CHRISTINA【400】
『SAMAEL』の聳え立つ石壁の手前、マンチニールの林を覆うハウスの前『SAMAEL』の会社をぐるりと巡る雪深く積もった一般道路にエヴァがひとり、ハウスの方を見詰めて立っていた。
その横にギーガからフラと現れて―雪を軽く全身に載せたエヴァの体から雪を払って傘を差して、どお?と訊いた。
「ギーガ...皆は?」
「寒いからヤだって。今回のエヴァ捜索隊は解散だ」
「 ...私の予定は、セディックに色仕掛けをして
暫くいい思いさせて幸せの中で逝かせたかった」
「まじで?...それじゃあ帰還予定はどれくらい?」
「そうね、ホントはソウシの大学入学後に予定していたから
1ヵ月位?セディックと楽しい海賊船生活の予定、してた」
「目覚める度に薬で眠らされたことで予定変更した?」
「ううん。いつかは目覚めた瞬間と薬追加に来る人がずれるときが
来るだろうからそのときにスーヴに連絡取って今の話するつもり
でいた。でもその前に、私の想定外の事態になってた。ウケる」
「1ヵ月もあんなクズ野郎と付き合うことなかったってことだ」
「クズ野郎...それよ、リツコが忘れていても一度はリツコが愛した
人、セディックはリツコに裏切られてもリツコ一途だった。から
そうしてあげたかった。けど、目覚めて現実を知って本気で目が
覚めたわ?シベリアのあのときと結末同じって... 」
「だな。俺も結界の蓋開けてびっくり」
「はあ?...知ってたわよね?」
「いいや。結界張ったら俺でも観えない」
「 ...そか...ホントに...ナールってこれしか知らない?って...毎度
毎度毎度っ!最悪しかしない同じことしかしない...子供拉致監禁
挙句売るって...挙句毒ガス... 」
「欲しがる人が居る。問題はソコ。叩いてもうようよ生まれる」
「何時迄ナールの生息続くのよ」
「そしたら俺たち死ねるのにね」
「ギーガ...御免。アナタは万年こういう思いして生きてるのに」
「コムスメには小娘にしか出来ないことがある。今回みたいに」
「 ...うん。」
ギーガとエヴァの目の前のハウスの中では毒林檎を食べたのか樹液が体に触れたのか蒼い顔して藻掻き苦しんで悲鳴するカトがいる。
「こいつに未だシール貼ってんの?剥いだ?」
「未だ剥いでない。10回くらい死んでもらう」
「マンチニールは即死じゃない?ずっとここにいて見届けるの?」
「寒い?帰っていいわよ?今回拉致したコたち以外にこいつは今迄
沢山の少年少女の生きたまま内臓取り出しとか娼館斡旋やってる
私はそのコたちの無念を晴らす。10回でも足りない」
ギーガは、あそ。俺も付き合う。と言って自分たちの周りに、宙の中に焚火 のような炎を5つ現して配置した。
「何してんのよ?人に観られたら浮遊の狐火じゃない。怖いっ」
「だって寒いっ。カトだってここにじっとしてない?これで死んで
生き返ったら今度は走り出して移動するかもだろ?その準備して
おかないと。大丈夫だ。人が来たらパイが邪魔してくれる」
エヴァは呆れて―呆れ捲ってギーガを無視した。
ギーガはそのエヴァに、あ。と言って自分に抱き寄せた。
「俺が寒いって言ってる?優しくして」
「 ...貴方みたいに観想出来る人になりたい」
「小娘はコムスメのままでいい」
「 ...ばか王子」
課との悲鳴響く深雪の中、ふたりは長い時間、ハウスの前に居た。
「楽しそうだな。狐火...その手があったか」
エヴァは映らないが、雪降る中、傘に雪が積もっては周りの炎が雪を溶かすを繰り返す長い時間、ハウスの前に佇むギーガを未だ宙に現している大画面で観て―ランプが言った。
そのランプにスーヴが、この不思議な火を人に観られたら何て言うんですか?と笑って言った。
「海に犬の散歩のときに使う。海はあいつら喜ぶが
俺は勘弁って思ってたストレス解消案だよ、これ」
「何ですか?皆で寒がりですか?」
スーヴに言われて―ランプとルチル、カトの最後迄見届けてギーガと一緒にこの場から離れようとギーガを待ってギーガの映る画面を観ていたカロンとジンジャー、ラウルとアクア、ナッキとラピスが一斉にリッツを観た。
マチルダはスーヴの側について―何のことか判らない。
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