このところいろいろなことを考えているせいか、マンガを読んでいても考えさせられたり昔の感情がこんな風だったなあと思ったりすることが多いのだが、昨日「ブルーピリオド」の山口つばささんが肩入れしている帯を読んでふと手に取った乃木坂太郎「夏目アラタの結婚」(小学館、ビッグコミックスペリオール連載)が面白く、昨日のうちに既刊の単行本を5巻を読了し、朝スペリオールを買いに行って最新話を読んだ後、AmazonKindleの単話販売で単行本未収録分を読了して、連載に追いついた。

 

 

 

 

連続猟奇殺人の被告で一審で死刑を宣告されている女性(品川真珠)と、ヤンキー丸出しの児童相談所職員(夏目アラタ)が獄中結婚する、という話で、謎の多い真珠の心を開かせて事件の謎を明らかにしていくとともに、アラタが真珠を知っていく、また真珠は非常に操作的なキャラクターで弁護士をはじめ多くの人を味方という名の虜にしていくのだが、アラタはそうはならず、「理解したい」という気持ちで接近している。

 

この話は本当によくできていると思うが、一つの理由はモブキャラがほとんどいないということだろう。最初は軽いアシスタント的な存在だと思っていた同僚の「桃ちゃん」が単独で真珠と面会するほど関わってしまったり、拘置所で出会った死刑囚の文通マニアのような男がすごく重要な立ち位置を占めていたりして、モブっていう名の人間はいないんですよ、みたいな感じになっている。被虐待児であった真珠やいわゆる問題児であったアラタにはある意味普通の人間にはあまり見えてこない人間の深層を見る力みたいなものがあって、そのあたりに引き摺り込まれるところがあったり、またアラタについ思い入れしてしまったりするような要素があったりするのだろうと思う。

 

アラタの真珠に対する感情もなんというか普通の恋愛のように変化する部分もあってその辺りも面白いなと思う。「理解したい」という気持ちはあるけれども、自分に覆い被さってくるような「重さ」を感じると白けてしまったり、その辺りは私もとてもよくわかるので、どこまでが駆け引きでどこまでが心情なのか、もともと死刑になるものと諦めていた、というよりなっても構わないと思っていた(と思われる)感情がどう動き、そのために何をしようとしているのか、まだわからないことが多くて先を読みたい気持ちにさせてくれる。こういう感じの作品でそんなに面白いと思ったことはないのだが、話の作りというかドラマメイキングとキャラの立て方そしてもちろん絵の描写にある意味演劇的というか肉体性ないし身体性があって、その辺りが心にドスンとくるものがあるのだなと思う。