甘いセロリ

甘いセロリ

倫理に反した恋。
でも始まってしまった2人。

ときめき、切なさ、諦め、後ろめたさ、、、

人生後半で 人を愛する ということを通して
今までの価値観を変えてしまういろんな想い。

ミノリ45歳の物語です。

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出勤途中にナルから メールが来た。

ナルからの着信音は 特別な音。
ナルが私のためにと 半分冗談で口ずさんだ「セロリ」だ。

ナルはメールが苦手らしい。

メールが来ても 自分から問い合わせしない限り、
着信はない設定にしている。

使い勝手の悪い、そして場合によっては 都合のいい設定だね。と
付き合い始めのころは 皮肉たっぷりに言ったりした。

恋しくて切なくて送ったメールは 何通も宙ぶらりんのまま。



「好きなのに 想いが伝わらないと思う時は 相手もそう思っているはずだ。2人してそういう付き合いにしてるんだよ。」

莉子さんが 彼の愚痴を 言っていた時、親しくしていた常連のお客さんに言われたことがあった。

まさに 私とナルのことだと 心の中で 納得したのを憶えている。


あれから 私のペースに ナルが巻き込まれたのか、
私がナルのペースに慣れたのか わからないけど、今では ナルの方からメールが来るようになった。

内容はどうであれ、私に向けたメールを打ってるんだから、
私のこと朝から考えてくれたんだな~、なんて嬉しく思いながら 開店の準備をする。




出勤前は、子供と夫に朝食を作って送り出し、
軽く掃除機をかけて 洗濯をして、、、と慌ただしいいつもの朝。

そうすることで、同じように 慌ただしく送り出されているナルのこと、
家にいる間のナルのことを 考えなくてすむ。

自分も同じ立場だし、初めからわかってたことだけど、
ナルが起きた時、すでに付いているテレビの話や
コーンフレークはレーズンが入ったのが好きな話に 軽く傷付く。


矛盾している。
じゃあ どうして欲しい?どうしたい?

楽しく過ごせる時間がある。
それで いいにしよう。


「今日も 好きよ」 好き過ぎなのに気付かれないように お昼を過ぎて返信した。
今日は日曜日。

日曜日は定休日なのだけど、今月は2回貸し切りイベントが入っている。

土日の営業はつまらないな。
平日は 外回りのナルがお店の前の道を車で通ってくれたり、メールをくれたりするのに。


7年前に始めた喫茶店は 街中の比較的大きな道路に面していて、道路側はガラス張りだ。


私と 莉子さんの2人でやってきた小さなお店。

莉子さんは なんでも話せる10年来の付き合いで
彼女もいろいろ話してくれる。


この10年のうちに 彼女は 年下の彼と同棲して、この春 結婚した。

私も お店を開いたり、好きな人(ナル!)が出来てしまったりした。




今日は 若い夫婦のお客さんが多いな。

日曜日の昼下がり夫婦一緒にお出かけ。
赤ちゃんをあやしてる若いパパとママ。


莉子さんは、ちょっと前まで こんな場面を見るとメソメソしていた。
なかなかプロポーズをしてくれない同棲中の彼。
自分に あんな日は来ないのでは?と。

籍を入れてからは、それはそれは微笑ましく見れるようになったみたい。


私は、、、、、ナルが赤ちゃんをあやす姿を想像する。
人付き合いが苦手で、表現力がなくて、誤解を受けやすいナルが
赤ちゃんを抱いて優しい眼差しで ユラユラ体を揺らしている姿を。


あんな時代がナルにも私にもあったんだよね。


それが当たり前だった10年前。


悲しいとも、泣きたいとも 違う言い表せない感情が 湧いてくる。

ナルにとって どんな10年だった?


ふーっ。。。
いやいや、ため息はつかないことにしたはず。

「ミノリちゃん、ボーッとしないで。待ってても今日は ナルやん通んないよ。」莉子さんが 空いたカップを下げながら言った。


そうだ。
連絡ないとわかってる日曜日は 仕事に没頭しよう!




明日は 顔見れるかな。

ナル、ナルも私を想っていてね。


そして10年後、今日の日を愛しく思い出せるように過ごそう。
金のタマゴを生むニワトリの話。

たしか…ひとつずつの金のタマゴが待てなくて、ニワトリのお腹を切って開けてしまう話。

待っていたら、ニワトリは少しずつでも 金のタマゴを生んでくれたのに。

昨夜のことを考えてたら、なんとなくこの話を思いだした。


シティホテルのフロントで「今回でご利用が30回になりますので」とサービスがあった。

30回。。

付き合い始めて2年半、月に一度で30回。


30回なんて 若いころ、毎日セックスしたら1ヶ月でこなせるよ。

だからって40を越えた今のナルにもっともっと!とお腹切るようなことしたら、、、The end?



金のタマゴを生むニワトリのように。


待ってたら、この先もずっと抱き合えるのに。

「回数では今までの人に追い付けない。」と言ったら、「量より質」とサラッと交わされた。


私はどこに向かってる?

好き過ぎて敵わない。
ナルは スタイルがいい。

昔 水泳をしてたからか、いつも惚れ惚れする裸。


1ラウンド終えたあと、
「寝てていいからね。」と言いながら、ベッドで横になってるナルに
上から キスをし続ける。

「眠れんな。」とナルが笑う。

「疲れてるんだから 寝ることに集中して」といい キスをやめない。


一緒に過ごしていても いろんな夜がある。

どんなに好きと言われても泣きたい夜や、
何気無い会話のちょっとした間に 距離を感じる夜、
何も話さなくても 握った手の感触で 愛が伝わる夜、、、。

「ねぇ 好き ?」と聞いてみる。
今夜は 切なくならずに いろいろ聞けそうな 夜。

「好きよ。」ナルが答える。

「今までで一番?」
「今までで一番。」

「私とこうなって楽しい?」
「うーん、、楽しいとも違うんだよね。」

そう、楽しいとは違うね。
でも、楽しいとも思っていたい。



また キスしたくなちゃった。
上に乗っかる。

「お店にいる時の顔と全然違う。誰も想像つかないだろうね、ミノリのこんなトコ。」
と言ってナルが笑った。

ナルのこんな顔も私だけのもの。

帰る支度しながら、やっぱりちょっと切なくなった。






出会いは 数年前。

新しく出来たライブハウスで、専属バンドとして彼のバンドが決まった。
箱バンっていうらしい。

そこに 私が 出入りするようになった。

ありきたりな、安っぽい出会い。

これまたありきたりで、バンドメンバーで一番上手いナルに
私は どんどん惹かれていった。

たぶん、それが伝わっちゃった?

人と接することが苦手なナルとは 話しをすることもできないまま
出会ってから3年、突然不意に抱き締められて 急接近となったのだ。

そんなやり方ないでしょ、ナル。
2chとかでよく叩かれる表現の、、そう頭の中は一気にお花畑 になってしまったじゃん。