国鉄民営化とは何だったのか? 工事費増大の責任から新幹線総局降格 | 鉄道ジャーナリスト加藤好啓(blackcat)blog

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福祉と公共交通の視点から、鉄道のあり方を熱く語る?
blackcat こと加藤好啓です。
現在の公共交通の問題点などを過去の歴史などと比較しながら提言していきます。
随時更新予定です。

顕在化した、工事費の増大問題

昭和39年10月の新幹線開業を目指して、建設が進められていましたが、新幹線の建設資金の不足問題が表面化していきました。

これに際しては、当初から不足することが目に見えていたが、最初から2,000億円以上の予算では国会で通らないからと言ったという話が、新日本鉄道史等で書かれていますが、本当にそうなのでしょうか?

多少なりとも低めに見積もった部分はあるかと思いますが、実際には工事費の増大、特に土地買収の金額の大幅増加などが原因と言えないでしょうか?

国鉄の所有地であっても耕作を認めていたので、使用権に対する補償を要したくらいであり、用地の買収は難航し、特に都市部は困難を極めた。
 当初146億円の予定であった用地費は38年4月(1963)598億円と改めねばならなかったくらいであり、用地提供に付帯して、いろいろの工事が要請されることも多かった

新日本鉄道史(上) 1 東海道新幹線建設の決定まで  から引用

 

とありますが、東海道新幹線の場合、戦前の弾丸列車構想に基づき、用地の買収がかなりの部分で進められていましたが、戦後は旧所有者への返還要求なども起こっていて、特に神戸市付近などはそうした返還した土地も多かったので結果的に山側を通過するルートになったということを聞いたこともあり、実際国鉄用地であっても耕作を認めていたことで、使用権が発生と言ったことも容易にあったと思われるわけです。

そう考えると、当初から倍増するであろうと言うことを十河総裁が完全に把握していたかは不明であり、むしろ問題を大きくしないために、十河氏にしてみれば、多少の増加は起こりえるものの、そこまで拡大するとは思ってなかったのではないかと考えてしまいます。

 

総局の工事費算出の不作為行為が主たる原因?

新幹線の工事費算出に関しては、監査報告書に詳しく報告がなされていますが、所要工事費に見込み違いが生じた原因として、新幹線総局がきちんと精査するべきであったにも関わらず、工事費は変動しやすいものであるとして、抜本的な検討をしなかったことが問題であるとしています。
以下に、昭和37年度監査報告書の中から
監委事第50号昭和38年7月2日 特別監査報告東海道新幹線工事債不足問題 から引用します。
Ⅱ 所要工事費に見込み遣いを生じた原因

 1 所要工事費に見込み違いを生じた原因新幹線問題の以上の経過から、そのよってきたる原因を考察するに、  最近まで所要工事費の見込み違いについて 明確化する ことなく推移した経緯のなかにその核心があるものと考える。

(1) 経過でも明らか なように、見込み違いを検討し明確化する機会は、世銀説明、37年度予算補正および38年度予算要求ならびに幹総経第1547号による調査の時期 と数次にわたってあった。特に 、37 年度予算補正および38年度予算要求の時期には、用地交渉、設計協議も 急速に整い工事は全面的、加速度的に進ちよくし、幹線工事局提出の所要工事費額調書も確実性を増しており、また、工事は最盛期を迎えて予算の帰すうが工事の成否を左右する重大な段階に当面していたので、この時期こそ、新幹線工事の所要工事費を明確化すること について必要性を認識し態度を決すべき好機で、あったものと判断する。
新幹線監査報告書 455P
実際に、工事費の拡大に関しては昭和37年3月の世界銀行借り入れの資料を作成した時点では、新幹線建設基準なども決定しており、かなりの精度で予算額も算出できていたのですが、ちょうどこの年の5月3日、常磐線での多重衝突事故【三河島事故】が発生し、安全対策などが言われる中で、予算の減額を恐れて明確な予算の算出を行わなかった節があります。
このようにして問題を先送りしていった結果、さらに問題が大きく成ってしまったという風に読み取ることが出来ます。
再び、ここで監査報告書から引用してみたいと思います。
当初計画は、さきにも述べたとおり現東海道線を参考にしつつ机上で数量、単価を想定し、  調査、測量、設計を行なうことなし画一的、概算的に積算を行なったものであり、したがって、新幹線着工後の地価の高騰による用地費の増加、設計協議による経費の増加、設計の細部確定に伴う経費の増加、賃金、物価の騰貴に伴う 経費の増加等は積算に折り込まれておらず、工事着工後の所要工事費に対してはそもそも過少なものであった。このような工事費の原始的不足が事実上の制約となり、総局長である担当常務理事の パッサブル(無難)な態度 と相まって所要工事費の見込み違いを 明確化する機会を失わせしめたものと判断される。
新幹線監査報告書 457P
事なかれ主義で、してきたことそして、さらなる問題は総局として担当常務理事の判断で進められたという点(すなわち情報が、なかなか総裁まで上がってこなかった)ことも問題視されるかと思います。
監査報告書では、新幹線総局の業務運営のあり方自体に問題があったのではないかと指摘しています。

すなわち、新幹線建設という大事業であり、スピード感を持って業務を行うと言う点で、新幹線総局で一括して業務を行わせることは、意思決定の早さも相まって良いのですが、こうした権限の集中は時には暴走を招くことになります。

かつての大日本帝国陸軍の「関東軍」が勝手に暴走したように、新幹線総局も、国家事業である「新幹線建設」に対して、多少のことは許されるのではないかという雰囲気があったのではないかとしています。
その辺を改めて、監査報告書から引用したいと思います。
総裁の意思決定は事実上執行における意思決定の域をこえ、 国鉄の業務運営のすべての根源であるがごとき姿となっていた。 しかもその実際は、国鉄の組織および業務量の膨大であることに起因しておおむね執行の補佐としての常務理事によって取り仕切られており、新幹線の業務運営についての独断専行はこの国鉄のあり 方が極端な結果を生んだこ とによるもの と判断される。
新幹線監査報告書 459P
とあるように、担当常務理事に任せる形となり、それが新幹線の業務運営に関して独断専行をもたらせたと言えると明言しています。
新幹線総局解体
新幹線総局は、本来であればしかるべき時期に予算不足などを精査して、発表する機会があったにも関わらず、そうしたことをきちんと把握しなかったことから、監査報告書にも書かれていたように、「新幹線の業務運営についての独断専行はこの国鉄のあり 方が極端な結果を生んだこ とによるもの」と判断されたとして、新幹線総局を廃止し、本社の内局【新幹線局】として再編されることとなりました。
以下に新幹線総局と新幹線局の組織図をアップさせていただきます。
日本国有鉄道 昭和38年10月号の図を参考に作成
新幹線総局、担当常務理事が全てを掌握するため独断専行が起こりやすい
 
総局ではなく、本社の一部局として再編
担当常務理事がいなくなり新幹線局長は、一般職員の中から選抜されることとなり、総裁に新幹線建設に関する情報は一元化されることになる。
 
続く
 

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