実朝暗殺(三浦泰村) 05 | 輪廻輪廻

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歴史の輪は巡り巡る。

 「公暁様からだよ!使者が急ぎ父上に読んで欲しいって」

 私たちはそれを聞いて顔を見合わせた。文には一体何が書かれているのか。父はきつく結ばれている紙縒りを外すと文に目を通した。小さな紙でそれ程長い文章は書かれていない。 

 「公暁様が迎えを寄越せと言って来ている」

 「えっ」

 私たちは絶句した。公暁様は三浦を頼られているのだ。身を隠す手助けをせよと言うのか。

 「駒若、使者に必ずお迎えに参りますので、お待ちくださいと伝えよ」

 「承知!」

 駒若の顔に陰りや悲壮感はまるでない。純粋に公暁様のお役に立っているという嬉しさに満ち溢れていた。駒若が部屋を出ていくと父は叔父に言った。

 「胤義、急ぎ執権の館に行って、公暁様の居場所が分かったと伝えよ。そして、討つのか捕縛か、伺いを立てよ」

 「えっ、でも今、兄上は公暁様を迎えに行かれると」

 「あれは時間稼ぎだ」

 「兄上、これは馬鹿な考えかもしれんが、公暁様を我らが助けることは出来んか」

 「痴れ者が。将軍家殺害を起こした謀反人を三浦が庇うことは出来ん。さっさと行け」

 父の鋭い眼光に、叔父は無言で頭を垂れると、急ぎ北条の館へ向かった。叔父の気持ちもわかるが、ここは父が正しいだろう。

 「時村殿、一族に事情を伝え、すぐ館に集めて欲しい。この話が出来るのは時村殿だけだ」

 時村殿は頷いた。

 「泰村、お前は長尾定景(さだかげ)を呼べ。討伐となれば、あやつに公暁様を討ち取らせる」

 長尾定景はその昔、頼朝公挙兵の折、石橋山の合戦後から三浦の配下になった古兵だ。私は急ぎ、長尾に使いを出した。

 

 

 執権からの返答はすぐに来た。

ー公暁を討て

 と言うのが、返答だった。長尾はすぐに従者を引き連れ、雪ノ下にある備中阿闍梨の庵に向かおうとしたが、途中の三浦館近くで、公暁様一行と出くわした。どうやら迎えが遅いと憤慨した公暁様が、三浦の館まで来たらしい。抵抗空しく、公暁様は長尾定景に討ち取られた。

 「駒若、お前は今日の計画を知っていたのか」

 「さあね。ただ、公暁様は、面白いことが起きるよと言っていたよ」

 「お前も公暁様も愚か者だ」

 私は吐き捨てた。昨日の公暁様と駒若の密会は、逢引きなど甘いものではなかったのだ。

 いずれ弟の耳には、公暁様が無残な最期を遂げたことが耳に入るだろう。弟は公暁様を止めるべきだったのだ。

 「父上は、公暁様を助けてくれるよ。今日のことは、前から父上に話してあるんだから」

 何も知らない駒若は無邪気に言った。そうだ、駒若はまだ、父に雪玉をぶつけることが出来るのだ。

 私は父の元に向かった。長尾が公暁様を討ち取ったことを報告するためだ。