「護られなかった者たちへ」　★★★★☆～“護る”とはどういうことか

※※※　注意　※※※

　「シネマ報告書」は、映画鑑賞後の率直な感想を伝えるため、映画の内容や核心・結末に触れる、いわゆる“ネタバレ”が多分に含まれる場合があります。

　これから観ようと思っている方は、本報告書の趣旨についてご理解のうえ十分注意してお読みくださるようご了承願います。

「『シネマ報告書2021』の掲載にあたって」

“護る”とはどういうことか ★★★★☆

（2021年／日本／134分） 【　脚本・監督　】 瀬々敬久【　原作　】中山七里【　出演　】佐藤健
阿部寛
清原果耶
林遣都
永山瑛太
緒形直人
吉岡秀隆
倍賞美津子

【あらすじ】

　東日本大震災から9年後、宮城県で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという殺人殺人事件が発生した。

　宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎は、部下の蓮田智彦とともに捜査に乗り出すが、被害者はいずれも人格者で人に恨まれる人間ではないという。

　そんな中で、笘篠は2人の共通部分を見つけ、傷害事件で服役していた利根泰久という男が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。

　犯人も目的は何か。捜査を進めるうちに震災を生き抜いた利根と固い絆で結ばれた人間たちの哀しい出来事が明らかになる―

【コメント】

　10月に入ってもまだまだ夏模様の今日この頃。ちょいと気になっていた本作を劇場で鑑賞。邦画お得意のヒューマンミステリーですな。

　本作は予告編で散々観ていたものの、当初は違う映画を観ようと思っていてスルーしようとも思っていたのですが、阿部寛にハズレなし！（と勝手に思っている）ということで、一路「立川シネマシティ」に足を運んだ次第です。

　良かった・・・スルーしなくて本当に良かった。号泣、号泣、大号泣。凄惨な殺人事件の裏に隠された、東日本大震災を背景に固い家族のような絆で結ばれた身寄りのない人間たちのドラマ。ヒューマンな感動もさることながら、単なるお涙頂戴の浅いものではなく、“護る（まもる）”っていったい何なんだろうと深く考えさせられる、とても奥が深い作品でしたね。

　本作のキーワードとなるのが“東日本大震災”と“生活保護”。先にも書いたとおり、背景は東日本大震災で多くの犠牲者を出した宮城県。そこで全く身寄りのない3人、親の顔すらも知らない青年と少女、一人暮らしのおばあちゃんが身を寄せ合い、いつしか家族のように絆を深めていく。面倒見の良いおばあちゃんの励ましによって心を開き成長した青年と少女は立派に成長し社会に巣立っていくが、肝心のおばあちゃんは明日の食事も困るくらい生活が困窮しており、何とか助けてあげようと青年と少女は役所に生活保護を受けるよう促す。

　思うに、タイトルの“護られなかった者たち”というのは、罪なき多くの人たちが命を落とした東日本大震災という“神”に護られなかった者、生活が困窮しているのに生活保護が受けられず“行政”に護られなかった者、赤ん坊の時に捨てられ親の顔すらも知らない“親”に護られなかった者だったのではないかと感じます。そんな人間たちが自らを犠牲にして必死で他人を助けようとする姿を見ると、クライマックスの事件の真相に目頭が熱くなってしまうわけです。

　おばあちゃんを助けられなかった怒りが正義感として現れるわけですが、行政も実は手続きに沿っているわけで決して間違ったことはしていない。互いに正義があるわけで、助けたいのに助けられないジレンマが世の中にはあるわけですね。

　主人公である阿部寛＆佐藤健は言わずもがな、清原果耶も胸に突き刺さるのですが、僕はおばあちゃん役の倍賞美津子が隠れたMVPだと思っています。頑なに心を閉ざす佐藤健に、あくまで優しく優しく、自分のことは二の次に手を差し伸べる菩薩のような存在。すべてを包み込む心温まるようなおばあちゃんを見事に演じていましたね。

　邦画の十八番ヒューマンミステリーですが、今回は心に沁みわたる本当に良い映画を観ました。ストーリーの妙と監督の手腕と役者の熱演が見事に融合した秀作だと思います。

【2021年度 Myランキング】（10/3時点）

　本作は、本年度のベスト10中2位（暫定）にランクイン。

　誕生月になってしまったぜ。

（ベスト）…　★★★☆以上が基準

　　１位：ファーザー ★★★★★

　　２位：護られなかった者たちへ　★★★★☆

　　３位：孤狼の血 LEVEL2 ★★★★☆

　　４位：すばらしき世界 ★★★★

　　５位：ヤクザと家族 The Family ★★★★

　　６位：空白 ★★★★

　　７位：ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結 ★★★★