
●安心(だけどいつまでも新鮮)サザン印
サザン、10年ぶり16作目のフルアルバム! 待たせただけあって、10年前の前作『葡萄』('15)のような充実作に仕上がっています。
前々作『キラーストリート』('05)はビートルズ『アビーロード』に範を取ってストイックに音楽を追求した作品だったが、本作は『キラーストリート』と言うよりも『葡萄』寄りであり、融通無碍でポップな"うた"が並んでいる。(『キラーストリート』は好きなアルバムなんだけど、少しかたくなで硬い感触がする。まあ、そこがロックでカッコ良いのだけど。)
フロントマンの桑田佳祐さんはアルバム名の由来について以下のように語っている。
「これまではずっと面白いことを言おうとしてきたけど、今回一番シンプルに伝えたいことを考えてみたら、『心より感謝申し上げます』ということだった。(中略)我々はどうしても誰かの力を借りないとやってこられなかったから。サポートミュージシャンやオペレーター、エンジニア、スタッフたちが必ずレコーディングにもライブにもいてくれて、バンドをアシストしてくれる。おかげで自分はある程度自由と余地を持ってやれている。だから今伝えたいのはキャッチコピー的な気の利いた言葉ではなく、シンプルなメッセージでした」
(参照:「桑田佳祐がApple Musicラジオ番組で音楽談義、サザンオールスターズ10年ぶりの新作アルバム発売日に」『ナタリー』2025.3.18. https://natalie.mu/music/news/616086 )
改めてバンドについて説明すると、サザンオールスターズ(Southern All Stars)は、1977年結成、日本の5人組ロックバンド。バンド編成としてはパーカッションのパートのメンバーがいる(野沢秀行さん。愛称は「毛ガニ」)ことが特徴的か。他にギタリストの大森隆志も結成時から在籍していたが、2001年に脱退。
[収録曲]
1. 恋のブギウギナイト (フジテレビ系ドラマ「新宿野戦病院」主題歌/ユニクロ「年末祭・新年祭」TV CMソング)
2. ジャンヌ・ダルクによろしく (TBS系スポーツ2024テーマ曲)
3. 桜、ひらり
4. 暮れゆく街のふたり
5. 盆ギリ恋歌 (DAM「Singing」2023 Special Project CMソング)
6. ごめんね母さん
7. 風のタイムマシンにのって
8. 史上最恐のモンスター
9. 夢の宇宙旅行
10. 歌えニッポンの空
11. 悲しみはブギの彼方に
12. ミツコとカンジ
13. 神様からの贈り物
14. Relay〜杜の詩 (ユニクロ「ヒートテック」TVCMソング)
サザンオールスターズといえば、キャッチー(王道J-POP)の泰斗、遊び心(ナイスでお茶目な実験性)あるバンドの筆頭、そして日本の心のふるさと(老若男女の心のオアシス)。70年代から現在まで、各々の年代で活躍し、ヒットを飛ばしているから、彼らが世代という方は幅広くいそうである。
J-POPに邪(よこしま)でスケベなフィーリングを持ち込んだ人気バンド。でも、本人たちは全く悪い人ではなくて、特にメンバーの桑田佳祐さんと原由子さん夫婦には過去にゴシップや醜聞がなく、彼らが夫婦でい続けるのは、一途な純愛の過程と結果だとすら思う。不倫を思わせる歌(「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート」)はあるけれども、曲上だけの不倫であって桑田さんと原さんの絆は深いと思わせられる。そんな彼らの関係性が好きだ。
そして、邪で露悪的な曲も多いからこそ、歌で訴えかける純で尊い心情が映える。詐欺師が人をだます時に嘘だけではなく本当のことも話に混ぜてだましやすくするのと同じパターンで、サザンも邪な曲や歌詞が多いからこそ、尊い人間性や「本当」のメッセージが伝わってくるのだと思う。
歌詞もそうだが、音楽を歌声で軽快にサーフし、むずむずするように楽しく愉快なサザンの音楽に軽薄性を感じる方もいるかもしれない。そう、彼らの音楽と姿勢には、上質なチャラさがある。だが、そのチャラさゆえに、奥にある人間的で誠実な視点をより感じ取れるのだ。「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」なんて曲名の歌も過去にあるが、普段ふざけた曲も多くやっているからこそ説得力を持つのだ(ワイルドで不埒な男が時に見せる優しさのような)。
歌と音楽への熱く鷹揚でまっすぐな想いがどの作品にもパッケージされている。名曲「真夏の果実」には、それらを特に感じる。サザンは他者や時代を茶化しているだけではないのだ。そこには、熱量がある。
今回、新譜が出るとのことで、サザンのオリジナルアルバムをひと通り聴いてみた(多作なので大変だった)。
過去の曲も音色は古く感じる面もあるが(シンセや打ち込みドラムは特に)、その古さも新鮮だし、今聴いても音楽的な豊かさを確かに感じ取れる。有頂天なブギー、甘じょっぱいバラード、ほろ苦いブルース、あるいはワールドミュージックに接近したり、手を変え品を変え鳴らされる音楽は、どれを取っても一級品だ。
そして、チョコレートのアソートのように、アルバム収録のそれぞれの曲に個性的な音楽性(フレーバー)がある。温泉ではなく音泉に入っているような心地よさがあるが、その音泉も硫酸塩泉、炭酸風呂、ひのき風呂、ジャグジーなど様々な種類を楽しめるのだ。桑田さんがフジテレビの番組『音楽寅さん』で多様な音楽を取り上げていたことからも分かるが、桑田さんの音楽のルーツと引き出しの幅広さは唯一無二である。
歌詞の内容もラブソング(純愛ソングもあれば下ネタソングも数多い)から社会風刺まで幅広い。僕の中では、社会風刺ソングの二代巨頭は、桑田さんと笹口騒音さん(うみのてetc.)のお二人である。両者共に鋭利かつユーモアのある風刺をしている。歌を通して社会を良くしていきたいという、世直しへの気概すら感じる。
初期のアルバムでは、『人気者で行こう』('84)と『KAMAKURA』('85)が抜群に面白い。特に『KAMAKURA』は、日本の大衆音楽が歌謡曲からJ-POPに移り変わる過渡期に生まれた、早すぎるJ-POP版『Kid A』(Radiohead)だとすら思える。それほどサウンドの創意工夫が達人級なのだ。
サザンは松任谷(荒井)由実と並んで「歌謡曲」から「J-POP」へ橋渡ししたアーティストの代表格だ(特に荒井由実の音楽は「ニューミュージック」と呼ばれた)。彼らの洒脱なアイデアと垢抜けた演奏が日本の音楽をモダン化した。歌謡曲の情念的なエモさと、J-POPのかぶくような自由さ、どちらが良いかは別だが、サザンや松任谷さんが日本の大衆音楽にもたらした影響力は特筆すべきものだ。なお、サザンについてJ-POP的なムズムズするような愉悦は『Young Love』('96)以降に感受できやすい。
全てのアルバムについて述べるのは文章量がかさんでしまうので、僕が一番好きなアルバム『さくら』('98)(前述『Young Love』の次のアルバム)について述べる。
音楽性の幅広いカラフルなアレンジが桑田の歌を引き立たせ傑作だ。感覚的でイメージに富んだ歌詞、桑田節のメロディ、シンコペーションを多用した流れるようなリズム、日本語を英語っぽく歌う歌唱。桑田さんの個性と革新性はいつでもスゴい。
この『さくら』、音楽的にめちゃ楽しいし面白いのだ。音楽を楽しみたいというリスナーの本能をくすぐり、刺激する。「マイ フェラ レディ」はシモの方向にえげつない曲だけど、芳醇な響きのホーンがふくよかに匂い立つ美味な音楽。フォークともブルースともつかぬ「私の世紀末カルテ」は夜に酒を飲んで落ち込みながら聴くと気持ち良く堕ちていける。アルバムのトリを飾る「素敵な夢を叶えましょう」の圧倒的名曲感のスローバラード。そして、なんといっても「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート」。耳当たりが良くて頭の中でトロけるような極上メロディに酔う。こんなに優しい不倫ソングは他にないだろ…。
そして、今作である。
リード曲の#3「桜、ひらり」からして良かったね。サウンドの質感や歌メロが安心サザン印で心地よく聴ける。
コブクロ「桜」の「桜の花びら散るたびに」や、森山直太朗の「さくら(独唱)」の「さくら さくら ただ舞い落ちる」の歌詞など、桜が散る光景に自分の想いを重ねるのは日本的な感性だと思う。あの世に行った人を偲びつつ、次代に意思を伝えようとする、植物のサイクルのような良曲。
次代に伝えるといえば、アルバムラストを飾る「Relay〜杜の詩」もまさにその曲想を用いている。Relayとはリレー。僕らはバトン(杜=森=神宮外苑=自然豊かな社会)を未来の世代に繋ぐのだ。
他にも、#10「歌えニッポンの空」では、「やがて生まれ来る君へ/素晴らしい明日/夢見て欲しい」という歌詞もあるし、次の時代へ「伝える、残す」は本作に通底するものなのかもしれない。もう、僕も41歳で人生折り返し地点なので、彼らのメッセージに寂寞とした親近感を覚える。
また、#13「神様からの贈り物」は、歌詞にもあるように極上のメロディ・ラインの曲だが、先人のスターやミュージシャンへの尊敬の念を歌っている。自身も才能(ギフテッド=神様からの贈り物)豊かなサザンは、才能あふれた先人からの音楽のバトンを確かに受け取った。そして、サザンからのバトンは、どこかにいる人気者や日陰者が意識的もしくは無意識的に受け取っているだろうと思うのだ。
他の曲も駆け足で見て(聴いて)いこう。
ディスコチックなサウンドに桑田さんの歌唱がエロく絡まる幕開けの #1「恋のブギウギナイト」。
#2「ジャンヌ・ダルクによろしく」は、アメリカンロックの往年の名曲のような鷹揚としていて視界の開けたロックンロールソング。
#4「暮れゆく街のふたり」はしっぽり湿る名バラード。サウンドのウェルメイドな質感が尊い。
#5「盆ギリ恋歌」。日本の古典的な音楽もモチーフにしているのにディスコチックなところが斬新だ。
#6「ごめんね母さん」。サザン的露悪ユーモアが哀しく光る曲。
#7「風のタイムマシンにのって」。まさに「風」のように爽快に駆け抜ける原由子ボーカルの良曲。
#8「史上最恐のモンスター」。音数の抑えられた不思議な感触の一曲。深刻に歌っているような、ナンセンスなことを歌っているような、歌詞のとらえどころのなさが面白い。
#9「夢の宇宙旅行」。ポジティブで温かく、華やかに開けた響きの音楽に胸がすく。
#11「悲しみはブギの彼方に」。ブギの彼方に悲しみがあるところがサザンならではだよね。
#12「ミツコとカンジ」はトレンディ・ドラマのような恋愛模様にやきもきする、歌謡色が強い曲。
親しみやすく強固な歌メロが情景を描き、曲をドライブさせていく感覚をどの曲にも抱く。サザンも桑田さんも全然おとろえてもないし、枯れてもいない。彼らの音楽家としての矜持をみた思いだ。素敵でフレッシュな曲を届け続けてくれるサザンにひとりのリスナーとして、「サンキューソーマッチ!」(よーよーが一番伝えたいシンプルなメッセージ)したい。
Score 8.9/10.0
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