40年目の「時をかける少女」 角川映画祭にて | MCNP-media cross network premium/RENSA

MCNP-media cross network premium/RENSA

音楽(Music)・映画(Cinema)・小説(Novel)・舞台(Play)…and...

出会いの連鎖-RENSA-を求めて。

メディアの旅人はあなたです。

1983年6月20日有楽町東商ホール。
 
すべてのはじまりはこの日だった。
 
映画「時をかける少女」の試写会に当選。
すでに角川の新人女優原田知世の存在は知っていた。
 
先行して放送されたテレビドラマ「セーラー服と機関銃」で主演デビュー、さらに続く「ねらわれた学園」でも主人公を演じ、いよいよ満を持しての映画デビュー作品だった。
 
大林宣彦監督のことはもちろん知っていた。
話題になった商業映画デビュー作「HOUSE/ハウス」から注目されていたし、先に公開された薬師丸ひろ子主演「ねらわれた学園」でもメガホンをとっていて、この作品はスクリーンで観ていた。
 
でも「転校生」はまだ観ていなかった。
 
他にも山口百恵主演「ふりむけば愛」や当時自分がファンだった片平なぎさ主演の「瞳の中の訪問者」も大林宣彦監督作品だった。
 
これらの作品は後に大林監督作品特集のオールナイト上映でまとめて観ることになるのだけれど、映画「時をかける少女」はあくまでも原田知世ありきでの鑑賞だった。
 
オープニングの「A MOVIE」のキラキラから始まり、エンディングの原田知世の笑顔のドアップまで、食い入るようにスクリーンに没入した。
 
自分が初めて日本映画の魅力に目覚めた瞬間でもあった。
 
あの日から、まさに貪るようにたくさんの日本映画を観た。
メジャー系のプログラムピクチャーからATG系のミニシアター作品まで、もちろんアニメーションやドキュメンタリー作品も観たし、果ては日活ロマンポルノから場末の成人映画まで、観られる作品は片っ端から観た。
 
思えば角川映画第1回作品「犬神家の一族」を地元の映画館で立ち見で観た時が、東映まんがまつりや東宝チャンピオンまつり以外の日本映画に接する最初だったかもしれない。
 
ただしこの時も同時上映だった山口百恵の「春琴抄」に、歌手デビューが決まったばかりの榊原郁恵が出るのを知ったからという理由だった。
なお本来の併映作品は「恋の空中ぶらんこ」だったが、地元では「犬神家の一族」の同時上映に「春琴抄」が組まれていた。
 
そもそもの原点はハリウッドの超大作だった。
「タワーリング・インフェルノ」で初めてスクリーンで外国映画に接し、翌年の「ジョーズ」から映画館に足を運びだすも、地方都市で観られるロードショー作品は限られていた。
 
高校時代にはアイドルにはまり、お小遣いはレコードやアイドル雑誌に消えていった。
1978年の「未知との遭遇」から丸3年間は映画館のスクリーンでは映画を観ていなかった。
 
1981年から学生時代を東京で過ごし、その年の7月八王子東宝で数年ぶりに観た映画が「エレファントマン」だった。
 
そこから少しずつ映画館通いが再開されたけれど、夏休み等で地元に帰ったときに観ることが多く「ねらわれた学園」は満員の地元の映画館の最前席で見上げながら観た…同時上映は近藤真彦主演「ブルー・ジーンズ・メモリー」だった。
 
1982年も日本映画で観たのはアニメーション作品数本と実写映画は「セーラー服と機関銃 完璧版」「装いの街」及び「汚れた英雄」「伊賀忍法帖」という角川映画二本立てだけだった。
 
そして1983年を迎える。
 
7月「時をかける少女」は「探偵物語」の併映としてロードショー公開される。
あえてそういうのは「探偵物語」の話題性が大きかったからだ。
「セーラー服と機関銃」の大ヒットで一躍人気アイドル女優になった薬師丸ひろ子は、その後大学受験を理由に女優活動を休業する。
 
その間「セーラー服と機関銃」のロングヴァージョンとして「セーラー服と機関銃 完璧版」を上映し話題性をつなぎ、無事大学進学を果たした薬師丸ひろ子が女子大生女優としていよいよ復帰する。
 
「セーラー服と機関銃」では主題歌も歌い大ヒットしていて、この「探偵物語」も薬師丸ひろ子が主題歌を歌うことが決まっていた。
しかも共演が絶大な人気を誇る名優松田優作という背景も大きかった。
 
かたや「時をかける少女」は新人女優原田知世の第1回主演作品であり、同じく主題歌も歌うことが決まっていたけれど、薬師丸ひろ子ほどの話題性はなかった。
 
2本の作品が公開されると夏休み期間ということもあって大ヒット。
当初は「探偵物語」が観客動員をけん引していたけれど、やがて「時をかける少女」の評判がうなぎ上りとなり、最終的には9月までのロングランを支えたのは「時をかける少女」の方だったというのが定説になっている。
 
自分もこのロードショー期間に都内と地元で通計10回程度は観ている。
この頃はシネコンのような指定席入れ替え制ではなく、一度入場すれば何度でも同じ映画を観ることができたのも大きかった。
 
あれから40年目を迎えた「時をかける少女」をこうしてまたスクリーンで観られることが素直にうれしい。
 
来年夏にはついに公開から40周年というメモリアルイヤーとなる。
そのタイミングで何か企画があるのかどうかはまだわからないけれど、すでに大林宣彦監督が鬼籍に入り、相手役の高柳良一含めてこの作品に出演した多くがすでに引退し、もしくは第一線から退いている。
 
そんな中でも主演の原田知世は今もなお第一線で女優としてあるいはアーティストとして活動を続けていて、一足早くこの夏に芸能生活40周年を迎える。
 
映画「時をかける少女」はその後も特集上映などで何度も観てきたし、テレビなどで放送されるたびに目にすることもある。
個人的にはDVDソフトも持っているのでいつでも観られるのだけれど、こうしてスクリーンで再会するのは20年以上ぶりかもしれない。
 
一時は全てのシーンでの台詞を覚えているほどだった作品。
改めてスクリーンで観てみたら、ちょっとした新たな発見や忘れていたシーンなどもあって、何度見ても飽くことのない作品だと再認識した。
 
今回の上映期間ではタイムテーブルの関係で一回しか観に行けないのが残念だけれど、また来年もどこかのスクリーンで作品と再会できるような気もする。
 
この作品の中で語られた台詞の一部が、今でも自分にとって大切はものになっている。
 

深町との別れを前に戸惑う和子に彼が告げる言葉。

 
 「どうして時間は過ぎていくの?」
 「過ぎていくものじゃない…時間はやってくるものなんだ」
 
時間は過ぎていくのではなく、やってくるもの。
 
この概念は40年経った今もなお自分の心に残っている。
座右の銘とはまた違うのだけれど、どうしても後ろ向きになりそうな日々の中で、ときどき自分に言い聞かせること。
 
だから「時をかける少女」とまたスクリーンで会える。
 
そう思いながら、あの頃の自分の思いを胸に、またやってくる時間と向き合いたい。
 
そう、いつも青春は時をかける。
 
「時をかける少女」(1983/東映)
 
 監督:大林宣彦
 原作:筒井康隆
 脚本:剣持亘 大林宣彦
 
 原田知世 高柳良一 尾美としのり 津田ゆかり 内藤誠
 入江若葉 岸部一徳 根岸季衣 上原謙 入江たか子
 

 
 
 
 
 
未来からやって来た深町が、自分の出会った人たちにすべてテレパシーを送り、自分に都合のいい記憶を植え付けるという設定。
 
改めてオープニングのシーンからずっとその一瞬一瞬の表情をチェックしてみた。
なるほどな…と思わせる繊細な演出が確かにそこにあった。
 
公開当時に話題になった深町役の高柳良一の棒読み演技が、実はあえて大林監督が意図してそうさせたことが明らかになった。
 
確か洗濯したハンカチを和子が吾朗のもとに返しに行くシーンでの尾美としのりを大林監督が「ジョン・ウェインみたいでかっこいい」といっていた記憶がある。
 
あとは和子たちのクラスの同級生役だった津田ゆかり。
角川のオーディションで渡辺典子に次ぐ準グランプリながら、その後数作で第一線を退いてしまったけれど、もう少し彼女の女優としての成長を見てみたかった。
 
同じくクラスメイト役で印象を残すメガネっ子小河麻衣子。
続く「天国にいちばん近い島」でも共演、その後も大林作品以外でも活躍も活動休止していたようだが、最近になって小河万以子名義で活動再開したらしい。
 
2018年の年末に18年ぶりに尾道を訪れて「時をかける少女」のロケ地を歩いたとき、一部のロケ地における映画の残像と現実のあまりのギャップに唖然とした。
あの日、もうここを訪れるのはやめようと決心した。
 
あれからさらに3年以上の月日が流れたけれど、映画の残像はいつまでも色あせずにスクリーンの中にあった。