明帝国の大艦隊を率いて遠くアフリカまで航海をおこなった宦官、鄭和の物語。
 やったことのスケールが大きいだけに、スケールの大きい男だ。船乗りがサメに食われる事態に感心したり、たまに雑ともいう。鄭和の大航海には明帝国内部の永楽帝と建文帝の叔父甥の権力争いが深く関わっていて、武力で皇位を簒奪した永楽帝が権力の正統性を広める動機のあったことが分かった(漫画で分かっていいのかは謎)。ますます天武天皇を連想する。自称世界の中心である中華(その象徴である皇帝)が自らに自らを承認させることでは飽き足らず、周辺扱いしている地域に承認を求めるのだから、永楽帝の名声への飢え渇きは尋常ではない。両頬が矢で射抜かれて窪んだ彼の恐ろしい容貌も、それに重ねられているのかもしれない。

 本作の鄭和はそんな自己皇帝感の低い皇帝に仕えながら、建文帝と娘を匿って安全な場所に逃がそうとしている。面従腹背じゃなくて、鄭和には時に皇帝の命令よりも優先させる筋が一本通っている。相手が皇帝でも海賊でも彼にとっては約束は約束なのだろう。
 冒険の仲間として巨大なサメ「大鮫魚」が出てくるタイマン張ればダチなので一度鄭和とやりあってからは、鄭和の邪魔をするスパイからダイオウイカまで巨大な牙で切り裂いていく。誰よりも頼もしい。
 宦官漫画の正ヒロイン大鮫魚さんのお通りだ!

 倭寇の黒巾党は鄭和についていくことを決めて、なんで残る人間が集団自決した?その論 理がおぼろげにしか理解できず、同じ日本人なのに鄭和よりも遠い存在に思えることがあった。彼らには帰る場所がなくなったから、鄭和に世界の果てまでついてくるってことだよな……。
 そう考えると、宦官の去勢と黒巾党の故郷破壊は通じるものがある。

シルクロード憧憬〜鄭和 大艦隊を率いて西へ ナショナルジオグラフィック
永楽帝〜明朝第二の創業者 世界史リブレット人038 荷見守義