常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

秋はふみ

2021年10月14日 | 読書
読書の秋である。夜の長さに、本を2、3冊寝室に持ち込むが、2、3ページ読んで眠気がさしてくる。漱石の句に

秋はふみ吾に天下の志 漱石

というのがある。明治の文豪には、国家や国民に役に立つ、という強いモラルがあった。漱石の心情は「自由な書を読み、自由なことを言い、自由な事を書く」というのであったが、その根底には「世の中に必要なもの」という大前提があった。そうした心意気が詠まれた句だが、それに比して自分の現状ははなはだ心もとないものである。

漱石の句に因んで、『草枕』のページを開いてみる。唯一、本棚の漱石全集はほるぷの復刻版で、出版されたときのままの豪華装丁である。明治40年1月1日、春陽堂から発行されている。小説というには、筋のない話が続く。旅の絵描きが泊まった九州の温泉で、絵描きとその宿の娘那美さんとの会話が面白い。

「あなたは何処へ入らしつたんです。和尚が聞いて居ましたぜ、又一人散歩かって」
「えゝ鏡の池の方を廻って来ました」
「その鏡の池へ、わたしも行きたいんだが・・・」
「行って御覧なさい」
「絵にかくに好い所ですか」
「身を投げるに好い所です」
「身はまだ中々投げない積りです」
「私は近々投げるかもしれません」

絵描きは宿で持っていった英書を読んでいたが、日本語で読んでくれとせがまれてしぶしぶ読む。小説はぱっと開いたところに何が書いたあるか、それが面白い読み方と那美さんに教えている。その通りに『草枕』を読んでみると、なるほど面白く感じる。会話の部分には、ユーモアがあり、落語を聞いているような雰囲気がある。『草枕』は漱石40歳の作品。『猫』の執筆中、2週間ほどで書き上げた。テンポも話題も、漱石の小説の特徴がてんこ盛りの作品である。
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