すぐにメールに返信しない労働者のスマートフォンを取り上げたら慰謝料 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

代表取締役が会社貸与のスマートフォンを取り上げられたニュースである。昨今の労働問題は、従前にはみられない、そんなことがあるのかというものが増えている。加害行為者の行為が明らかに常識を超えた範疇になっている。

 

医薬品の開発業務などを請け負う(株)インテリム(東京都台東区)で働いていた労働者が、社用のスマートフォンを代表取締役から取り上げられたことなどを不服とした裁判で、東京地方裁判所はスマホ取上げを不法行為と判断し、慰謝料30万円の支払いを命じた。労働者がメールにすぐ返信しなかったのに立腹して行った扱いで、合理的な目的・必要性のない違法なものと評価している。このほかにも2度の賃金減額や配転などを違法とし、一連の不法行為により退職を余儀なくされたとして、慰謝料計220万円の支払いなどを命令した。

 

今回の記事の中には、賃金減額や配置転換もあるが、詳細がわからないので、スマホ取り上げの話題のみ触れたいと思う。

 

記事によれば、スマホを取り上げた原因は、労働者がすぐにメールに返信しなかったからというのだ。まるで子供のようなレベルの原因に驚く。相応の企業のはずであるが、メールをすぐに返さないからとスマホを取り上げる事態になることが、とても信じられない。

 

身体だけ大人になって精神は子供のままという表現をしたくなるような事件だ。そんなことから、アメリカのダン・カイリー博士が提唱した「体は大人、心は子供」という誰もが持っているパーソナリティ障害の一種に、ピーターパン症候群(ピーターパン・シンドローム)というのがあることを思い出した。

 

小職は、その分野は専門ではないため、見聞きしたレベルを記載するに留めておくが、事件の出来事が非常に稚拙としかいいようがない。本当に、心の障害であったならば、まだ、別な視点からの検討の余地を残すことになるが、医薬品開発の企業の経営をしていた実態からは、心の障害ではなかったと考えてよいだろう。

 

労働問題である以上、どうすればこのような事件が生じなかったのか、生じた後はどう対応すればよかったかなどは考えるのだが、原因があまりにも稚拙すぎる。完全に経営者の感情で左右される出来事に、論理的な理屈など意味をなさないものだろうと思ってしまう。

 

メールの内容までは記事からがわからないが、たとえ、緊急メールであったとしても、代表取締役がメールを送信しても、部下はすぐにそれを確認できる状況にあるとは限らない。たとえ、現代のように、スマートフォンありきとしても、何割かは、そのことも予想してメールは取り扱うことが必要である。

 

記事からはわからないが、すぐにメールを返信しなかった場合の「すぐに」が知りたいところでもある。返信するまでどのくらい空いたのかはポイントの一つである。あまり遅ければ、部下のメール対応行為に問題がなかったとは言えないかもしれない。

 

スマートフォンは会社が貸与しているもので、いうなれば、所有は会社にあることから、感情的に取り上げる行為が安易に行われてしまったのだろう。労働者個人の所有のものであれば、会社は取り上げることはできない。

 

いずれにしても、会社貸与のスマートフォンであっても、スマートフォンを取り上げる行為自体に、業務上の必要性が見いだせないのは、致し方ない。多くの専門家がみれば、そう受け止めるのではないだろうか。ジャンル的には、パワハラの主張がされてもおかしくないものである。

 

すぐにメールを返信してこなかったからと、感情にまかせて、スマートフォンを取り上げる行為に慰謝料30万円。金額自体の大小ではなく、行った行為の代償としては、あまりにも痛い勉強代となった。

 

ニュースになった企業には気の毒であるが、せこせこブログを書いている小職のようなものには、とても興味の沸く事件である。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】