A Challenge To Fate

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【地下ジャズLive Report】“Breeze Blow” ~ sara (.es ドットエス) + 建畠晢 @白楽Bitches Brew 2021.10.8 fri

2021年10月11日 01時16分45秒 | 素晴らしき変態音楽


2021.10.08 fri
“Breeze Blow”
at
Bitches Brew

18:30 open / 19:00 start
charge ¥ 3,000- (include 1d)
act: sara(.es) , piano
guest: 建畠晢 Akira Tatehata, poetry



2009年に大阪のアートスペース、ギャラリー・ノマルで結成されて以来12年間日本の先鋭音楽シーンで活動してきたコンテンポラリー・ミュージック・ユニット.es(ドットエス)は2021年5月に大きな変革の時を迎えた。サックス/ハーモニカ/ギター奏者にしてユニットの核の片割れであった橋本孝之が天に召され、ピア二ストでありフラメンコ・ダンサーであるsaraが.esとして活動を継続する決意をしたのである。ギャラリー・ノマルで7月3日に内田静男(b)、8月8日に落穂の雨=川島誠 (as), ルイス稲毛 (b), 山㟁直人 (ds,perc)を迎えてのコラボレーション・ライヴを開催。東京では8月1日に渋谷公園通りクラシックスでの「Concert for Taka~橋本孝之君に贈る演奏会」にて各10分間のソロと内田静男(b)と橘田新太郎(g)とのセッションを行った。
Live Review:Concert for Taka~橋本孝之君に贈る演奏会

それから2か月、関東で初の単独公演が開催された。会場は2014、2015年に.esとして出演したことがある横浜・白楽のBitches Brew。フォト・ジャーナリスト杉田誠一が運営する隠れ家的なジャズ・バーである。ゲストに詩人で美術評論家の建畠晢が出演。建畠はギャラリー・ノマルとの関係が深く、.esとも何度かライヴでコラボレーションしている。2019年8月のノマル30周年記念レセプション&記念BOOK「アートの奇跡」出版パーティーでのライヴ音源は5枚限定のレコード作品『パトリック世紀』としてリリースされた。



第1セットはsaraのソロ。.esで何度も演奏を観たことはあるが、髪を振り乱し鍵盤に挑みかかるような体の動きに圧倒されて、鍵盤を弾く手元をよく見ることはなかったが、この日はこじんまりとした会場でピアノまでの距離が近かったこともあり、手元をじっくり見ることができた。その十本の指は、まるで蛇のように鍵盤の上を這い回ったり、人魚の尾ひれのように鍵盤の水面を遊泳したりするかと思えば、マッサージ師のマジックハンドになって硬直した白鍵と黒鍵を交互に揉み解すように愛撫する。手指の動きが鍵盤からピアノ線へ伝わってピアノ全体が共鳴して発する歌声は、saraの体内・脳内のバイブレーションを空気中に開放する生命の歌であった。
あたり前の話だが、ピアニストは自前の楽器を持ち歩く事はできない。必然的に演奏する会場に設置してあるピアノを使うしかない。当然ピアノの個性は千差万別、時には相性が合わない楽器もあるが、その楽器を短時間で弾きこなさなくてはならない。最近調律したばかりだというBitches Brewのアップライトピアノは、saraにとっては面白い子・変わった子と感じられた。初めて会った不思議なピアノのお陰で、今までやったことがない弾き方に目覚めたようである。



しばしの歓談の後、第2セットは建畠晢とのコラボレーション。新しい詩集からの作品を含め5・6編の作品を朗読。冒頭でsaraがハーモニカを吹く。このハーモニカは、橋本が生前「気分が明るくなるように」と購入したものと同じメジャースケールのモデルで、人前で演奏するのは初めてだという。建畠の淡々とした朗読に合わせた厳かな演奏は、絶叫調の詩になると一緒に燃え上がり、以前コラボした「パトリック世紀」では朗読をかき消すような轟音に変化する。言葉は即興ではないが、音楽と共に発せられるとき、すでに用意された形を脱して新たな衣装を纏った別の響きとなって聴き手の脳に刺激を与える。そんな相互作用が一瞬一瞬刻まれていくライヴ空間の濃度は、例えば詩のボクシングだったら、息を飲むばかりの緊張感の重みで押しつぶされそうになるところだが、saraと建畠が培ってきたシンパシーに彩られた20数分は実のところたいへん和やかで心地よいものだった。

NOMART25周年記念 - レセプション 建畠晢+.es 即興パフォーマンス @Gallery Nomart 2014.8.2


sara=.esドットエスの行くべき道が荊の道や蛇の道ではなく、創造の神の祝福を受けた愛の道であることを予感させるコンサートであった。ピアノの上に置かれた橋本孝之の写真が心なしか安堵のため息をついているかのように笑っていた。



歩き始めた
道の向こうへ
風が吹く


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