あの大手企業、三菱電機におけるパワハラ被害の状況がニュースで流れた。ユニオンが11月10日記者会見をおこなったため明るみになっていたものである。
さっそく記事を引用しておく。
三菱電機グループ内で、2020年度にパワハラ被害相談が330件あったことがわかった。労働組合の「電機・情報ユニオン」が10日、記者会見のなかで明らかにした。朝日新聞が入手した社内資料によると、うち8件でパワハラが認定され、加害側の社員が懲戒処分になったという。
三菱電機では、19年に20代の男性社員が自殺し、21年に労災認定されている。上司によるパワハラが原因だったとみられている。
社内のハラスメント防止研修で使われたという資料によると、パワハラ相談窓口に寄せられたのは三菱電機で111件、関係会社で219件。三菱電機の人事部門がうち238件を調べ、21年3月末時点で214件は解決とした。
懲戒処分になったものには、上司が部下を1時間以上立たせたまま大声で威圧するように説教したケースがあった。「この数カ月、お前のアウトプットはゼロだ」「7時間もかかったのか。自分なら15分で終わる。お前はバイトか」といった発言によるパワハラもあったという。
自殺した社員の労災認定が相次ぎ、三菱電機は20年からハラスメント研修の対象を全社員に広げた。三菱電機広報部は研修で資料は配布しているとしたうえで、内容への質問については「社外秘のため回答は差し控える」としている。
大企業の場合、いまだ労働組合が活動している状況なので、企業と対峙する姿勢の労働組合から実態が公になるリスクはつきものだ。しかし、その動きは止められない。企業別組合がない企業でも、労働者が外部組合に加入して、その活動から明るみになるリスクもある。
記事で公開されているのは、2020年度(2021年3月末まで)のパワハラ相談件数などである。330件と聞けば、「そりゃ、多い」「すごい」というのが印象だろう。
ただ、冷静に見なければいけなのは、大手企業の場合は、グループとして総まとめで数字をみるため、親会社だけの数字ではなく、子会社も含まれている数字という事実だ。三菱電機で111件、関係会社で219件と内訳が記載されているので明らかである。それに、子会社の数、従業員数も中小企業とは比較にならない。
こうして報道されることは企業としては、あってはいけないことで、恥=汚点となった。就職を探している学生からも印象が悪い方に働く要素になる。
しかし、三菱電機を援護するわけはないが、企業イメージが良くなる要素もある。330件とカウントしているくらい、相談を受け付けて活動している企業であるという証になっている。8件は企業としてパワハラを認定し、加害行為者は懲戒処分しているとのことだから、標準的なパワハラの事後対応は行っている企業との印象にはなる。
通常は、パワハラが世の中で多発している状況でも、相談窓口がない、相談しても何もしてくれないなどが、まだまだ多い。三菱電機グループは「事後対応を行っている企業です」というアピールにもなったわけである。
ただ、どうだろう。330件もあって、パワハラ認定が8件という。実態が記事通りだとすれば、三菱電機グループにあっても、企業としては、パワハラとは受け止めない傾向なのだとの印象にもなる。パワハラをパワハラじゃないとしたのか、本当にパワハラにならないという行為だったのか、真実は当事者にしかわからない。世間には、シンプルな数字で把握し、インパクトも強烈であるので企業としては損な数字かもしれない。
自殺者も出ているとのことだから、社内では相当な対策を行っているのだろうことは予想される。事実、パワハラ研修を全社員に拡大して行っているという。一般的に、社内でペーパーの案内はしても研修は幹部クラスだけとうのが多い。
記事では記載がないが、中には精神疾患を発症して、労働基準監督署に労災申請している事例もあると推察する。自殺の例は、企業対応はともかく、遺族が、声を上げ、損害賠償、労災などすべての動きをするはずである。
懲戒処分のパワハラの1例が記事に書かれているが、このパワハラは酷い例である。このような態度になってしまうのはなぜか。精神疾患を専門とする医師の書物ではさかんに取り上げられているテーマだ。
小職はパワハラ関連の相談をよく受けるが、「今、ここ、私」の意識がパワハラ増加の要因の一つだと感じることが多い。そこに他人の人格権の意識は薄い。つまり、「今さえ何もなければ、ここだけ無事ならば、自分だけ、自分の立場だけ良ければ」の意識で仕事をし動いている。周囲や相手への意識はない。パワハラにおおいて、企業の保身の姿勢を目にすることが多いのも、こうした意識の表れのように思える。
今回の記事は、パワハラについて、人について、考える機会を与えてくれたものだった。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】