中を見回しても、スイッチも

コントロールパネルらしきものも

見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

なんで、ここまで来て。

 

嫌いなものに晒され

続けなければならないのよ。

 

 

 

 

 

 

 

ベッドの位置を

変えられないかと思ったが、

 

部屋の広さとドアの位置を

考えると、それは難しかった。

 

 

 

 

 

 

 

そう。

その通り。

 

私以外の人からすれば、

馬鹿馬鹿しい話だろう。

 

 

 

 

 

 

 

死んだ人間が、冷房を

寒いと感じるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

ええ。

至極真っ当。

 

仰る通り。

ぐうの音もでない。

 

 

 

 

 

 

でも。

 

私は師匠が死んだと

認めてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと。

 

一時的に呼吸が

止まっているだけ。

 

今この瞬間、

蘇生するかもしれない。

 

世界中に、そんな事例は

たくさんあるじゃないか。

 

先生がその一例ではないと、

一体誰に言い切れる。

 

 

 

 

 

 

 

私は本気で

こう思っていた。

 

いや。

渇望していた。

 

 

 

 

だから。

 

先生の大嫌いな冷房が

許せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

入院中から

今に至るまで。

 

一体どこまで

邪魔するつもりなんだ。

 

先生が目を覚ますのが

遅くなるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

今の私が、この時の

自分を振り返ってみると。

 

 

8年経った今でも。

 

 

馬鹿馬鹿しいとも

滑稽だとも思えない。

 

 

 

 

 

とにかく、

一途だった。

 

毎日毎秒が

真剣だった。

 

 

 

 

 

少しは心に余裕を持つことが

できるようになった近頃では。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれが、私の青春だったんだな....

 

 

 

 

 

 

 

こう思う。

 

 

 

 

 

 

当時39歳にして。

遅ればせながらの。

 

 

 

 

 

私は、あの頃ほど

毎日を真剣に生きたことはない。

 

何かを切に願ったことも

祈ったこともない。

 

 

 

 

 

儘ならなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

ここまで書いてきて

ふと浮かんだ。

 

ユーミンの曲。

 

 

 

 

 

So you don't have to worry, worry

守ってあげたい

 

あなたを苦しめる

すべてのことから

 

 

 

 

 

 

そう。

守ってあげたかった。

 

 

 

そのために、

私の青春はあった。

 

 

 

 

傍から見て、

決して。

 

キラキラして

いるわけでも。

 

懸命な姿が

眩しいわけでもなく。

 

 

 

 

それどころか。

 

アラフォーのおばさんが

日々苦しそうに、のたうち回る姿を

周りの人たちは嫌でも見せつけられ。

 

 

 

 

泣くわ。

喚くわ。

鼻水垂らすわ。

 

医者に文句言うわ。

面会時間無視するわ。

 

看護師さんに色々

迷惑かけるわ。

 

 

 

 

体調崩すわ。

不眠になるわ。

 

頭の中がメリーゴーランド

みたいにぐるぐる回るわ。

 

とうとう血尿

出たかと怯えるわ。

 

 

 

 

 

 

 

挙句に。

守ってあげられないわ。

 

 

 

 

 

 

 

私の青春は、実に

惨憺たるものだった。

 

 

 

達成感や、

やり切った感が

あるわけでもなければ。

 

 

 

輝かしいものなど、

何ひとつなかった。

 

願いも、何ひとつ

叶わなかった。

 

 

にもかかわらず。

 

挫折と後悔と喪失感だけは、

漏れなく付いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

それでも。

やっぱり。

 

 

あれが、

私の青春だった。

 

 

 

紛れもなく。

 

 

 

思い出す度、

切なく疼く。

 

涙と共に。

 

 

 

 

 

 

 

思えば。

 

挫折とは、

逃げずに挑戦した

人間にだけ訪れるもの。

 

 

 


最後まで逃げなかった。

最後まで諦めず挑んだ。

 

 

 

 

ある意味。

勲章。

 

 

 

 

誇らしさは

微塵もなく。

 

悲しい色合いを

しているんだろうけど。

 

 

 

 

 

それでも。

勲章。

 

 

 

 

 

 

 

この週末。

 

綺麗で美味しそうな

ケーキを買って来よう。

 

 

そして。

 

8年前の私を

私が労おう。

 

 

誰よりも。

 

あの頃の私の気持ちに

共感し、寄り添える私が。

 

 

 

 

 

 

お疲れ様でした。

 

 

 

 

 

 

心から

こう告げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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