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【書評】「評判」はマネジメントせよ:企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略

「Chief Reputation Officer」という役職(職能)をご存じでしょうか。欧米ではすべての企業ではないにしろ、すでに重要な役職として位置づけられています。そうした国々でも、人材についての著作に比べると「評判」に関する書は少なく、本書はその中でも貴重な一冊です。

この新しい職種を検索してみると、日本語で解説しているサイトは見つからず、いまだにその役職はもとより職種の存在自体が認知されていないことがわかります。

なにかの製品を購入あるいはサービスを利用しようとするとき、インターネットで情報検索することは誰にとっても日常的な行動です。

もっとも多いのは、おそらく価格比較(一括見積)サイトで調べることでしょう。そして、二番目に多いのは、本書のテーマである「評判」なのです。

たとえば飲食店を探すとき、価格より料理の味、サービス(接客態度)、インテリアや雰囲気といった、その店の善し悪しなど評判をチェックします。

また書評は、本のテーマとその内容を知るためなのですが、本自体または著者の評判を確認するためですし、アマゾンのレビューチェック、数あるクチコミサイトを利用する行為もその評判を知ることが目的です。

評判とひと口にいっても、そこにはいくつかのレイヤーとレベルが存在するでしょう。日本語では、世評、風評、風聞から風説などの言葉。さらには、人によってはイメージもそれらに含めるかもしれません。

また個人として考える評判、性差による評判の違い、年齢や世代、地域、業界、社会全体など、さまざまなレイヤーとレベルで評判の受け取り方が異なるということも、このテーマへの取り組みを困難なものにしています。

【書評】「評判」はマネジメントせよ:企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略

本書に推薦文を寄せているコトラー教授は、“重大な危機に陥る企業は後を絶たない。”として次のように述べています。

“企業は通常、評判の管理をCEO(最高経営責任者)と広報部に委ねている。広報部の仕事の大部分は、会社の評判の構築ではなく擁護と保護である。しかし、企業は今、会社もしくは社員のあらゆる言動、あるいはあらゆる不正行為が自社の評判に影響を及ぼしうることを認識するようになっている。今日のあらたなソーシャルメディア時代において、影響は社会および社員の言動を超えて広がっていく。企業に関するありとあらゆる良い話し、悪い話しがソーシャルメディア上で取りあげられ、世界中に広まりうる。さらに悪いことに、インターネットを利用する誰もが、その気になれば企業の評判を傷つける誤情報や偽情報を発信できる。企業が評判の構築、管理、保護の方法を学びたがっていることもまったく驚くにはあたらない。”

さらに、“企業のCEOと取締役たちは今、会社の評判が最も価値ある資産の一つであるという認識を強めている。”とつけ加えていることを忘れてはいけません。

「見えざる資産」としての評判

著者のディアマイアーは、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院が新設した「CEOパースペクティブ・プログラム」の学術部長に就任。その後10年間のリサーチ、コンサルティング、講義の成果から誕生したのが本書です。

このプログラムでは、世界的な大手企業のCEOを講師として招いたセッションが大きな魅力です。CEOたちは業種にかかわらずみな個性が強く、自己の経営スタイル、経営目標、仕事の流儀などそれぞれが異なります。経済状況や市場環境にもよりますが、たとえばイノベーション、既存事業の堅守、収益率の向上、市場シェアの拡大など経営課題もその時々のCEOにより異なるものとしてあげられます。

しかし一方では、共通している課題の上位は一致していました。それは、2つあります。

第一は「人材」、第二が「評判」。しかもCEOの数人は、評判こそが自社にとって最大の差別化要因でなによりも重要な資産だと語ったことが、著者のディアマイアーにとっては意外なことだったと振りかえっています。

とくにCEOはメディアにさらされる機会も多く、CEOの評判=企業や製品の評判と直結しているだけに、より敏感に「評判」に反応します。

さて、米国大手PR企業のエデルマンによる信頼性に関する調査(Edelman Trust Barometer)によれば、企業の評判の決定要素として透明性と信頼度がその製品の品質を上回っているそうです。

しかし著者のディアマイアーは、評判は企業の戦略的な課題というよりは、業務レベルの問題であるという誤った認識がいまだにあると指摘しています。

原題は、“Reputation Rules: Strategies for Building Your Company’s Most Valuable Asset”です。

「評判」をめぐる課題

【書評】「評判」はマネジメントせよ:企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略

企業の不正行為や社員による不祥事など、評判の失墜やダメージは大事になればその存続自体を揺るがしかねない大きな問題です。

正規雇用・非正規雇用にかかわらず、気軽な気持ちからソーシャルメディアに投稿したコンテンツが、あっという間に拡散して炎上してしまう。企業はその対応に右往左往し、記者会見までして陳謝せざるをえない状況となり、企業の評判を大きく損なう事態を私たちはくり返し目にしています。

そうした事態に陥れば、消費者からの信用力低下、当局による厳しい監視、業界による規制の強化さらには法的な処罰にいたるまで、現在の経済的な損失だけではなく、場合によっては賠償や保障にかかる費用、さらには信用やダメージからの回復にかかるまで膨大なコスト負担がのしかかります。

評判リスクの高まっている「4つの要因」

著者は、今日の評判に対するリスクがかつてないほど高まっている理由について、「4つの主要因」をあげています。

(1)メディアの拡張・拡大と多様性

インターネットの普及、さらにはソーシャルメディアの登場は、だれでもが情報発信・共有することを可能にしました。それは、情報がまたたくまに世界中に知れわたる社会です。

それに加えてニュースの速報性も高まり、24時間ニュース専門チャンネル、オンラインのニュース専門サイトなどが熾烈な競争を繰り広げています。

それは、もはや情報(評判)をコントロールすることが困難であり、常時あらゆる衆人環視の目にさらされていることを意味し、もはや何かを隠蔽しようとしても不可能で、どこかでかならず明らかにされる(ほころぶ)結果となります。

したがって、透明性や説明責任が否応なく求められる社会です。

(2)グローバル化による副産物

今日では、NGO・NPOの組織や団体の活動が活発で、広く社会にも認知され受容されています。

かつて、企業に厳しい監視の目や規制などの圧力を加えるのは、政府の各種機関や業界団体でしたが、こうしたさまざまな民間組織や団体も加わり年々その存在感を高めています。

当局や業界団体が甘い対応をすれば、こうした民間団体の存在は企業だけではなくメディアにも圧力を加えます。これら団体の発言や行動を無視することは、企業や製品にとって致命的な結果をもたらします。

(3)世代間格差という問題

世代論は、今日では古いという人もいます。そうはいっても、実際には世代間格差は現に存在しています。それは生まれ育った時代とその環境が違えば、その感性や考え方さらには価値観や世界観も大きく異なります。

近年の若い世代、それもジェネレーションY世代以後は、世界的な環境問題や社会的課題の解決に関心を強めています。フェアトレードやエシカル消費に象徴されるように、企業にとってのCSR、コーポレート・フィランソロピー、コーズリレイテド・マーケティング、SDG’sなどの視点と考え方、またそれに基づく企業活動は一時的な流行現象やポーズではなく、企業理念や目的として戦略的で継続的に実践することが不可欠となっています。

(4)マーケティング戦略の大転換

今日、顧客にフォーカスした製品やサービス、それに対応した組織体制を構築する重要性をどの企業も深く理解しています。

つまり、製品やサービスを売るという20世紀的な発想から脱却し、顧客体験からその抱えている課題解決(ソリューション)を提供するという21世紀的な思考への転換です。

それは自社の都合にもとづいた製品やサービスを市場に投入するこれまでの戦略ではなく、顧客を深く理解しときには自覚のない願望やニーズに寄り添う姿勢が求められているということです。

このテーマについては、2017年に紹介したクリステンセンの「ジョブ理論」の書評エッセイでも詳しく述べたので、あわせてご参照をいただければより気づきやヒント得ることができると思います。

評判についての「3つの誤った思い込み」

【書評】「評判」はマネジメントせよ:企業の浮沈を左右するレピュテーション戦略

著者は、良い評判をマネジメントするには、それまでの誤った思い込みを捨てることが必要だと語ります。

第一は、受動的な姿勢であること。

良好な商慣行の実践、顧客、社員、サプライヤーに正しく接することで自ずと育まれるという思い込み。

もちろんこうした考え方や企業姿勢は必要です。しかし、そうした自然に醸成されるはずあるいは受け身的な消極さでは評判のマネジメントに成功するのは困難であると。

第二に、専門家に「一任すべき」と考えていること。

問題が生じた場合、法務部や広報部あるいは外部のアドバイザーに任せればよいという思い込み。

評判のマネジメントは、経営トップが負うべきである。なかでもさまざまなメディアとの折衝、外部(第三者)との密なコミュニケーションという点において、PRパーソンの果たす役割はもっとも重要なことはあらためて述べるまでもありません。

こうした専門部署や専門家は評判のマネジメントのプロセスにおいて貴重ですが、その主体となるべき存在は経営者であると。しかし実際には、そうした部署に一任(丸投げ)している企業が大半であることを指摘。

第三に、常識的な判断が正しいという考え方と行動を取ること。

これは第一とも関連するのですが、良い評判は直接的なパートナー、顧客、サプライヤーによって自然と形成されるという思い込み。

しかし、実際には外部の各方面の存在ーーメディア、圧力団体、社会活動組織、規制当局、政治家などーーが該当します。

したがって、業務や意思決定とは逆方向へ動かざるをえないこともあり、そうした決意と柔軟性ある対応力が求められることになります。そのためには、さまざまな外部(第三者)の視点と観点に立つ能力を必要とすると。

「評判」における<3つのPhase>

積み木と人形

本書は、約400ページ全10章で構成され、各章のテーマに基づいたすべてが実際の企業の「評判」をめぐるケーススタディとなっています。

各章で取りあげられているのは、世界的に誰でもが知っている企業です。各章ごとのテーマでの評判を核にして記述しながらも、そのテーマに関連する他のいくつかの企業についても言及しています。

目次を見ればわかることですが、最初から章を追って順に読まずとも、読者の関心や興味のある章(テーマ)だけを読むことができます。さらに各章ごとの最後にはポイントとしてまとめられていますので、それらを読むだけでもいくつもの気づきとヒントが得られるでしょう。

理論的かつ体系的に書かれてはいませんが、本書の価値が損なわれることはなく、その内容から学びあるいは引き出せることは多いはずです。

私の読後の印象では、評判マネジメントには下記のように大きく「3つのPhase」で考えるべきことがわかります。

(Phase1)評判の「醸成と構築」

(Phase2)評判の「維持と強化」

(Phase3)評判の「損傷と修復(回復)」

上記は、本書を読んで私が勝手に区分けしたもので、ほかの人であればそれぞれのPhaseごとに日常の業務に役立つように工夫し、さらに詳細に分類するでしょう。

実際に評判マジメントに取り組むとなれば、どのPhaseにおいてもより詳細かつ綿密なプランを用意しなければなりません。上記3つのPhaseでは、とくに<Phase1>にいたるまで社内での根回し、調整、合意形成から組織作りまでには多大な時間と労力を求められます。

また、どこの段階でも重要なのは「損傷と修復(回復)」、つまり危機への対応や対処ということです。これはPhaseの段階にかかわらず、いつどこでも突発的に発生しうることで、そうした視点から判断すればPhase3がもっとも重要なことで、本書でもそれを中軸に記述されています。

この「損傷と修復(回復)」を目的とした対応に巧拙があると、ダメージを修復するどころかそれをさらに大きくし、修復が完全に不可能になってしまうほどの分かれ道ともなります。

本書では評判マネジメントのために、「信頼レーダー」(第1章)「評判の地勢」(第2章)、「セカンド・サークル」(第3章)などのフレームワーク(著者は「ツール」と呼ぶ)を提唱しています。

第8章は、評判マネジメントの体制作りに検討または取り組んでいる人たちにはとても参考になります。

事例として、P&Gの元CEOデボラ・アンダーソンの先駆的な「先見型課題事項管理チーム」(Anticipatory issue management=AIM)を紹介し、同チームは“大人数の必要はなく数人でも大きな効果発揮しうる。”と述べています。

さらに、良好な評判マネジメントの戦略的なシステムとして「コーポレート・レピュテーション・カウンシル(CRC)」の設置や導入、組織体制の仕組みを推奨しています。これは組織横断的な構成員(各部門のトップ)による体制で、著者の経験ではCOO(最高執行責任者)または、それに相当する責任者の直轄に置かれるのが理想であると述べています。

本書で、個人的にもっとも印象深いのは「アーサー・アンダーセン」(第9章)のケースです。

世界5大会計事務所(Big5)といわれるほどの企業でしたが、エンロン事件の発覚後には企業として「損傷と修復」をすることもできずに企業自体が消滅してしまいました。

「評判マネジメント」とその可視化

男性とパソコン

人が良い評判を獲得あるいは構築するには、長い年月と労力が必要とします。しかし、それを失うときは一瞬のことで企業でもそれは同様です。

今日では、テクノロジー進展のおかげで評判を可視化することも可能です。本書で提示されている評判マネジメントのフレームワークだけではなく、そうした最新のテクノロジーツールも合わせて活用することで、さらに効果的な評判マネジメントを推進できるでしょう。

本書を読んで私たちが心得ておくべきこと。

どのようなヒト・モノ・コトであれ、その評判を少しでも高めたいと願わない人はいません。それ以上に、いまのそれを毀損する要素や可能性をできるかぎり取り除いて未然に防ぎたいという意思があるはず。

これまで評判管理は、どちらかというと業務管理の一環と考えされてきました。しかし、評判マネジメントは「業務管理」ではなく「資産管理」という認識が不可欠であると本書を読んだことで理解するでしょう。

経営理念や戦略的な仕組みあるいは企業文化と一体化させて浸透・機能していなくてはならないということを、本書を通じて誰でもが肝に銘じておく必要があります。

実際の企業事例は、社内において評判にたずさわっているPR部門で、日々の業務に対応しなくてはならない人たちにはきっとおおいに参考となる1冊となるはずです。

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梅下 武彦
コミュニケーションアーキテクト(Marketing Special Agent)兼ブロガー。マーケティングコミュニケーション領域のアドバイザーとして活動をする一方、主にスタートアップ支援を行いつつSocialmediactivisとして活動中。広告代理店の“傭兵マーケッター”として、さまざまなマーケティングコミュニケーション業務を手がける。21世紀、検索エンジン、電子書籍、3D仮想世界など、ベンチャーやスタートアップのマーケティング責任者を歴任。特に、BtoCビジネスの企画業務全般(事業開発、マーケティング、広告・宣伝、広報、プロモーション等)に携わる。この間、02年ブログ、004年のSNS、05年のWeb2.0、06年の3D仮想空間など、ネットビジネス大きな変化の中で、常にさまざまなベンチャー企業のマーケティングコミュニケーションに携わってきた。