【苦が滅する道】〜トの教え〜

雨風は命に恵みをもたらす。

雨風は命に恐怖をもたらす。

どちらも現実であり、古から人々は命の恵みに感謝しつつ、大自然に対する畏敬の念も抱き、生きてきました。

ところが昨今の私たちは、大自然への感謝の念も、畏敬の念も、心に抱くことなく過ごしています。

普段は雨風のことを気にもかけず、天地(あめつち)の恵みに感謝していないにも関わらず、台風のような主張の大きな現象が自分たちに襲いかかったとき、怨みの念さえ抱きます。

プレゼントをもらったら何かをお返しするのが人々の間の礼儀ですが、人々は自然から大量のプレゼントをもらっているにも関わらず、もらっていることすら気づかず、逆に自然を壊し、恩を仇で返す行いをし続けています。

あなたがもし、多くの人々にプレゼントをあげてもあげても誰一人気づいてくれず、それどころかプレゼントを壊したり、そのプレゼントを利用して別の誰かを傷つけたりしたら、どんな思いになるでしょうか。

目覚めの第一歩は『恩を仇で返している』という自覚からです。

自然が荒れ、人々や命の心のエネルギーが荒れている、その集合体が大きな大きなエネルギーをも動かしていきます。

そのことを如実に悟っていた人間は、火祭りを行い鎮火の儀式をしたり、干ばつ祓いの雨乞いをしたり、大自然と調和していくための祈りの儀式を連綿と続けてきました。

そして、森羅万象一切に八百万の神が宿っていると悟り、常に感謝の念を抱いて生きるために、地域地域に社を建て、信仰心を育て、人々が事あるごとに、祈念できる環境を創ってきました。

しかしながら、ある人々は水の恵みに感謝することを忘れて、水を独り占めして、水を命に行き渡らないようにし、水の権利を我が物にし、人々の命の営みをコントロールしています。

ある人々は大気の権利を我がものにし、人間の営みだけではない大気の変動を人間の営みだけの責任とし、「責任をとれ」とお金をせびり、大気への感謝などどこ吹く風です。

ある人々は大地の権利を我がものにし、大地から得られる恵みにも感謝することなく、強欲に命の土地を奪い、その土地で得られた利益を土地に還元するのではなく、私利私欲を満たすためだけにお金を使い果たしています。

ある人々は太陽の恵みに感謝することなく、光りを独り占めし、大地の命に影を作り、海や湖の命に影を作り、生態系を破壊していることすら気づかず、光りのエネルギーを強欲な人たちに売り、その利益で再び命たちに影を落としています。

ある人々は月の存在を忘れ、満ち潮引き潮を忘れ、命の営みの適切なタイミングを忘れ、星々の動きを忘れ、夜な夜な溺れ、方向感覚を失い、宇宙をさ迷い続けています。

光り、大気、水、大地。その大きなエネルギーから大量の命の営みが生まれ、その恵みを戴いています。

日本の人々はその昔「雨地(あめつち)の恵み、箸(柱)を高く掲げて戴きます」と言ってから食事をしていました。

柱とは木の主。つまりは大地であり、光りであり、大気であり、水であり、命の営みのすべてです。

それらの柱から箸が生まれ、その箸を使って命の恵みを戴く。

そのような感覚を宿し、ご先祖様からも受け継ぎ、大切にしてきました。

自然への感謝、自然への畏敬の念を忘れて傲慢になった人間に、脅威は度々襲いかかります。

その度に人々は大いに反省し、智恵を育て、河川を整え、家屋をより強固なものとし、情報網を細かく広くし、自然と共存していく術を磨いてきました。

しかし人間は忘れる生きものでもあり、過去の教訓が活かされないことも多々あります。

近年訪れている幾多の自然の猛威は、人間にとっては大きな困難となっていますが、その反面、感謝することを思い出させてくれたり、一つ一つ困難を乗り越えて、命として生き残るサバイバル術を身に付けたりして、人間として大きく成長し、魂が高いレベルへ飛躍する要因にもなります。

お釈迦様は「苦集滅道」の真理を説きました。

生きることは苦だと。それが真実だと。しかし苦が集まるのは原因があり、苦を滅する道もあるんだと。

自然への感謝の思いや畏敬の念を忘れることは苦の原因となります。

自然のエネルギーを独り占めし、分かち合うことを忘れて命を苦しめることも苦の原因となります。

現実を直視せず、現実から学ぼうとせず、智恵を身につけず、現実を忌み嫌い、愚痴を言い続け、現実逃避して、空想や妄想の世界に逃げることも問題の先送りとなって、苦が溜まり、後々大きな苦が確実に訪れます。

自然に感謝し、自然の脅威から学んでいくことは苦を滅する原因になります。

自然のエネルギーを命みんなで分かち合えば苦が滅する原因になります。

今目の前の現実をよく観察して「今の自分にできること」を探し「自分がこれをすることによって自分もみんなも幸せになるかな」と考えて行動することは苦を滅する原因になります。

お釈迦様は亡くなる前にこう言い残しました。

「生まれたものはみんな滅する。怠ることなく精進してください。」と。

命としての寿命としての滅。

今生まれた現象が滅し、また生まれ滅する今の滅。

両方の滅を意識しながら、今という二度と訪れない一瞬一瞬を大切に大切に生きて参りましょう。

『苦』という漢字は『古』の上に草冠が乗せられています。

古い時代から大切にされてきた自然への感謝の意に草で蓋をしてしまうと『苦』が生まれます。

今一度、長い間ご先祖様が大切にしてきたことを学び直し、『古』の心を忘れずに生きていけば、『苦』は自ずから消滅していくでしょう。

そして『古』とは『十』の『口(教え)』。

つまりは『トの教え』に他なりません。

#ホツマツタエ