カテゴリ:前立腺がん
◆◆ 前立腺癌取扱い規約(第5版) ◆◆
昨年、12年ぶりに『前立腺癌取扱い規約』が改訂されました。
患者さんというより、 泌尿器科医にとっての前立腺がん診療のバイブルといっていいでしょう。
この規約は、 日常の泌尿器科医の診療における、 前立腺がん患者さんの所見、診断、治療方法、
この規約に準ずることで、共通のルールで討議することが可能となります。
同一の基準で集計・統計を行い、
バイブルといいましたが、
前立腺がんに対する診断治療で、共通の言葉、基準がないと、
例えば、前立腺がんといっても、組織(病理)所見は、様々です。
前立腺生検や全摘標本から得られた組織所見を、 各施設が勝手に診断してしまうと困ります。 前立腺がんが正しく診断分類されているのか、 基準となる指標が必要です。 また、治療の効果を施設間で比較検討できません。
今回の規約は、第5版です。 2022年の5月に改訂されました。
前回の改定は、2010年ということですから、 実に12年ぶりの改訂となります。 泌尿器科医は、この規約をもって、前立腺がんの共通の言語を知ることができます。
日本泌尿器科学会、日本病理学会、日本医学放射線学会の3つの学会が協力して改訂した規約となります。
改訂され新たに記された主な事項として、
1. 病理学的事項の全面的な見直し 組織の分類の見直しとグリソンパターンをもとにしたグレードグループ分類という新しい分類方法
2. G8スクリーニング 高齢者個々の機能評価 → 治療選択
3. 腫瘍マーカー(その他)として、 マイクロサテライト不安定(MSI)検査 BRCA遺伝子検査 がんゲノムプロファイリング検査を追加
4. MRI検査によるPI-RADS分類を記載
5. 骨転移の解析ソフトとして、BONENAVI、VSBONEを追記
6. 骨治療という項目が追加され、骨治療の分類や骨修飾薬の記載方法を記した。
少し解説すると、
1. 病理学的事項の全面的な見直し 組織の分類の見直しと、グリソン分類をもとにしたグレードグループ分類という新しい分類方法 生検や手術で得られた組織は、各施設の病理医によって、あるいは外注で、がんの有無が診断されます。 がんといっても、1種類ではありません。 病理医の診断基準が施設毎で異なれば、どんな前立腺がんなのかがわからなくなってしまいます。 腺がん、神経内分泌がん、導管がん、肉腫など、前立腺がんは1種類ではないのです。 WHO分類というのがあって、2014年に発表されたものがあります。 今回のものは、これに準じた改訂です。 グリソン分類に加えて、グレードグループ分類という新しい分類方法が紹介されています。 グレードグループ分類すると、予後、治療効果が予測されます。 前立腺がんの診断時に、このグレードグループ分類もしておくほうがいいというわけです。
2. G8スクリーニング
前立腺がんは、高齢者に多い疾患です。 高齢者での治療選択は簡単ではありません。 高齢者を個人個人で機能評価して、標準治療ができるかどうかを判断するツールです。 (参考) 2020/04/26 化学療法(抗がん剤治療)について その7 高齢者はどうするか? https://www.mag2.com/archives/0001605001/2020/ この配信に、詳しく記載しています。 興味のある方は、参考にしてください。
3. 腫瘍マーカー(その他)として、マイクロサテライト不安定(MSI)検査、BRCA遺伝子検査、がんゲノムプロファイリング検査を追加
遺伝子検査を行うことで、個人個人に適した治療、がん組織それぞれに適した治療を選択できる可能性がでてきました。 プレシジョンメディシンとか個別化医療という治療につながる可能性があります。
4. MRI検査によるPI-RADS分類
MRIで得られた所見の評価法にこのPI-RADS分類を用います。 MRIでがんの疑いが強ければ、前立腺生検を勧めることができます。 また、MRIで疑われる部位を選択的に生検して、効率的に、前立腺がんをみつけることができます。 疑いがない部位は、生検する必要がありません。 最近は、MRIでの所見を、超音波画像に重ねて、標的生検ができるようになりました。 また、PSAがグレーゾーン(4~10)などの場合、生検をしないことの根拠に、このPI-RADS分類が使われ出しています。 PI-RADS分類で、前立腺がんの可能性が低ければ、生検はやめましょうといえるかもしれません。 MRIでがんの疑わしい部位があるかどうかの判断基準になります。
5. 骨転移の解析ソフトとして、BONENAVI、VSBONEを追記 骨転移の診断は、以前は、放射線同位元素の取り込みをみて、骨転移疑いの診断をしていました。 骨転移の診断、そして個数などは、主観的な判断でした。 これらの骨転移解析ソフトにより、より客観的に骨転移の診断ができるようになりました。 なんとなく、 ソフトで、骨転移診断を行うことで、主観を取り除いた病状の把握がしやすくなります。 このソフトで、骨転移の数、骨転移の診断が、客観的になりました。
6. 骨治療という項目が追加され、骨治療の分類や骨修飾薬の記載方法を記した。
骨治療の目的(骨転移に対するものなのか、骨粗しょう症に対する治療なのか) 骨修飾薬の投与 放射線療法(X線照射、ゾーフィゴなど) 手術療法
使用薬剤に関して、 ランマーク、ゾメタ、ビタミンD、カルシウム製剤、ゾーフィゴ などの記載を行う。
以上の変更点以外に 1.臨床的事項 病歴記載法、臨床所見記載法、臨床病期記載法、リスク評価、治療方法記載法
2.病理学的事項 組織分類と診断基準、前立腺材料に関する取扱いおよび検索方法
3.治療効果判定基準 臨床効果判定基準、前立腺癌組織学的治療効果判定基準
の基本的な事項が詳細に解説されています。 この規約により、 患者さん個々の臨床所見、臨床診断、治療方法、病理学的事項を、一定の基準の下に記載、判定することができます。
5/7の電子配信では、 『病理学的事項の全面的な見直し』 について解説しています。 https://mypage.mag2.com/ui/view/magazine/163839150?share=1
興味がある方は、是非参考にしてください。
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