syrup16g『Les Misé blue』感想&レビュー【 底辺からの青い上昇気流】 | とかげ日記

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●底辺からの青い上昇気流

1993年に結成された男性スリーピースロックバンド「syrup16g」(シロップじゅうろくグラム)。今回の記事でレビューする新譜は彼らの11枚目のフルアルバムになります。

アルバムタイトルの『Les Misé blue』(レミゼブルー【フランス語】)は直訳すると「青い賭け」ですが、19世紀に発表されたヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』や、それを原作にした舞台や映画の名前を由来とした言葉遊びだと思う(たぶん)。ググってみると、「レミゼラブル」は「惨めだ」「極貧状態の人々」「社会の底辺にある人々」という意味らしい。

また、バンド名の由来については、Wikiからの情報ですが、"syrup"は、「ぬるいままで好きな音楽を好きなだけやろうっていう、そういう意味を込めて…」 といった理由でフロントマンの五十嵐隆さんが名づけ、"16g"は、バンド名を検討していたミスタードーナツでのコーヒーのシロップの量が16gだった事に由来するそうです。

しかし、このバンドの音楽は甘さたっぷりの砂糖菓子のようにはいかない。軽快なファッションとしては聴けなく、思考の心臓に届くような表現の重さがある。少しも浮わついたところがないのだ。シリアスな現状認識は比較的最近のバンドでいうとamazarashiと共通する面があるかもしれない。また、五十嵐さんのボーカルはハンサムな美声だが陰があり、その陰が切実で魅力的だ。

彼らの音楽は、初期の頃から世界観(芸風)が確立されており、どの曲を聴いてもメッセージを伝えようとする意思を感じる。辛い(からい,つらい)現実の中での甘やかな16gのシロップのようなそのメッセージの磁力に引き寄せられるファンも多いだろう。僕は過去の彼らの曲である「Reborn」を聴いた時、救いのあるライフソングの説得力を感じ、ファンの数が多い訳を実感した。



本作収録の#12「Maybe Understood」の歌詞が示唆的だ。

「救済は無理か 音楽ですら
 ロックンロールの 成分は自己愛かい」



彼らは多くのリスナーを音楽によって救済してきたと思う。だが、「救済は無理か」と自らを糺(ただ)して、おごり無く音楽と向き合っている。ロックのずるさを糺してもいるのだ。

ともかく、ファッションミュージックを軽やかでオシャレに着こなしている層には届かない音楽なのである。(かくいう筆者の僕は音楽をファッションとしても、心の深層まで届く作品としても聴きたい二兎を追う者だ。)

ここまで書いてきたとおり、シロップ16gは特定の層に切実に響く高水準のロックバンドである。しかし、彼らは僕にとって"自分のバンド"ではないし、彼らの曲は"自分ごと"にもならない。


彼らの音楽と出会うタイミングが良ければハマったかもしれない。そういうタイミング次第なことが音楽を聴いているとよくある。音楽との出会い方は、人との出会い方に似ているのだ。

中村一義の3rdアルバム『ERA』(2000年リリース)は、生きる意味という曖昧なテーゼに思い悩んでいた僕の思春期に強い力を与えてくれた。まさしく、出会うべくして出会う音楽だった。現在、『ERA』に初めて触れたとしても、メッセージはここまで刺さらなかっただろう。


もしくは、自分の音楽リスナーとしての器(うつわ)の形が、彼らの音楽を受け止められるものではなかったのかもしれない。人間の器は生まれた時から大体その形が決まっていて、変化することもあるが、変化しないこともある。器が違うとどんなに頑張って聴いてもハマるのは無理だ。

個人的には、神聖かまってちゃん笹口騒音さん(うみのて、太平洋不知火楽団など)のシリアスさの中にあるユーモアが好きだ。シロップ16gもシリアスで誠実さを感じるが、そこにユーモアを感じられない。(僕と器が違う方にはユーモアを感じる方もいるかもしれない。)

ユーモアを感じるとしたら、至るところで韻を踏んでいるところだろうか。ユーモアというよりは、修辞の力量かもしれないが。本作においても、「独身で It's not over / 孤独死で It's not over」(#4「Don’t Think Twice (It’s not over)」)や、「診断書 死んだっしょ」(#6「診断書」)というラインなど枚挙にいとまがない。こういった詞作りの工夫も面白い。

そして、シロップ16gのシリアスさと、シリアスであっても揺らがない意志の強さは本作からも感じる。

ニルヴァーナの二枚目のアルバムのように、オルタナティブな無骨さとキャッチーさが両立する魅力あるアルバムになっている。

シロップ16gは音楽と歌のどちらもリスナーに伝えたいのだろう。轟音や音色が魅力的なギターロックとしての愉悦も、この無骨さでこそ響くメッセージ性のある歌も伝えたいという意思を感じる。彼らの音楽には伝えようとする必要性(≒切実さ)があるのだ。「届けよう」にとどまらずに「伝えたい」まで踏み込んだ熱さがあるように僕には思えて、そんな姿勢が好きだ。

アルバムの始めの#1「I Will Come (before new dawn) 」。ギターを翼にして低空で飛行するかのようなボーカルが、夜明け前(before new dawn) の静けさにも似た叙情を醸し出している。

最後のタイトル曲#14「 Les Misé blue」もボーカルが低空飛行する曲だ。しかし、一曲目よりも上向きになっており、そこに希望が感じられるようになっている。ぬるいままの14曲の音楽紀行は、僕等に16グラムの希望を与えたようだ。



Score 7.9/10.0


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