猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

百日告別

2022-08-14 21:58:12 | 日記
2015年の台湾映画「百日告別」。

多重衝突事故で婚約者を失ったシンミン(カリーナ・ラム)と、同じ事故で妊娠中
の妻を亡くし、自らも重傷を負ったユーウェイ(シー・チンハン)。それぞれ最愛
の人を失い、その事実を受け入れることができない2人。しかし現実は無常にも
流れていく。初七日から七七日と節目ごとに、合同葬儀で山の上の寺を訪れるシ
ンミンとユーウェイは、読経を通じてお互いの存在に気づいていく。

トム・リン(林書宇)監督による人間ドラマ。数台の車による大きな玉突き事故に
巻き込まれ、シンミンは結婚間近の婚約者を、ユーウェイは妊娠中の妻を失った。
シンミンは結婚式の招待状も出来上がっていて、式の後は沖縄に新婚旅行へ行き、
婚約者と共にレストランを開く予定だった。ユーウェイの妻はキリスト教徒だっ
たが、親戚は皆仏教徒なので、キリスト教式と仏式のどちらで葬儀をするか話し
合い、結局仏式になる。山の上の寺で合同葬儀が行われることになり、シンミン
とユーウェイはそこで大勢の人たちと並んで読経するうちに知り合う。
静かだがいい映画だった。シンミンとユーウェイの2人が主役で、それぞれのエ
ピソードが交互に描写され、彼らの最愛の人が生きていた頃のエピソードも挟ま
れる。シンミンは結婚式の招待状を処分することができずにいる。幸せな将来が
待っていたはずなのに、自分だけが生き残ってしまい、悲しみに暮れる。ユーウ
ェイも同じように、生まれてくる子供のことを楽しみにしていた。自宅でピアノ
教師をしていた妻を思い、ピアノを見る度に深い悲しみに包まれる。自分が彼ら
の立場だったらどうするだろう、と思わずにいられない。どうやって立ち直れば
いいのだろう。
シンミンは彼と一緒に行くはずだった沖縄へ1人で旅に出る。沖縄の風景が美し
く、時折聞こえてくる日本語が何となく嬉しい。彼はグルメノートというものを
作っていて、シンミンはそのノートの通りに料理を食べていき、ノートに印をつ
ける。シンミンの1人旅の様子は悲しい。彼と行くはずだった沖縄、彼と食べる
はずだった沖縄料理。どんな気持ちで旅していたのだろうか。
ユーウェイは妻のピアノの教え子の家を訪ね歩く。前払いでもらっている月謝を
返すためだ。そのシーンは悲しい。皆「先生が好きだった」と言ってくれる。あ
る少女がピアノを弾いていて、ユーウェイは何の曲かと尋ねる。少女はショパン
だと答える。「私も先生もショパンが好きでした」と言う、その時のユーウェイ
の何とも言えない表情が切なくていい。この映画は「喪失と再生の物語」とは言
えないのかもしれない。最後の最後までシンミンとユーウェイはこれからの生き
る道を見出せないままだからだ。それでも、ラストのバスの中のシーンはとても
いい。トム・リン監督の映画を観るのはまだ3作目だが、しみじみと心に残る。


良かったらこちらもどうぞ。トム・リン監督作品です。
九月に降る風
夕霧花園



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6 コメント

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それぞれに遺族が居て悲しいですね。 (ウラジーミル・アスポン)
2022-08-15 11:08:20
数台の車による多重衝突事故に巻き込まれるなんて嫌ですね。
いくら安全運転を心がけていても、他の人がマズい運転をすると、
その巻き添えを食らいますね。

事故にあったそれぞれの人に、それなりの人生があるけど、
ここでは、婚約者を失ったシンミンと、妻を失ったユーウェイの二人に焦点をあててますね。

「合同葬儀」というのは、事故にあった人まとめての葬儀という事ですよね。
同じ事故に遭った人達同士で集まり悲しみを共有しやすい状況にあるんですね。

尚、婚約者を失ったシンミン・・・結婚式の招待状も出来上がっていたんですね。
結婚式場はキャンセルでもある程度お金はとられますね。その点もむなしいです。
シンミンと行くはずだった予約済みの沖縄旅行はキャンセルせず、一人で行く事にしたんですね。
どうせ、休みも取ってあるから、行かないのも無駄ですよね。
開く予定だったというレストラン・・・もう物件を借りてるのだとしたら…
そのあたりのキャンセルや無駄が出る事もむなしいですね。

ピアノ教師だった妻が亡くなった事で、妻の教え子の家に
前払いの月謝を返却するシーンは、悲しいですね。
返す責任があるとがいえ、亡くなって悲しいのに、現実的な処理をするのが…。
又、その際、教え子とかが出てきて「皆先生が好きだった」と言ってくれるところは救われる点ですね。

残された人達がどう悲しみを乗り越えていくかという映画なのでしょうね。
なかなか喪失感をうめる事は難しいけど、何とか辛抱しているんでしょうね……。


話とは関係ないですが、予告映像を観ましたが、妻を亡くしたユーウェイが、冴えない顔のような気がします。
目はショボンで、少し頭髪が薄くなりかけてるような気もするし、顎も足りないし…
ここであんまりイケメンだと現実感が無いでしょうかね。
でも、一般人でも、もう少しかっこいいような気がするのですけどね……。
Unknown (杏子)
2022-08-15 18:12:19
>ウラジーミル・アスポンさん
コメントありがとうございます。事故でどのくらいの人が犠牲になったのかわかりませんが、
婚約者を亡くしたシンミンと妊娠中の妻を亡くしたユーウェイが主役になってますね。
本当に痛ましい事故です。合同葬儀は、事故で亡くなった人たちまとめての葬儀ですね。

シンミンとユーウェイはあまり感情を顔に表さないので、余計に悲しいです。
人はあまりに深い悲しみに遭遇した時、時間が止まったようになって、
茫然自失になるのかもしれませんね。

シンミンの沖縄への1人旅のシーンと、ユーウェイが妻の教え子を訪ね歩いて
月謝を返すシーンは本当に悲しいです。
事故さえなければ、2人とも今頃幸せだったのに。
静かに流れていく映画ですが、良かったです。

ユーウェイ役のシー・チンハンは確かに冴えない感じですね(笑)
でもこの人、台湾でとても人気のあるバンドのメンバーだそうです。
おじさんバンドですが。
この役はイケメンじゃない方が合っていると思います(笑)
余談ですがシンミン役のカリーナ・ラムは日本人の血が1/4入っています(^-^)
Unknown (tibikuro2014)
2022-08-18 19:56:09
こんばんわですにゃ、杏子さん。
映画見ましたにゃ、アマゾンプライムで。
すごく好きな感じでしたにゃ。
国が違うと仏教も、少し違うようですが、
西洋の考え方より、共感するような気がしましたにゃ。悲しみのあとに、光を見つける、
見つけてしまう二人の表情にわ、
生きるということのフシギを感じましたにゃ。
教えてくれてありがとですにゃ。
ひとりでわ、見つけられなかったですにゃ。
Unknown (杏子)
2022-08-18 22:51:42
>tibikuro2014さん
コメントありがとうございます。いい映画でしたよね。
私は香港、台湾、中国の映画をよく観るのですが、お葬式のやり方が
日本の仏教と少し違うなー、と思います。

でも主役の2人ははっきりとした道筋を見つけてないですよね。
これからどんなふうに生きていくのかな…という感じで終わりますね。
それもまたいいと思いました(^-^)
Unknown (tibikuro2014)
2022-08-19 14:11:25
続きですにゃ。
チビクロもあのラストいいと
思いましたにゃ。 
後半になると、こわばっていた表情が
ゆるやかになっていき、
俳優さんすごいなと思いましたにゃ。
Unknown (杏子)
2022-08-19 15:04:23
>tibikuro2014さん
ラスト良かったですね。この映画は主役2人の
表情で物語を描写していくような感じですね。
華流映画はこんな感じのが多い気がします。
チビクロさんの心に響いてくれたのが嬉しいです、

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