ひとこと申す

母の命…「医療」と「訴訟」の格闘物語

70. 医療事故情報センター

2014-05-26 19:15:55 | 訴訟・裁判
H法律事務所は、どんなに原告が(訴える側)提訴を希望しても
勝ち目のない(表現は悪いですが)案件は
むやみに訴訟しないというスタンスで、
慎重に事前調査をする姿勢でした。

Z病院・F病院のカルテ類が揃い
10月の下旬にH弁護士とH夫人のお二人は
名古屋の医療事故情報センターに向かわれました。
選任された協力医O医師と面談されるためです。
(O医師は東京在住の医師でした)

まず“訴訟”にふさわしい事案なのかの確認のためです。
初回の面談のところでも書きましたが
弁護士が扱う裁判の中でも、医療訴訟は難しい案件のひとつなのだそうです。
専門的なことが多く出てきたり、
それが医療過誤・事故に値するものなのか
立証することが難しいのだと思います。
(裁く法律の専門家が、決して医療に詳しいわけではないのです)
               

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
<<説明>>

【鑑定制度】
医療過誤裁判は医療の世界の専門的な事柄を扱っているので、
裁判官にとっても自分の知識や経験では判断しにくい事件です。
そのため、
・被告とされている医師の言っていることが正しいのか
・診療の中でミスがあったのか
・そのミスが元でその患者が死亡したり後遺症が残ったと言えるのか
といったことについて専門家の意見を聞いてみたいと考えます。

このような時に公平な第三者たる専門家に意見を求めるのが鑑定制度です。
専門的な分野の事柄を扱う裁判では重要な制度です。
鑑定の内容は裁判官の知識を補うものでもあり、
裁判官が判決を書くときの証拠の一つともなります。
しかし、鑑定書を書くのも被告医師と同じ分野を専門としている医師であり、
医師の世界では同僚の批判はしにくいので、
どうしても医者側に甘くなる傾向があります。
ですから鑑定をしたからといって、すっきり解決できない時もあります。
また医療の世界では、
専門家として評価されている人が法廷で証言したような時には、
その後にそれに対して異を唱えることはためらわれるようです。
反論してくれる協力医を見つけることが困難で苦労します。


【協力医】
医療過誤訴訟に立ちはだかる三つの壁
(専門性の壁、密室性の壁、封建性の壁)のうち
最も困難な壁は、「封建性の壁」である。
我国の医療界にあっては相互批判の精神もそのシステムも成熟しておらず、
自浄作用が甚だ不十分であり、医療過誤訴訟の場面では、
「同僚かばい」の傾向が強くうかがわれる。
加えて、多くの臨床医は日常診療に追われ時間的に余裕が少ないうえ、
「過去のできごと」よりも、直面する患者さんの治療に
情熱を傾けていくべきであるという心境になりやすい。
さらに背景的事情としては、国民が訴訟とか法律に
親しみを感じていないということも指摘できよう。
これらの事情から医療過誤訴訟に
医師が積極的にかかわることは容易なことではない。
  
              引用:医療事故情報センター ホームページ

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
<<補足説明>>

医療訴訟とは、「医事関係訴訟」「医療過誤訴訟」とも呼ばれます。
・医療行為の適否
・患者に生じた死亡、後遺障害などの結果と不適切な医療行為との因果関係
・そのような結果に伴って発生した、損害の有無及び額
                 が主要な争点となる民事訴訟です。

基本的には一般の民事訴訟の手続きと同じ流れで進行しますが
2点の特徴があります。
・専門的な知見を要する訴訟のため、他事件よりも鑑定を行う場合が多いこと
・カルテ等の改ざん防止のために、患者側が訴訟を提起するに先立ち
 自身もカルテ等を入手する目的で“証拠保全”を行う場合が多いこと

また、平均審理期間も大きく変わります。
(平均審理期間…第一審裁判所で、訴えが提起されてから、
 判決や和解などで事件が終了するまでの期間のこと)
・一般の民事訴訟が8.4か月
・医療訴訟が24.0か月(約2年3か月)
とても長い時間を要する訴訟なのです。

一般に、患者側が医療訴訟で勝訴するのは難しいと言われています。
判決で終了した医療訴訟事件だけを見ると、
請求認容判決(一部認容を含む)の割合は
平成20年の認容率(=勝訴率)は26.7%で、
通常訴訟の8割強に比べるとかなりの低率です。

民事訴訟では、全ての事件が判決で終了するわけではなく、
和解(話し合い)で終了する事件も相当数あり、
医療訴訟では、全医療訴訟事件数の約50%程度が
和解で終了しています。


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69. F病院の医師の見解

2014-05-14 22:18:17 | 訴訟・裁判

勤務しているF病院で、
主治医のKI医師、内科部長のY医師、
人工呼吸器設定などに関してお世話になった麻酔科のS医師に
話を伺うことができました。
皆さんお忙しい方なので、
どのような意図で何を聴きたいのか明確にして
できるだけ短時間で済むようにして臨みました。

主治医のKI医師と内科部長のY医師には、
内科外来担当の日に、
比較的楽に声をかけることができたのですが、
私の勤務部署と無関係の
S麻酔科医師とはなかなか会うことが難しく
(院内用のPHSでお呼びするのは失礼と思い)
休憩時間に立ち寄られそうな場所をウロウロしたり
担当の麻酔科外来の周辺を覗いたり…と、
予想以上に苦労しました。結局、外来の廊下で
立ち話のような形で話をさせていただきました。。

母が亡くなったのは1月、お話できたのは7月の上旬で
かなりの時間が経っていましたが、
3人の医師はいずれも(症状や病態が重かったためか)
母の経過を詳しく憶えられていて、
スムーズに聴取することができました。


ポイントは、Z病院の診療やF病院転院時の母の状態です。
確認事項は
・(Z病院で)発熱後3日間放置されたことは予後(病気の結果)に影響したか
・早期にF病院に転院すれば救命できたか
・肺炎が悪化した年末に、F病院で投与された抗菌剤(抗生物質)の選択は妥当か
・画像診断や血液ガス分析がされていないことについての見解
・細菌検査(起炎菌の特定)や感受性テストは、現在の医療では必須か
・母のような状態で、医師の診察・訪室がない(Z病院)ことについて

                                 などです。

<<主治医のKI医師>>
・肺炎は初期治療が肝心。
 発熱当初に治療がされなかったことは予後への影響は大きい。
 自分では、放置することは考えられない。
 もし発熱していることを報告されてなかったのなら、その看護師の責任も重大。
 早くに当院に来ていれば、助かった確立は高い。
・転院時はすでに肺炎に合併した成人呼吸促迫症候群の状態だった。
 有効な治療法があるので、重症化する前に
 適切に行っていれば効果があった可能性は高い。
・抗菌剤の選択も自分とは違う。
 Z病院入院時(11月)に使用して効果があった薬剤をまず使うべき。
 それで効果がなければ、さらに強いものを選択する。
 (具体的に薬品名を言われましたが、ここでは省略します)
・肺炎を少しでも疑うならレントゲン撮影は必須。血液ガス分析も同様。
 SpO2 90%0を下回る状態で酸素投与をしないのは不可解。
 細菌検査も通常は行うべきであり、Z病院のスタンスがわからない。
・診察行為がないことは、医師の応召義務に反していると思う。

 KI医師は、私が訴訟を考慮している旨を伝えた後も、終始好意的で、
「カルテを早く差し押さえた方がいい」
「弁護士さんが言っているようにやはり争点は
 “治療の遅れ”“転院の遅れ”がポイントになるだろう」
「僕も証言台に立った方がいいのかな…」などと発言されました。
また、翌日『肺炎診療ガイドライン』をコピーして手渡して下さいました。


<<呼吸器科部長 Y医師>>
・治療がされなかった3日間で肺炎が悪化したことは考えられる。
 予後に影響しただろう。
・早期に転院していれば救命できた可能性はある。
・Z病院で使用した抗菌剤も広域性で決して間違いとは言えないが、
 自分なら(あの状況なら)
 別の薬剤(Z病院で使われた抗菌剤より強力な薬剤名)を使う。
・検査はどれも必須。SpO2 80台~90前後なら酸素を投与するべき。


<<麻酔科S医師>>
・治療が遅れた3日間の状態がわからないので何とも言えないが…
 治療は早いに越したことはない、タイミングが大事。 
 坂道を転がるように悪化する例は少なくない。
・当院に搬送された時点では重症肺炎で、
 人工呼吸管理が必要な呼吸不全状態だったのは明確である。
・年末年始だったので主治医が不在でアルバイトなどの当直医が診ていたのなら、
 検査・治療指示が遅れたことは想像できる。
 (…実際は主治医が病床を訪れていましたが)

S医師とは立ち話の状況だったため、
私はZ病院での母の状態や行われた医療に関して
十分な説明ができませんでした。
また彼が“呼吸器科専門ではない”という立場から、
明言を避けられた印象を受けました。

++++++++++++++++++++++++++++++

また並行して、F病院でのカルテの開示・コピーに着手しました。
まずは市の病院事業局宛てに、診療記録の開示の申し出…。
これに対して病院事業管理者から
「診療記録開示決定書」が通知されました。
この通知書とともに本人確認ができる書類等を持参し
病院の担当係へ提示するよう記載されていました。
(私の場合は、庶務の方も見知った職員でしたし
 私自身が職場のユニフォームを着ていたので
 “本人確認”のものは不要でしたが。)

一番悩んだのが…病院職員である私が
「何故、母のカルテ開示が必要なのか」を
どのように説明するべきか…でした。
いろいろ考えて庶務に赴きましたが、
何も聞かれることはなかったのです。
確認されたのはコピーの部数だったり…で
あとは所要時間・日数や料金についての説明を受け
意外にも、すんなりと終わりました。


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68. Z病院のカルテ

2014-05-05 22:17:08 | 訴訟・裁判
証拠保全が行われて間もない6月の初めに
差し押さえられたカルテ類とCD-Rが届きました。
同封された請求書の明細には証拠保全に関する費用や
執行官の旅費(交通費)なども記載されていました。

Z病院での母の入院期間は約1か月間です。
医師の記録や指示簿、看護記録や様々な書類。
決してすぐに目を通せる量ではありませんでした。
Z病院の記録はまだ電子カルテ化されておらず
“手書き”ということも、読みにくさに拍車をかけました。
年末の母の容態悪化以外でも
気になる場面が幾つか(…幾つも)ありましたので
自分の記憶とその場面の記録が、どの程度一致しているのか
…などを確認しながらの作業は、予想以上に時間を要しました。

12月末、肺炎が再燃した頃の記録を読む際は
自分が記した病院でのメモ(ノート)を脇に置いて
比較しながら読み進めていったのです。
医師や看護師のそれぞれの筆記。
特徴ある字体や文章表現…
記憶にあるスタッフの顔を思い浮かべ
私の抱いていた印象と、目で追う記録を一致させながら。

見ていくにつれ、色々なことに気づきました。
Z病院で独特に使用されていると思われる用語・略語、
ほとんど展開されていない看護計画(看護の基本である)など。

記録は…簡素でした。
案の定というか、予想通りというか…。

まず医師記録。主治医のK医師は、
母のもとに来ることが僅かでしたし
来てもほとんど診察行為をしていませんでしたから
書いてない(書けない)のは当然ですが。

驚いたのは、看護師の書く看護記録にも、
実際に起きたことや家族とのやりとりが
(私の厳しいクレームなど)きちんと記録されていないことでした。
私はこれまで看護師として
「起きたこと」や「患者の状態」「実施したこと」を
できるだけ明確に、時系列に、きちんと記録する
           …という姿勢を教えられ、育ちました。
ですからこの記録は、大きなカルチャーショックでした。
そしてこの“書かれてない”ということが
もし訴訟となった場合には、こちらの不利の要素になる…
Z病院側が「知らない」「事実でない」
言い張ることができるのでは…
そんな懸念を抱いたのです。


ですが、ここで止まるわけにいきません。
何のためにここまで来たのか。
カルテ類が届いた翌々日には事務所に電話し、
調査を進めてほしい旨を伝えました。

6月末に私たちは再度事務所に足を運びました。
カルテを見たH弁護士・夫人の感想も、私と同様でした。
事細かに記録がされていること 証拠になる
      (良い意味でも、悪い意味でも)
でもZ病院のように“書いていない”と、言い逃れができ
逆にあちらに有利になり、難しいかも…と。

ただ、母の状態悪化が読み取れる部分や、血液データはあり
やるべき検査や処置が(たとえばレントゲン撮影など)
十分なされていないことも明らかで、
こちらの言い分が通る可能性はある とも。


それぞれの見解を話し合い、今後の予定を構成し
医療訴訟に向けて、一歩踏み出すことに決まりました。

母を看取ったF病院に、
続けて勤務している私に課せられた役割…
・F病院で母の診療にあたった医師の見解を聴く
・F病院のカルテ開示・複写を請求する
                      ということでした。


後日、説明されていた『弁護士委任契約書』が送られてきました。

【事件の表示】という項目があり、
事件(名)は「医療事故調査」と記されてました。
は、に対して、下記事件の処理を委任し、乙はこれを受任した」

裁判に関しての書類の表記には、甲・乙が頻繁に出てきます。
この場合“甲”は私たちで(書類には父の氏名)
     “乙”は担当の弁護士ということになります。



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67. ついに開始

2014-04-29 22:12:02 | 回想
初回の面談をして約1週間後に、法律事務所から
・陳述書
・証拠保全申立書  が届きました。

<陳述書>
陳述書は、我が国の民事訴訟における
両当事者から提出される証拠の一種で
言い分などをまとめた書面のことです。
ただこの陳述書のみで、事実認定されることは殆どありません。

陳述書の内容を確認して
署名押印するように説明が添えてありました。

面談で伝えた気持ちや、調査カードに書いた私(達)の心情が
きちんと表わされた文面でした。

「私は○○(母の氏名)の娘です。
 私は看護師です。私が勤務してきた病院と比較して、
 Z病院の診療はあまりに杜撰です。
 あんな病院に入院させなければよかったという後悔でいっぱいです。
 Z病院に対しては、母の入院中から不信感を抱き、平成△年12月27日以降、
 病院での出来事などを記録していました。
 母の診療経過については別紙にまとめたとおりです。」




<証拠保全申立書>
医療訴訟においては、患者側が訴訟の準備段階に、
医師や医療機関を相手方として、
カルテの改ざんを防ぐため証拠保全の申立てを行います。
それを求めるための書類になります。
裁判所が病院等を訪れてカルテなどの検証を行うのです。
これで得られたカルテなどから、
実際に訴訟を起こすかどうか検討することにもなります。

申立人代理人の欄には、担当の弁護士名が記載されていました。

申立の趣旨・理由、疎明方法、附属書類、保全書類等目録、当事者目録
などの項目で構成された、6枚の書類でした。

申立理由の“証すべき事実”には
「相手方が○○(母)に対する診療にあたり、
 医師として尽くすべく注意義務を怠り、○○を死亡させた事実」

                            とありました。
当事者としては、Z病院の母の主治医K医師と、Z病院長。

母が骨折してから亡くなるまでの
“事実経過”が書かれていました。
特に、年末年始に肺炎が再燃・悪化した様子や
その時の医療・看護の状況が簡潔に…。
不十分な検査、不適切な治療により、
予後が(疾患の見通し)格段に悪くなり
救命の可能性に大きく影響したと、
強調されていました。

保全書類等目録に挙げられていたのは
診療録、医師指示票・指示簿、看護記録、レントゲン写真
諸検査結果記録・画質検査記録、診療報酬明細書(控)、
診療に関して作成された一切の文書及び物(電磁的記録含む)
               
この時点で私が持っているZ病院に関する書類は
入院診療計画書と退院証明書、29日の血液検査結果だけ…
あとは、誰もが見ることができるホームページ。
Z病院のホームページには、
現実とはかけ離れた 『医療・看護の理念』が
書かれている印象を、常々受けていました。
(これをもとに母の転院先の病院として選んだ)
ホームページも修正される可能性があるので
保全の対象(疎明する手段)とされたのだと思います。


私は早々に、署名押印した陳述書とともに
入院診療計画書・退院証明書・血液検査結果を
法律事務所宛てに送りました。

私が行ったことは、書類を読んで理解し、署名押印。
それだけなのに…慣れない作業による疲労感と
「ついに始まった!」という、異様な昂揚感でいっぱいでした。
でも…裁判には“本当に時間がかかる”のです。

動きがあったのが、さらにここから1か月後。
弁護士と執行官によりZ病院証拠保全が行われました。
証拠保全諸経費は予想より低額で…1万円弱でした。


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66. 初回面談②

2014-04-19 15:18:32 | 訴訟・裁判
提訴するか否かは
「まだまだ時間的余裕はあるのでゆっくり考えましょう」と。

カルテの保存期間
カルテなどの差し押さえ(改ざん回避のため)
第3者から、提訴の価値がある案件か判断を仰ぐ
その後に提訴を考えても十分遅くない   
           の4点をポイントに話されました。

最低でもカルテは、
5年以上保存が義務付けられています。
この年の1月に亡くなった母のカルテ=証拠は、
まだまだなくなりはしない。
ただ、カルテが改ざんされないよう、
差し押さえだけでも、急いで行う必要があるとのことでした。
(業界の正式用語では“証拠保全”と言います)

カルテ等の医師や看護師の記録や、画像・データなどから
新たに見えてくるものもあり、
第3者の専門家(協力医)の意見・鑑定を受けてから
提訴を決めても大丈夫…と言われました。


前頁でH弁護士が言っていた
医療訴訟の勝訴率が低いことを知ってもらうためでしょうか…
(これも正式には、勝訴は“請求認容判決”というようです)
H氏から、この事務所が手掛けられた
ひとつの案件が紹介されました。
個人情報を伏せた形で、文面を見ることができました。

この案件を要約すると…
・原告(の家族)は具合が悪くなって病院を受診した。
・診察の際に測定したSpO2(酸素飽和度)が60~70%台だった
 (正常では95%以上)
・医師はこの患者を帰宅させ、間もなく亡くなった
                 という事例でした。
通常ならSpO2がこんなに低いと
重篤な疾患・状態ととらえ
入院や、他施設への紹介などが行われるはず…。

「この判決…どうだったと思いますか?」
こんな明らかな医師の判断ミス、これで負けるとは思えない…
「負けたんですよ」
 えっ…?
「そう。うちも絶対勝てると思ってました。
 途中までそういう空気でしたし」
「でも最後でひっくり返されました」
「担当した医師が耳鼻科医で、専門外だった…という理由で」

その理由自体おかしい…
耳鼻科でも酸素飽和度など、医療の基本中の基本!
「これが現実の裁判なんです」


そして追い討ちをかけるように…
H夫人「過去の肺炎の裁判事例が少ないのです」
H氏・夫人、お二人の前には
肺炎に関する資料がたくさん置かれ、
この日のために学習・調査されていたのが分かりました。
事例が少ないと、今後、もし裁判になった時に
過去の判例を用いての反論等ができない…
ということなのかもしれません。

日本人の死因の上位を占める肺炎。
年齢を増すごとに順位は上がり、60歳代辺りから
日本の三大死亡原因(悪性新生物・心疾患・脳血管疾患)に次ぐ
4位に挙がっています。
そして80歳代くらいから2~3位以内を占めているのです。
肺炎は特に高齢者は侮れない病気がゆえに… 
肺炎で亡くなる方やご家族の多くが、
「病気だった」「年だった」「仕方なかった」で
おさめているのでしょう。
事実私は、そういった患者さん・ご家族を
たくさん看てきました。

H夫人
「お母様の受けられた治療や看護は
 明らかに杜撰ですが、死亡との因果関係を証明し、
 裁判官を納得させなければいけないのです」

気持ちが重く「やはり母の事例も難しいのではないか」
…と俯いてしまいました。

そんな空気を払拭しようと、H夫人声を大きくして
「でもZ病院の落ち度はたくさんありますよ!」
家族に催促されて初めて行った検査・治療も多く、
後手後手になった対応は明らかで、
「見通しは暗くないと思います」と。

このH夫人と話していて…改めて気づきました。
そう、母の場合は
「仕方なかった」で済ませてはいけない部分がたくさんある!


もう予定の面談時間は過ぎているのに
特に私たちを早く帰そうという雰囲気はなく…

私は夫人に尋ねました。
 「東京のT病院にいらしたんですよね?」
夫人「ええ、そうです」 
私 「私もです」
夫人「えーっ?! いつ頃? 何階(病棟)?」
(調査カードや面談のやりとりで
 H夫人
は私がナースだということは知っておられました)
急に夫人の声のトーンが上がり、親近感も倍増
「私は○階(病棟)が長かったですが、△階にも…、
 □階でも働きました。20年余り、一昨年まで」

「あーじゃあ、一緒の時期もありますよ。
 私は消化器外科の病棟で×階」
「タレントのWさんがオペした時なんか
(マスコミが)賑やかでしたよね」


雰囲気が一気に盛り上がったのでした。
面識なくても当然…なくらいの大きい病院でしたが
勤務時期が何年か重なっていたため
できたら少しでもお知り合いになれていたら…と
とても残念に感じたのは言うまでもありません。


そんな雑談も入ったことで、和やかな様子で、
この日の面談は終わりました。

帰りがけ…立ち話のようにH夫人が
「私、ナースとして、いろいろな病院でバイトした経験があります」
Z病院のような病院も、決して少なくないんのだと。
人にもよるが『え、これでいいの?』と辛く感じるナースもいる。
また、たとえ患者サイドが病院側に疑念があったとしても
医療に詳しくないと追及することが難しく、
多くは泣き寝入りになっている…と。

「お母様は娘さんにこんなにしてもらって
 きっと喜んでいらっしゃいますよ」
と…
背中をさすってもらうような、温かいお言葉でした。
心の痛みをわかろうとする、彼女の優しさが伝わってきました。
張りつめていた緊張も解け、
久しぶりに涙腺がゆるんだひとときでした。

この日は、とりあえず勧められた
「まずは証拠保全(カルテの差し押さえ)を行う」
ということで合意し、面談が終了しました。

当日は『相談料』として 5千円(+消費税)を支払って帰路に。
(時間は延長しましたが、料金は取られず…)

後日送付された振り込み用紙で、
『着手金』を送金しました。(10万円+消費税)


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