「山口百恵のアンチテーゼとしてデビューした松田聖子」に対してのアンチテーゼとしてデビューした、歌姫・中森明菜のボーカルスタイルは、総じて振り幅がかなり大きいことなのではと思う。
ムラがありすぎるのだ、音圧に。
低音とかピアニッシモなところと、エンジン全開部分との差がかなり大きく、ダイナミックスありすぎで、エンジニアは大変だろうなと同情する。
リミッターでどんくらい切るのか、コンプはスレッショルドをどれくらいに設定し、レシオをどれくらいにするか、ノイズ処理は?
空間演出は??
難しすぎる課題のオンパレードという感じ。
いいところ、個性をどれくらい、どうやって活かすかということだなぁ。
暗く、無意味なほど緊張感溢れる「LIAR」は、彼女が自殺未遂事件を起こす直前に発表されたシングル。
なので、それまでの、例えば「難破船」とか同系統のシングルとは毛並みがやや違う気がしてしまう。
というのも、この曲における中森明菜というキャラは、それまでになく生っぽいのだ。
等身大的な言葉とか、言葉の紡ぎ方、そういうものが生々しく、神々しく、ごく控えめに溢れている。
そこに、それまでの代名詞である「お得意の過剰自己演出」は皆無。
なので彼女のシングル曲の中ではかなり地味で、知名度が低いと思う。
涙を堪えながら歌っているような声も演出ではない気がする。
想像の域を出ないのだが、おそらく、この曲に精神的にシンクロしすぎたのではなかろうか。
エヴァではないが、プラグ深度が深くなりすぎたというか。
そういう観点から聴くと、この曲はすごく痛々しいし、そしてすごく恐ろしい。
恐ろしいものに聴こえてしまう。
耳を閉じてしまいたくなる。
イントロのピアノの連打が魔界の鐘の音に聴こえてしまうほどだ。
そういう意味で、この曲の孕む要素には、なんとなくアンタッチャッブルなものが多々ある気がして、沈鬱な気分になってしまう(笑)。
良い曲なんだけどね。