スンジョがハニを置いて旅に出てから、毎日が覚えることがいっぱいで寂しささえあまり感じなかった。
それでも、二人が夜を過ごす部屋に入ると、急に寂しさが訪れて涙が流れて止まらなかった。
今日もいつものように夜着に着替えようと準備をしているときに、門の扉が軋んで開く音が聞こえた。

「こんな時間に誰が来たのだろう・・・・」
頬を流れる涙をぬぐって、部屋の戸を開けると正面玄関で誰かが話しているのが聞こえた。
きっと、まだ店で片づけをしていた使用人が対応をしているのだろうと思い、部屋の戸を閉めかけると桶に湯を入れに行っていたジュリが戻ってきた。

「何かあったの?」
「それが・・・・」
旅に出ているスンジョが率いる商団に何かあったのかと不安になってきた。
「宮殿からジュング様がいらして・・・・」
「宮殿から?」
「今、旦那様と奥様がお話をされているのですけど、ヘラ様がお産みになられたヘジョン様に何かあったみたいです。」
何があったのか気にはなったが、ジュリに体を拭いてもらうために着ている物を脱ごうとしたが、ジュリの視線が今日は特に気になった。

「なに?」
「いえ・・・・」
人に体を拭いてもらうことになれたハニは、いつもは背中から体を拭くジュリが、いつまで経ってもハニの正面から動かなかった。
「どうしたの?」
「少し痩せられましたね。」
「痩せた?」
「16歳を過ぎれば、少しずつ大人の身体になりますが、ハニ様は子供っぽい体系でしたからね。」
「どういう意味?胸が小さいって言う事?」
「小さくても大丈夫ですよ。ご懐妊されましたら、奥様とよく父の出る乳母を探しますから。」

「ご懐妊って・・・まだ心の準備ができていないから・・・」
「その・・・・実は・・・ちらっと聞こえたのですけど、皇位継承順位2番目のヘジョン様が、重い病気になられて・・・助からないかもしれないようです。ヘラ様の二人目のお子様は女の子なので、万が一へジョン様に何かあったら・・・」
「よくない事は言わないで!へジョン様は、まだ1歳になられたばかりよ。」

「皇位継承者は直系と決まっていますが、途絶えさせてはいけないから王族の血が濃いハニ様のお子様が男の子でしたら・・・スンジョ様も遠縁ではありますが・・・」
そんな事は今まで考えた事もなかった。
ジュリが言う事も分からないわけではないが、もし自分の子供が産まれたらそんな大役を担う事など出来るはずがない。
「で・・・・ヘラ様は、今でもスンジョ様がお好きで、若奥様に対してあまりよろしい感情がなくて、もし若奥様がご懐妊されていたら、何かされるかもしれないと・・なので、ぶしつけにもお体に変化がないだろうかと見てしまいました。」
咄嗟にハニは両手で胸を隠したが、ジュリの役目はハニの付き人だけではなく体調管理も仕事になっているのだと思った。
「私もお隣のお部屋で休んでいますが、さすがに耳を澄ませてお二人の行っていることまで聞いておりませんので・・・」
聞くジュリも、聞かれるハニも秘め事について他人に話すことには抵抗があったが、ハニは先王の孫でありスンジョの母は先王の遠縁。
二人が婚姻を結び子供が産まれ、その子供の性別によっては事情が変わる。
恥ずかしくても自分の勝手な考えで、時によっては秘密にしておくこともできない。

「結婚して初めての夜だけで・・その後は旅の準備でスンジョさんが遅くまで起きていて、私は先に眠ってしまったので・・・たぶん懐妊はしていないと思います。」
「そうですか・・・それでは、明朝になったら奥様から聞かれるかもしれませんが、正直にお話しください。」
ジュリは湯で濡らした手ぬぐいを持って、ハニの背中に回った。
ヘラの話を聞いて、何か急にスンジョに会えない寂しさよりも不安がじわじわと湧き上がってきた。



人気ブログランキング