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都内のBarでバイトをしながら、夢を追い掛けている。
俺にはどうしても叶えたい、小さい頃からの夢がある。
何の夢かまでは人に言うほどのことじゃないし、馬鹿にされたくないから他人に話したことはない。
高校の同級生や後輩達は、次々に結婚して子供が出来て、家を建てたり仕事で出世したり、着実に人生を謳歌している。
今の自分は、欲しいものは普通に買えるし車も持ってる。生活する分には全く問題はないけど、そこから先が重要なんだ。俺の本当の夢はここからだから。
もうすぐ30歳、節目の歳。男は30からなんてよく言うけど、その意味が俺にはまだ到底理解できない。
一刻も早く夢を掴みたいから。自分で言うのもなんだけどその為の努力ならしてきたし経験も積んできた。何だ…何なんだ…あとは何が足りない…
俺はずっとこのままなのか…?
自問自答する日々を繰り返す。そんな毎日だ。
最近店に、とある女性が一人で来るようになった。あまりにも目を惹くほどの美しさで、周りの客も動揺を隠せない様子だった。俺も思わず立ちすくみ言葉が詰まった。
いつかまた来ないかなぁ…
そんな下心を持て余していると早速今夜も彼女がやって来た。
Bar店員 郁人「いらっしゃいませ」
客 潤子「こんばんは」
美しいその彼女は足取り良く目の前のカウンター席に座った。
郁「いかがいたしましょう?」
潤「うーん…なにかオススメのものはありますか?」
郁「そうですね……定番ですが、カシスソーダはいかがですか?酒言葉が貴女にぴったりだと思いますので」
潤「酒言葉?」
郁「カシスソーダの酒言葉は、”貴女は魅力的”…です」
潤「ふふっ…お兄さん照れ屋さんなんですね」
郁「え?」
潤「耳も首元も真っ赤ですよ。」
郁「………///////// 失礼致しました」
潤「いえ!嬉しいな…ふふっ…じゃあそれ下さい」
彼女は俺よか1枚も2枚も上手だった。敵う相手ではない。そもそもに俺の女性へのHPはむしろヤムチャ程度だった事を忘れていた。
彼女は何とも魅力的に笑い、長く柔らかそうな髪をふわっと耳に引っ掛けた。よく、何フェチかなんて話があるけど、髪を耳に掛ける仕草は彼女のために存在している気がする。
俺は思い切って話しかけた。
郁「髪、お綺麗ですね」
潤「えー??本当ですか??笑 あんまり褒められた事ないから嬉しいです…。今まで割と高級なシャンプー使ってたんですけど、何だか痛んできちゃって。最近、市販のジュレームっていうシャンプーに変えたんですよ。だからかなぁ…?//// えへへ…笑」
俺は馬鹿だった。この人の照れ顔なんてどんな表情より数百倍も可愛いに決まってる事に気付かなかった。ただ単に自爆した俺は、あやうく死にそうになりながらも心のシャッターを連打した。
これは憧れの先輩などに出くわした時にやる俺の必殺技だ。出来ることならDRで録画して「彼女のココが最高!VTR」を編集したいくらいだ。そして後輩の深澤に自慢してやりたい。それくらいあまりにも可愛いが過ぎた。
潤「もう…褒めるのお上手なんですね!笑 このお仕事は長いんですか?」
郁「そうですね…下積みは10年以上です」
潤「下積み?」
郁「俺…夢があるので!その為に今ここで働いているんです」
潤「へぇ…夢、かぁ…」
彼女は遠い目をしながら真っ赤なカシスソーダを口に含んだ。口紅の真っ赤なルージュとカシスが一体化しているようで、なんだか見てはいけないものを見ているかのようだった。
潤「わたし、夢って好きじゃないんです」
郁「え…?」
潤「なんか、夢って言っちゃうと実際に手が届かないような…結局夢だけで終わってしまいそうな気がしません?」
郁「………。」
黙ってグラスを拭いていると視線を感じた。彼女が俺を見つめていた。
潤「あなたが抱いてるのは夢というより、”野望”の方が近いんじゃないですか?…あなたは私と似てる気がするから」
郁「野望……そうですね。その方が近いかもしれません」
潤「私とあなたは多分似ているんですよ」
郁「そうなんですか…?」
潤「そう、なん、ですっっ!ふふっ…詳しくは内緒ですけどね♡笑」
重たい瞬きをしてから白くて細長い美しい指でグラスを包み込み、氷の涼しい音を立てて飲み干した。
郁「貴女の野望って…」
潤「あなたはきっと大丈夫。」
郁「え?」
俺の言葉をさえぎるように彼女は言った。
潤「死に物狂いで努力して頑張ってる人は、いつか必ず…必ず誰かが見てくれていますよ。あなたが諦めない限り」
郁「……………。」
潤「それに!」
彼女は立ち上がって何の迷いもなく明瞭に言い放った。
潤「男は30からが人生本番ですよっ!!!なーんてね♡笑 これうちの部長の口癖なんですよ。男は年上の方が絶対良いって。何なんですかね?笑 …あ!カシスソーダすっごく美味しかったです。ごちそうさまでした!また来ますね♡」
郁「ありがとうございました。またお待ちしております」
カランコロン…
彼女は店を後にした。
きっと、こういう女が男をより「男」にしていくんだろう。そして同時に骨抜きにもしていく。
きっと貴女にあんな言葉を言われたら、どんな男でも信じてしまう。信じずにはいられなくなるし、彼女の為に、知らずと力が湧いてくる…そんな気がする。
「誰かが見てくれてる」か… 昔お世話になった滝沢先輩にもおんなじこと言われたな…
努力した人達が必ず報われる世界ではないけど、俺がやりたいんだったらやるしかない。無駄な事なんて一つもないんだ。はーーー…なんか酔っ払っちゃったかなぁ… って、まだ飲んでねぇか。
それにしても。
到底手は届かないけど、世の中にはあんなにも魅力的な女がいるのか。
あんな人がそばにいる男って一体…ーーーーー
カランコロン…
少し猫背な男性が入ってきた。常連のカズさんだ。先ほどまで例の彼女が座っていた右隣に座った。
カズ「生で」
郁「かしこまりました」
ビールを半分ほど飲んだところでグラスを置きながら彼は話し出した。
カズ「はぁ、参っちゃうよねぇ」
郁「どうかなさいましたか?」
カズ「戦うにしても数がこうも多いとねぇ…疲れんのよ」
カズさんは両手で顔を覆った。
郁「何か叶えたいものがあるんですね」
カズ「叶えたい…かぁ。ちょっと違うかなぁ」
郁「…と言うと?」
カズ「うーん……奪いたい…のかな。まぁ、絶対しないけどね」
目を見開いて真っ直ぐな視線を向けられた。俺は一瞬背筋が固まった。カズは少し慌てたように「ははっ…」と笑い直した。
カズ「ふーみん。一杯付き合ってくれない?」
郁「もう!やめてくださいってその呼び方!wwww 気に入っちゃってんじゃないですか!」
カズ「ははははは!wwww」
カズ「ふふっ、これは何に乾杯?笑」
郁「そうですね……では、お互いの”秘めた野心”に」
カズ「さすがふーみん良い事言うわあぁぁぁ!!!!!!!」
郁「声でかいですって!!www」
「「乾杯」」
カランコロン…
カズさんが店を後にした。いつもは明るいカズさんだけどみんな見た目では分からない想いを抱えているんだなぁ…
すると、店外が騒がしくなった。
まるみ「こまきさん、いつものここでいいですか?」
こまき「あーもうどこでも!キンキンのビールが飲めればもうどこでも!会社連中が居ないとこ!」
骨子「…なぁ??今日暑いよな??もう、私のハンカチ絞れると思う。早くビール飲みたい…ビール…ビール…なぁやっぱ今日暑ない???」
まるみ「はいはいわかったわかった入ろ入ろ」
カランコロン…
いつもの愉快な女性3人組が入って来た。
郁「いらっしゃいませ。3名さ…」
まるみ「いつもの個室いいですか?とりあえずビール3つでお願いします!」
郁「…かしこまりました」
骨子「トリアエズビール…(ぶつぶつ)」
カズさんと同じ会社の女性3人組。彼女達の素性は詳しくは知らないが、彼女達の会話の中で、よく「雅紀」と「かな男」の名前を耳にする。
いずれにしろ男の名前だ。毎回個室を選んでいるからどうやら他人には話を聞かれたくないらしい。恐らく3人のうちの誰かの恋の相談にでも乗ってあげてるんだろう。
郁「お待たせしました」
骨子「ありがとう〜。またメニュー決まったら呼びまs………?!?!」
郁「かしこまりました。失礼します」
3人「ウェーイ(乾杯)」
こまき「(ゴクゴクゴクゴクゴクゴク…)」
まるみ「ん、骨子どうした?」
骨子「あたし今の店員知ってる気がする…」
こまき「(ゴクゴクゴクゴクゴクゴク…)」
まるみ「えっ、知り合い?雅紀と繋がってる?」
骨子「わからん。でもなんか心がざわつく…」
こまき「ぷはーーーーーーっ!!!!カッ!!!!」
まるみ「じゃいっか。早速だけど本題いくな?時間無いから。どこまで話したっけ?あ、そうそう!かな男がな……」
今宵も大人達の夜更けは過ぎて行く。
郁「マスター…今日ちょっと自分の仕事が終わったら早めに上がってもいいですか?」
マスター五関「おう、いいけどどうした?」
郁「お酒飲んだらもう眠くなっちゃって…」
五「お前、酒弱ぇくせに勧められるといつも必要以上に飲むよな!笑 いいよ、俺あとやっとくから。帰んな」
郁「すいません…(ふにゃふにゃきゅん)」
五「おい!ここで寝るなっつーの!…ったくもう〜…こう見えて真面目なんだから…」
バサッ
( ☆˘ш˘ )スヤァ…(クッション抱いてる)
ソファーに寝転ぶ郁人に、マスターはそっとタオルケットを優しく掛けた。
五「…これからだよな、郁人」
マスターは優しく微笑みながら郁人の頭を撫でていた。
〜完〜
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潤子がめちゃくちゃいい女だよって話でした。
調子ぶっこいてカズの話まで勝手に割り込んですみません!!!!!!(楽しくなっちゃった)
河五ぶっこめて私はもう満足です。素晴らしいGWでした。マジで何もしてないGW。すごい。
おしまい。